第3話 モブキャラは脱ぼっちを決意する

「ふぅ。なんとか間に合ったな」


 遅刻しなかった事に安堵しながら教室に入る。

 教室に入ると、視線がとある方向へと引き寄せられた。


 視線の先にいるのは三人の女子生徒。


 金髪のギャル系美少女の御影夏美みかげなつみ

 茶髪の清楚系美少女の水瀬秋菜みなせあきな

 黒髪のクール系美少女の篠宮冬音しのみやふゆね

 

 全男子生徒の憧れにして、本作のヒロインであるS級美少女達だ。


 三人は主人公の席の周りに集まっている。

 ちなみに、当の主人公はまだ登校していない。

 

 ……それにしても、三人とも本当にめちゃくちゃ可愛いな。

 実物を見て改めてそう感じた。

 あの三人から好意を向けられるなんて、ほんと羨ましすぎるだろ主人公っ!

 

 そんな全男子生徒の総意を心の中で叫んでいる時だった。


「……」


 ヒロインの一人……篠宮冬音が突然こちらを振り返ったのだ。

 篠宮さんと目が合い、突然の事に驚いた俺はつい目を逸らしてしまった。

 視線を戻すと、篠宮さんは既に二人との会話に戻っていた。

 その後、再び目が合う事は無かった。


 しかし、この時の俺は思いもしなかった。

 まさかこの一瞬のやり取りが、後に起こる重大な出来事のキッカケになるなんて。


「……それにしても」


 登校してから暫く経つのに誰も話しかけてくれない。

 えっ、まさか……


 とある疑惑が頭をよぎる。

 その疑惑が確信へと変わるのに時間は掛からなかった。


◇◆◇◆◇


【ヒロイン視点】


「それにしても悠斗、遅いねー」


 夏美が大きく伸びをしながら呟く。

 彼女の豊満な胸が揺れて男子達の視線が集まるが、当の本人は特に気にした様子はない。

 

「そうね。いつも時間に余裕を持って登校してる彼にしては珍しいわね」


 教室の時計を見て、冬音が髪をかきあげながらそう呟く。

 たったそれだけの仕草でも男子達がつい見惚れてしまうほどに、彼女はとても絵になる。

 

「も、もしかして何かあったのでしょうか?」


 冷静な二人とは対照的に、秋菜はとても心配そうな様子で呟いた。

 秋菜はその可愛らしい容姿と優しい性格から、生徒達の間では天使様と呼ばれている。

 天使様に心配されて羨ましい……俺も心配されたい……と、男子達が嫉妬の念を募らせる。


 と、その時だった。

 教室の扉が開いて彼女達が待っていた人物が姿を見せた。

 三人の表情がぱあっと明るくなる。


「悠斗、遅ーい」

「佐藤君、遅いわよ」

「悠斗君、おはようございます」

「……」


 三人のS級美少女に出迎えられ、佐藤悠斗は一瞬……ニヤリとした笑みを浮かべた。

 しかし、その事に誰も気付かなかった。


「おはよう、三人とも。ごめん、少し遅くなった」 


 佐藤が着席した後、最初に夏美が話しかける。


「なになに〜、もしかして夜更かしでもしてたの?」

「何言ってんだよ夏美。優等生の俺がそんな事するわけないだろ」

「……えっ。そ、そうだね」

 

 続いて冬音が訊ねる。


「なら、今日提出の課題は当然やって来たのよね? 優等生の佐藤君?」

「当たり前だろ冬音。俺にかかればあんな課題楽勝だったわ」

「……そ、そう。ならいいわ」


 最後に秋菜が優しく声をかけた。


「悠斗君にしては珍しく時間ギリギリだったので何かあったのではと心配しましたが、何事もなくて本当に良かったです」

「遅刻さえしなければ別に何も問題は無いんだし、少し遅くなったくらいで大袈裟だって秋菜」

「……は、はい。そ、そうですね」


 佐藤と言葉を交わした後、三人は驚きと困惑の表情と反応を見せていた。

 それは、三人が同じ違和感を覚えたからである。

 

 あれ、なんだろ……今、別人に感じたような……


「ん? 三人ともどうかしたのか?」

「う、ううん。なんでもないよ」


 気のせい……だよね?


◇◆◇◆◇


【千歳和樹視点】


 放課後。

 俺は肩を落としながら帰路についていた。


「まさか……」


 千歳和樹はモブキャラだ。

 それは知っていた。

 しかし……


「まさか……ぼっちキャラでもあったとは知らなかったな」


 今日、俺が話をした生徒は0人。

 誰にも話しかけられなかった。

  

「いやいや、モブキャラなうえにぼっち設定って酷くないか!?」

 

 このままだと、今日のように誰とも関わる事なく過ごすことになってしまう。

 それはさすがに悲しすぎるし寂しすぎるだろ。

 

「……よし、決めた。友達を作ろう」


 こうして俺は脱ぼっちを決意するのだった。

 

「とはいえ、アテは全く無いんだよなぁ」


 どうしたものか……


「痛っ。君、今わざと俺にぶつかって来たよね?」

「えっ!? ち、違います。わ、私……」


 ……ん? なんだ? 


 声が聞こえたほうに視線を向けると、同じ学校の女子生徒が三人の高校生に絡まれていた。


 あれ、あの子って……

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