第2話 勘違いする主人公

「……ん? な、なんだ……?」


 俺──佐藤悠斗さとうゆうとは、起床してすぐに妙な感覚に襲われていた。

 まるで長い夢から覚めたかのような、そんな感覚だった。

 

「あ、あれ。俺……確か中学の卒業式が終わってから……」


 中学を卒業後、地獄のような受験勉強から解放された喜びと、この辺りで一番頭の良い高校に奇跡的に合格出来た喜びが相まって、友達と遊びまくった。


「それから高校の入学式の前日に……あれ?」


 高校入学の前日。

 明日から始まる高校生活に胸を躍らせていた……そこまではハッキリ覚えている。

 しかし、その後の記憶が…………無い。


「ま、まさか記憶喪失!? い、いや……これは……」


 記憶喪失かと思いパニックになりかけたが、どうやらそれは早計だったようだ。

 間も無くして、その期間の記憶が段々と思い浮かんできたのだ。

 何故かぼんやりとしていて鮮明には思い出せないが、とはいえ記憶喪失ではなさそうだと分かり胸を撫で下ろす。


「……ふぅ」


 なんとか落ち着いた俺は、ぼんやりとしている記憶を読み取ることにした。

 

「……とりあえず、犯罪の類はしてないな」


 ホッと安堵する。

 もしも知らない間に犯罪に手を染めていたら、最悪もいいところだからな。


 引き続き記憶を読み取る。

 すると……驚愕の事実が判明した。

 

「お、おい、マジかよ……」


 どうやら俺は、三人の超絶美少女達・・・・・・・・・と関わりを持っているようだ。

 しかも……この三人、俺に対しての好感度かなり高くね?


「ど、どうなってるんだ?」


 こんなS級美少女達と親しいのも謎だが、それだけじゃない。

 この記憶の中の俺……まるで別人が・・・俺として・・・・振る舞っている・・・・・・・みたいなのだ。

 

 しかし……


「……いや、そんなわけないか。漫画やゲームやアニメじゃあるまいし」


 即座に否定する。


 そして……


「こうして記憶があるんだし、これは間違いなく俺だ。俺がやったんだ」

 

 勘違いをする。


 それから勘違いは更に加速していく。


「こんな超絶美少女達からの好感度が高いって事は、俺がそれだけ魅力的な男ってことだよな。まぁ確かに俺、顔は整ってる方だし運動神経も良いし、それにこの高校に合格できるくらいには勉強もできるし、かなりハイスペックだからな。普通に考えたら俺がモテないわけがないよな。中学の女子達は見る目がなかったんだ」


 中学時代、自分に全く見向きもしなかった女子達。

 その原因は向こうにあると決め付ける。


「正直なんでこうなったのかよく分からんけど、まぁもうどうでもいいよな」


 記憶がぼんやりしていることやその原因についてなんかは、彼の中ではもう気にする程でもないくらいに些細な事となっていた


 ゲームのストーリーでは、ヒロイン達とのラブコメ展開の為にプレイヤーが主人公の行動や思考を選択し誘導していた。

 それが無くなった結果、佐藤悠斗の主人公らしからぬ本性が露わになるのだった。


「とりあえず学校に行くか」

 

 登校中、三人の事を思い浮かべる。


「三人の俺に対する好感度は間違いなくかなり高い。これなら彼女達を手に入れるのにそう時間は掛からないな。はははははっ!」


 しかし、この時の彼は知らないのである。

 これから先、自分の好感度・・・・・・は下降の一途を辿っていくことを。

 手に入れるどころか、自分の元からやがて全員離れていくことになることを。

 自らの勘違いと愚行が招いた自業自得の結果を。

 

 この時の彼はまだ知らないのだった。

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