第27話 御影夏美は再び確信する

【御影夏美視点】


 もしかしたら、そうなんじゃないかなって……思っていはいた。

 

 今の悠斗が、私が好きになった悠斗とは別人であると確信した直後。

 なら、あの時の悠斗は今どこに……? そう思った時、彼の姿が自然と思い浮かんだ。


 キッカケは、前に篠宮さんの勉強会で勉強を教えてもらった時のこと。

 彼の教え方と、その後に言ってくれた言葉が……あの時の悠斗のものと全く同じだったから。

 最初はただの偶然だと思っていたけど、それにしてはあまりにも共通点が多すぎたから、偶然だと結論づけることができなかった。

 しかし同時に、彼があの時の悠斗なのだと確信することもできなかった。


 ──でもそれも、もう過去の話。


「……ねぇ、千歳君」

「なに、御影さ……えっ」


 名前を呼ばれこちらを向いた千歳君の顔に、私はゆっくりと手を伸ばしていく。

 最初は驚いていた千歳君だったけど、嫌がる様子はなかったので、私はそのまま彼の顔に優しく触れた。


 その刹那……


 ドクン……ドクン……と、私の心臓が早鐘を打ち始め、顔が急速に熱を帯びていくのを感じた。

 あの時と……初デートで悠斗と手を繋いだ時とまったく同じ。

 

 そしてその瞬間、私は確信したのだった。

 千歳君があの時の……私が好きになった悠斗なのだと。


 それに、さっき不良男を撃退した時の千歳君の動き……あの男も驚いていたように、前に私を助けてくれた時の悠斗と完全に同じだったし、それと勉強会での件と今の私の気持ち……これだけで確信するには十分すぎる理由だった。


「……やっぱり。そうなんだね」

「?」

  

 千歳君は不思議そうに小首を傾げる。

 いきなりこんなこと言われても、意味不明だし当然だよね。


 それから、私は千歳君の目を真っ直ぐ見ながら改めてお礼を伝えることに。

 今回だけじゃなく、前回のことも含めて改めてお礼を。


「……千歳君。また・・、私を助けてくれて本当にありがとう」

「また……? 俺、御影さんを助けるのは今回が初めてじゃ……あ、もしかして前に勉強を教えた時のこと?」

 

 その事を言ったわけではなかったけど、でもあの時もすごく助けられたから間違ってはいなかった。


「……うん、そうだよ」


 どうやら千歳君には、悠斗として生きていた時の記憶が無い。

 これまで私と一緒に過ごしてきた時間や思い出を覚えていないのは悲しいけど、でも私はちゃんと覚えている。

 それに、思い出ならこれからたくさんまた一緒につくっていけば良いだけのこと。

 ううん、絶対にたくさんつくる……これは確定事項だ。


 そして、その第一歩として私は千歳君にこうお願いをするのだった。


「ねぇ、千歳君。また、私に勉強教えてくれないかな?」


 ……きっと、千歳君ならこう答えてくれるはず。

 あの時の悠斗がそう答えてくれたように……


 突然のお願いに千歳君は少し驚いた表情を浮かべていたけど、すぐに優しく微笑んでこう言ってくれたのだった。


『もちろん、俺で良ければいつでも力になるよ』


「もちろん、俺で良ければいつでも力になるよ」

 

 ……うん、知ってたよ。

 あなたならそう答えてくれるって。

 

「ありがとう、千歳君っ」


 私は満面の笑みで……そして、恋する乙女の表情でお礼を言うのだった。


 その直後、嬉しくなって思わず……


「み、御影さん!?」


 千歳君に抱きついてしまった。


 千歳君の顔が真っ赤に染まる。

 突然抱きついたら困らせてしまうのは分かっていたけど、どうしても我慢できなかった。

 でも、仕方ないよね……

 だって私は、恋に素直な……恋する乙女なのだから。

 

 大好きだよ悠斗……ううん、千歳君。

 これまでも……そして、これからも……


◇◆◇◆◇


 翌日の朝。

 私は、目的の人物が登校して来るのを今か今かと待っていた。

 早く会いたい、早く顔が見たい、早くお話しがしたい。

 そんな、まさに恋する乙女の衝動と欲求が抑えきれそうになかった。


 そして間も無くして、彼が登校してきた。

 ……古賀さんと一緒に。


 前までは、最大のライバルは水瀬さんと篠宮さんだったけど……今は古賀さんが最大のライバルだ。

 顔や声、名前などは変わっても、彼の優しさなどの本質が変わっていないのと同じように、すぐ側に強敵がいるのも変わっていない。

 もちろん、誰が相手でも負けるつもりも譲るつもりもないけど。

 でもこうなったら、もういっそのこと……


「な、夏美っ」


 声を掛けに行こうとしていたところ、逆に突然声を掛けられて思考が中断される。

 声の主が誰なのかは確認するまでもない。

 つい先ほどまで浮かれて昂っていたはずなのに、それがまるで嘘だったかのように今の私は冷静そのものだった。


「…………おはよ、悠斗」

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