第6話 またもや勘違いする主人公

「……古賀さん、もう登校してるかな」


 週明け。

 今日は古賀さんと友達になってから初めての学校だ。

 

 あの後、俺と古賀さんは連絡先を交換した。

 用事があったらしく週末に古賀さんと会えなかったのは残念だったけど、その分メールのやりとりをたくさんした。

 本当は遊びに誘おうと思っていたんだけど……ま、誘う機会はこれからいくらでもあるか。

 今日の放課後は時間あるのかな……後で直接聞いてみよう。


「……なんか俺、学校に行くの楽しみに感じてるな」

 

 もしも、あのままぼっちでいる事を選んでいたら、きっと今の気持ちにはならなかっただろう。

 脱ぼっちを決意して……そして古賀さんと友達になれて本当に良かったと思う。


「……ん? なんだ?」


 校門に着くと、なにやら大勢の生徒が騒いでいるのが目に付いた。

 ……もしかして、ヒロイン達が何か関係してるのだろうか。

 気になったので視線を向けてみる。

 すると、そこにはいたのは……


「えっ、古賀……さん?」


 大勢の生徒達の視線の先にいたのは、なんと古賀さんだった。

 ただし、これまでの古賀さんではない。


 目が隠れるくらい長かった前髪は短くなっていて、腰まで伸びていた後ろ髪も肩上のボブカットになって綺麗にまとめられている。

 その結果、思わず目惚れてしまうほどの正統派美少女に変貌を遂げていたのだ。

 

「あっ、千歳君っ」


 俺に気づいた古賀さんが近づいてくる

 

「おはようございます、千歳君」

「お、おはよう、古賀さん。髪切ったんだね。すごく似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 俺の言葉を聞いた古賀さんは胸を撫で下ろした。


「よかったです。実は、髪を切ってからなぜか色んな人から見られるようになったので、もしかして似合ってないんじゃないかって不安だったので……」


 実際は似合い過ぎるから注目を集めているのだが、どうやら古賀さんは勘違いしてしまったらしい。

 これまでこんな風に注目された事が無かったので、そう思ってしまうのも無理はないか。


「そんな事ないよ。本当によく似合っててとても可愛いよ。思わず見惚れちゃったくらいだし」

「か、可愛っ!? 見惚れっ!?」


 古賀さんの顔が耳まで真っ赤になる。


「でも古賀さん、どうして突然?」

「……この前、千歳君は私が変われたって言ってくれましたけど、それは千歳君が背中を押してくれたからです。なので今度は自分の力で一歩を踏み出そうと思いまして。髪を切っただけで大袈裟だとは思いますが……」

「そんなことないと思うよ。それに、古賀さんは小さな変化と思ってるかもしれないけど、それが積み重なっていけばいつか大きな変化になるよ」

「は、はい。ありがとうございます」

「って、ごめん。なんか偉そうな事言って」

「いえ、そんな事思ってないです。むしろとても嬉しい言葉でした」


 直後、予鈴が鳴り響いた。


「もうすぐ朝のHRが始まるから、そろそろ教室に向かおうか」

「そうですね」

 

 それから俺達は並んで教室へ向かった。



◇◆◇◆◇



【佐藤悠斗視点】


 朝のHRが終わってすぐ、一人のクラスメイトが興奮した様子で声を掛けに来た。


「なぁ、悠斗。古賀さん、マジで可愛くね!?」


 田中賢吾。

 高校からの友達・・・・・・・だ。


 今、クラスメイトの古賀春華が学校の話題の中心となっている。

 これまで目立つ要素の無かった地味な生徒が、あの三人に並ぶほどの美少女に突然変貌したのだから、話題になるのも当然だ。 

 一部の生徒の間では、四人目のS級美少女と言われてるらしい。


「……そうだな」

「あんまり興味なさそうだな」


 それは違う。

 俺は古賀春華に興味を抱いている。

 顔もかなり好みだし、それに胸もめっちゃデカいからな。


 でも、今の俺には……


「ま、悠斗にはあの三人がいるからな」

 

 そう、今の俺にはあの三人がいる。

 まずはあの三人が優先だ。

 古賀春華はその後で手に入れればいい。


 焦る必要は無い。

 俺にかかれば、あんな男慣れしてなさそうな女、すぐに堕とせるに決まってるからな!


「そうだな。今はあの三人以外に興味無いかな」

「お、おう。そう……だよな」

「ん? どうかしたのか?」

「悠斗…………いや、なんでもない」


 賢吾は自分の席へと戻って行った。

 

「千歳君」


 ……ん?

 古賀春華に名前を呼ばれたあの男は……たしか、千歳和樹……だっけ。

 特に目立った要素の無い、どこにでもいる平凡な男子だ。


 なにやら二人は楽しそうに話をしている。

 もしかして、古賀はあの男の事が……いや、そんなわけないか。

 あのレベルの美少女が、あの程度の男に興味を持つわけないからな。


「残念だったな、千歳和樹」


 まさかあんな事になるとも知らず、俺はそんな勝ち誇ったセリフを吐くのだった。



◇◆◇◆◇



【千歳和樹視点】


「古賀さん」


 放課後、帰り支度をしている古賀さんに声を掛ける。


「千歳君、どうかしましたか?」

「この後って時間ある? もし良かったらさ、どこかに遊びに行かない?」

「い、行きますっ!」


 すごい食いつきだ。


「誘ってくれてありがとうございます」

「友達なんだし普通の事だよ。それで、実は行ってみたい場所があってさ。近くのショッピングモールの中にあるクレープ屋なんだけど」

 

 原作ストーリーでヒロイン達も訪れていたクレープ屋。

 ヒロイン達からも好評だったので、一度行ってみたいと思っていた。


「生徒の間で評判のクレープ屋ですね。実は私も食べてみたいと思っていました」

「なら丁度良いね。それじゃあ早速──」


 と、その時だった。


「……千歳君。少しいいかしら?」


 突然、声を掛けられる。

 振り向くと、そこには予想外の人物が立っていた。


「えっ……篠宮さん?」


 声を掛けたのは、ヒロインの一人──篠宮冬音だった。

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