第5話 脱ぼっち

「千歳君は……ほんとうに千歳君なんですか?」

「……えっ」


 もしかして、中身が別人だって……ばれた?


「あっ。ご、ごめんなさい。変な事を言ってしまって。千歳君は助けてくれた恩人なのに……」

「い、いや、気にしてないよ。でも、古賀さんはどうしてそう思ったの?」

「えっと……普段の千歳君と雰囲気があまりにも違ったので……」


 どうやら中身が別人だと気付かれたわけではないらしい。


「……そっか」

 

 先程、俺は友達を作って脱ぼっちをしようと決意した。

 それはつまり、これまでの千歳和樹と違う行動を起こすと言う事だ。

 だからこの先、いろんな人が古賀さんと同じ疑問を抱く事になるだろう。

 

「実は俺……変わろうと思ってさ」

「変わろうと……ですか?」

「そうしないと、この先もずっと友達が出来ずに一人で学校生活を送ることになる。それは寂しいなって思って」

「……」


 古賀さんは真剣な表情で俺の話に耳を傾けている。


「でも、これまで友達を作ろうとしなかったのは俺だから、今の状況は自分が招いた自業自得の結果だ。だからこのままじゃダメだって気付いてさ。それで変わらないとって思って」

「そう……ですか」

 

 俺の話を聞いて暫く無言になった古賀さんは、少ししてボソッと言葉を零した。


「私も……変われるでしょうか」

「……」

 

 きっと今の言葉は俺に聞かせるつもりのなかったものだ。

 聞こえなかったフリをするのが正解なのだろう。


 でも俺は……


「古賀さんも変わりたいの?」


 踏み込むことにした。

 暫く沈黙した後、古賀さんは小さく頷いた。


「……はい。実は私、中学生の時もお友達がいなかったんです。だから高校では変わろうと……そしてお友達をたくさん作りたいと思っていたんです。でも……入学式当日、私はインフルエンザにかかってしまって。完治して初めて登校した時には、もう既にたくさんのグループが出来てしまっていて……」


 入学直後は友達作りやグループ作りに一番躍起になる時期。

 その時期の数日間の休みはかなりのビハインドだ。

 コミュ力の高い生徒や社交的な生徒なら問題無いだろうが、古賀さんはそうではなかった。

 

「その後もこのままじゃダメだって何度も思いましたが、結局行動に移すことが出来なくて……こんな自分が情けないです」

「でも、古賀さんは変わりたいってまだ思ってるんだよね?」

「……はい。でも今更……」

「なら、変われるよ。今からでも」

「えっ」


 古賀さんは変わりたいと思っているけど行動に移せない。

 今の古賀さんに必要なのは、最初の一歩を踏み出す勇気だ。

 でも、その勇気が出ない。


 なら……


「ねぇ、古賀さん。もし良ければ、俺と友達になってくれないかな?」


 俺が背中を押してやればいいんだ。


「わ、私とお友達に……ですか?」

「うん。古賀さんと話して、もっと知りたい、もっと仲良くなりたい、もっと一緒にいたいって思ったんだ。だから古賀さんと友達になりたい」

「……」

「あ、ごめん! さっき助けた恩に付け込んだような断りにくい状況にしちゃって」


 助けられた恩人のお願いとなれば断るに断れない、そんな状況にしてしまった。

 そこまで頭が回ってなかった俺の失態だ。


「い、いえ。千歳君にそういった意思が無いのは分かりますので……」


 それから俺達の間に沈黙が流れる。

 俺は古賀さんの返事を静かに待つ。


 やがて、古賀さんの口がゆっくりと開き言葉が紡がれた。


「……わ、私も、千歳君とお友達になりたい……です」

「ありがとう。それじゃあ、これからよろしく」

「は、はい。よろしくお願いします」


 モブキャラ生活一日目、こうして初めての友達が出来たのだった。


「それと気づいてる? 古賀さん、ちゃんと変われてるよ」

「えっ……」

「だって古賀さん、これまでは友達が出来たことなかったって言ってたけど、でも今友達が出来た。それってつまり、今までの古賀さんと変わってるって証拠だよ」

「あっ……」


 どうやら気づいていなかったようだ。


「千歳君。何から何まで本当にありがとうございます」

「気にしないで。友達なんだからさ」

「……はい」


 古賀さんは嬉しそうに微笑んだ。

 ……そういえば、古賀さんの笑顔を見るの初めてだな。


「それじゃあ、帰ろっか」

「そうですね。帰りましょうか」


 公園を後にした俺達は、談笑しながら並んで帰路につくのだった。


 ……それにしても古賀さんって、もしかしてかなりの美少女なのでは?

 あの時の古賀さんの笑顔が、家に着いた後も暫く頭から離れなかった。



◇◆◇◆◇



【古賀春華視点】


「私……本当にお友達が出来たんだ」


 帰宅後、ベットで横になった私はスマホを眺めながら呟く。

 スマホに表示されているのは、別れ際に交換した千歳君の連絡先。

 

 正直、私は半ば諦めていた。

 このままじゃダメだと頭では分かっていても行動に移せない、そんな自分が情けなかった。

 変わりたい……でもきっと私は変われない……そう思っていた。

 でも、そんな諦念を千歳君が否定してくれた。

 そして、変わるキッカケをくれた。


 その結果、私は変われた。

 でもそれは、千歳君に背中を押してもらえたからだ。

 この先もずっとそういうわけにはいかない。

 きっと千歳君なら、友達だから気にしなくていいって言ってくれると思うけど、彼の優しさに甘えてばかりじゃダメだ。


「大切なのは一歩を踏み出すこと……ですよね、千歳君」


 私はスマホを操作して、とある場所へ連絡を入れた。


「も、もしもし……予約をしたいのですが……」



◇◆◇◆◇



「お、おい! あの子、めちゃくちゃ可愛くないか!?」

「あんな美少女、この学校にいたのか!?」

「四人目のS級美少女の誕生だぁ!!!」

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