第4話 モブキャラが只者とは限らない?

「あれって……古賀さんだよな?」


 視線の先、三人の高校生に絡まれている女子生徒は、クラスメイトの古賀春華こがはるかだった。

 

 古賀春華。

 原作ストーリーだと俺と同じで主人公やヒロイン達との絡みが殆ど無い生徒だ。

 人付き合いがあまり好きでないのか常に1人でいる、目が隠れるくらい前髪の長い黒髪の少女。

 一見地味な印象を受ける彼女だが、しかし一部だけ例外があった。

 それは、制服を大きく押し上げている豊満な胸である。

 容姿が目立たないからか、その膨らみが逆に目立ってしまう。


 そして、それが古賀さんに絡んでいる三人の狙いらしい。

 古賀さんの豊満な胸を見て、ニヤニヤと嫌味な笑みを浮かべている事からも確かだろう。


「あーあ、めっちゃ痛いわー。君さ、わざと俺にぶつかって来て怪我させたんだから、責任とってくれるよね?」

「わ、わざとぶつかって来たのはそちら……」

「そんな言い訳が通用するわけないじゃん。2人も目撃してるんだし。な、お前ら?」


 仲間の2人が頷く。


「そ、そんな……」

 

 誰かに助けを求めようとするが、通行人達は見て見ぬふり。

 古賀さんの顔が更に青ざめていく。

 

 あの三人が嘘をついているのは、彼らのゲスな表情からも明白。

 わさど古賀さんにぶつかって難癖を付けて……そんな魂胆が見え見えだ。

 それが分かっていながら見て見ぬふりなんてできない。

 いや、クラスメイトがトラブルに巻き込まれている……それだけで助けに入るには十分な理由だ。


「古賀さん。ごめん、お待たせ」

「えっ……ち、千歳君?」


 三人が鋭い眼光で俺を睨みつける。


「なんだ、お前? もしかしてヒーロー気取り野郎か?」

「ヒーローじゃなくて、この子の彼氏だ」


 三人の行為は悪質なナンパなようなものだ。

 だから古賀さんに彼氏がいると知れば大人しく立ち去るだろう。 

 古賀さんはとても驚いていたが、俺の意図を汲み取ってくれたらしく特に何も言わなかった。

 

「それじゃあ、行こうか古賀さん」

「おい、ちょっと待てよ」


 古賀さんとこの場を離れようとしたら、男の1人が俺の肩を掴んだ。


「俺さ、お前の彼女にわざとぶつかられて怪我したんだよ。だから責任とってもらわないと気が済まないんだよね」

「でも古賀さんはそんな事はしてないって言ってた。俺はお前達じゃなくて彼女の言葉を信じる」

「……チッ」


 俺の言葉に、男の顔が更に不快そうに歪む。

 そして……


「あっそ。なら代わりに彼氏のお前に責任をとってもらわないとなッ!」


 男が俺を殴ろうとするが、彼の拳は虚しく空を切った。

 そして次の瞬間……


「なっ!?」


 俺は彼の腕に関節技をめた。


 何が起こったのか分からず、男は驚愕の表情を浮かべている。

 いや、彼だけじゃなくこの場にいた全員が驚いていた。

 俺含めて・・・・


 ……体めっちゃ軽っ!

 運動する機会が無かったから気付かなかったけど……この体、めちゃくちゃ運動神経良くね?

 もしかして千歳和樹って……隠れハイスペックだったのか?


「お、おい、離せっ」


 男が苦悶の表情を浮かべながら抵抗する。

 俺は更に腕に力を込めた。


「い、痛っ! お、お前ら見てないで助けろよぉ!」


 仲間に助けを求めるが彼らに戦意は無く、ただその場に立ちすくんでいる。

 助けに入っても彼の二の舞になるだけだと察したのだ。


「お前ら、もうこれに懲りたら古賀さんに二度と近づくな。もしまた彼女に絡んだら……」

「い、痛い痛いっ! わ、分かった! もう二度と関わらない! だから離してくれぇ……」


 更に力を込めると、男が涙目で懇願してくる。

 俺を見る彼の表情には恐怖が浮かんでいた。

 きっと彼らの中で俺はトラウマになった事だろう。


 腕を離すと、三人は脇目も振らずに逃げ去るのだった。


「古賀さん、大丈夫?」


 今の光景を見て、呆然としている様子の古賀さんに声をかける。


「だ、大丈夫です。ごめんなさい。突然の出来事に混乱してしまって……」

「無理もないよ」

「あ、あの……千歳君」

 

 古賀さんが深々と頭を下げる。


「助けてくれて本当にありがとうございました」

「どういたしまして。それと古賀さん、俺達もこの場から離れた方が良いかも。今の騒ぎで少し目立ってるみたいだから」

「わ、わかりました」


 それから俺達は、少し先にある小さな公園へと向かう。

 公園のベンチに座ると、古賀さんから先程の経緯について話をされた。

 予想通り、あの三人がわざと古賀さんにぶつかって難癖を付けて来たらしい。


「ねぇ、古賀さん。もしまたトラブルに巻き込まれそうになったら、いつでも言ってほしい。必ず助けになるからさ」

「は、はい。ありがとうございます」


 それから古賀さんは無言で俺をジッと見る。

 

「古賀さん、どうかしたの?」

「あ、えっと……その……」

「遠慮しないで言って大丈夫だよ」


 こくりと小さく頷いた古賀さんは、少し間を置いてから言うのだった。


「千歳君は……ほんとうに千歳君なんですか?」

「……えっ」


 もしかして、中身が別人だって……ばれた?

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