第28話 離れていくヒロイン達
【佐藤悠斗視点】
翌日の朝。
登校して早々、昨日の映画館での件と不良の件をそれぞれ謝ろうと思い、俺は秋菜と夏美の姿を探していた。
秋菜はまだ登校していなかったけど、夏美は既に登校していたので急いで声を掛けることに。
「な、夏美っ」
名前を呼ぶと、夏美がゆっくりとこちらを振り向いた。
記憶の中にある、声を掛けたらいつも笑顔を見せてくれた夏美の姿はそこにはなく、夏美は無表情だった。
「…………おはよ、悠斗」
「お、おはよう、夏美」
昨日と変わらず素っ気ない……いや、昨日よりも冷たい印象を受ける。
「き、昨日はあの後、大丈夫だったか?」
「大丈夫だったよ。心配してくれてありがとう」
夏美がこれで話を切り上げようとしていたので、急いで言葉を続ける。
「じ、実は夏美に謝りたいことと弁明したいことがあって……まず謝りたいのは、昨日不良に絡まれた時に俺が急にあの場から夏美を残して離れてしまったことについてだ。本当にごめん」
「別に気にしてないよ」
夏美は元々、悠斗を責めるつもりはなかった。
あの状況なら、逃げたくなるのも仕方ないと思っていたからだ。
「それで弁明したいことって言うのは?」
「き、昨日、実は俺があの場を離れたのはさ、逃げ出したからじゃなくて警察を呼びに行ったからなんだ」
実際にあの後、悠斗が警察に助けを求めたのは事実であった。
でも、それは意図してではなく、あくまでも偶然。
たまたま逃げた先に交番があって、血相を変えた様子の悠斗を見て警察が何事かと思い事情を聞き出し、その後駆け付けたというのが真実であった。
しかし、少しでも自身の信頼回復の為にと、そのことは敢えて伏せる悠斗。
「……そうだったんだね。ありがとう」
あの時、完全にパニック状態だった悠斗を見ていた夏美は、今の話はおそらく嘘だろうと察していたが、もう終わった事なので敢えて触れなかった。
「そ、それでさ、夏美。昨日は結局遊びに行けなかったから、今日の放課後どっか遊びに行かないか。不良の件と、その前に夏美と少し言い合いになっちゃった件のお詫びとして好きなの奢るからさ」
「ごめん、遠慮しとくね」
「えっ……」
夏美は一瞬の躊躇いも無く、即答した。
「今日の放課後は先約があるから」
「な、なら、他の日は?」
「他の日も無理かな」
「ど、どうして? 既に約束してるからか?」
「ううん、まだ。これからしようと思ってるところ」
「だ、誰と……?」
そう尋ねると夏美は一瞬視線を外して、とあるクラスメイトの方を見てから言うのだった。
「千歳君と」
……はっ?
千歳?
「な、なんで夏美が千歳と……?」
「別にいいでしょ。じゃあ私、もう行くから」
そう言って、夏美は千歳のところへと向かって行く。
千歳に声を掛けた時の夏美は笑顔を浮かべていた。
これまでずっと、
千歳……お前、夏美と一体何があった?
何をした……?
わけがわからず呆然と立ち尽くしていると、秋菜が登校してきた。
ひ、一先ず、今は秋菜に謝るのが優先だ。
「あ、秋菜」
「……悠斗君。何か御用でしょうか?」
これまでの態度からは考えられないほど、今の秋菜は素っ気ない態度だった。
「その……先週の土曜日、嘘をついて約束を反故にしてしまった事を謝りたくて。本当にごめん。本気で反省してる。もう二度としない」
「……そうですか。わかりました」
よし、わかってくれた。
心優しい秋菜なら、きっと許してくれるって信じてた通りだ。
「それでさ、秋菜。今度はちゃんとお詫びとして秋菜の観たい映画を奢るから、今日の放課後に映画を観に行かないか?」
「申し訳ありませんが、遠慮させていただきます」
「……えっ」
先ほどの夏美と同じように、一瞬の迷いもなく秋菜は即答した。
な、なんでだよ……今度は俺の観たい映画をわざわざ我慢して、秋菜の観たい映画を観るってちゃんと言ったのに……
「ど、どうして……?」
秋菜が悠斗の申し出を一蹴した理由。
それは、秋菜が見抜いていたからに他ならない。
悠斗が、本当は綾小路先生の作品を観たくないけど秋菜の機嫌をとる為に仕方なく観ようと思っていることを。
せっかくの映画……それも、ずっと楽しみにしていた作品を、実は内心では観たくないと思っている悠斗と一緒に観たいと思わないのは至極当然のこと。
それに、秋菜にはもう既に……
「一緒に観に行きたいと思っている方が他にいますので」
「えっ……だ、誰と?」
ま、まさか……
「千歳君です」
ま、また千歳……なんでだよ……
だって、夏美も秋菜も俺のことが……
「申し訳ありませんが、少しお話ししたい方がいますので私はこれで」
そう言って、秋菜は千歳のところへと行くのだった。
い、一体なにがどうなってるんだ……!?
夏美だけじゃなく秋菜まで……
千歳、お前……マジで二人と何があった!?
何をしやがったぁ!?
◇◆◇◆◇
【水瀬秋菜視点】
今の悠斗君が、あの時の……私が好きになった悠斗君ではないとは確信しています。
ですが、もう一つの可能性に関しましては……おそらくそうなのではと思ってはいますが、まだ確信しきれてはいません。
ですので、その確信を得るために……
「……おはようございます、千歳君」
「おはよう、水瀬さん。どうかしたの?」
「実は、千歳君にお願いしたいことがありまして」
私は千歳君にお願いをするのでした。
「もしよろしければ、今日の放課後……一緒に映画を観に行きませんか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます