第7話 こうして物語は動き出す
「えっ……篠宮さん?」
声を掛けたのはヒロインの一人、篠宮冬音だった。
な、なんで?
「えっと、篠宮さん……どうかしたの?」
正直、なんで俺に声を掛けたのた皆目検討も付かない。
「実はこの後、勉強会を開く予定なのだけど……千歳君、参加するつもりはないかしら?」
あぁ、なるほど……勉強会の誘いか。
実はこの高校はかなり偏差値が高く、テストの成績が悪いと進級……そしてそれが続くと卒業も危ぶまれるのだ。
そして、篠宮冬音は学校側とは別に独自で勉強会を定期的に開いている。
誰かに勉強を教えるのが好きだからというのが表向きの理由だが……彼女の本音は、出来ることなら皆で卒業したいからである。
……ほんと、改めて思う。
ヒロイン達は本当に魅力溢れる美少女だと。
「えっと、誘ってくれてありがとう。でも、ごめん。今回は遠慮しておくよ」
「そう。この前、私達の方を見ていたのは勉強会に興味があったからだと思っていたのだけれど違ったのね」
前に一度、篠宮さんと目が合った事があった。
どうやらあの時、今日の勉強会についての話をしていたらしい。
そのタイミングで俺と目が合ったので、篠宮さんはてっきりそうだと思ったようだ。
「興味が無いわけじゃないよ。でも今日はこの後、古賀さんと遊びに行く予定だからさ」
「わかったわ。この勉強会は任意参加だし無理強いはしないわ。でも、余計なお世話かもしれないけど、千歳君……危機感は持っておいた方が良いと思うわよ。この前の中間試験の成績、クラス最下位だったでしょ?」
「……えっ」
はぁぁぁぁぁ!!??
クラス最下位!?
そんなに成績悪かったのか!?
「そ、そう……だったな」
悲しい現実を知ってしょんぼりと肩を落としていると、古賀さんが励ますように言う。
「だ、大丈夫ですよ千歳君! 私も前回の中間試験の成績、クラスで下から二番目でしたから!」
いや、それは何も大丈夫じゃないと思うけど……
「……古賀さん、それは何も大丈夫じゃないわよ」
俺の心の声と篠宮さんの言葉が重なる。
「……古賀さん」
俺は古賀さんを見る。
古賀さんも俺を見る。
そして、俺達は同時に頷いた。
正直、予定通り古賀さんとクレープを食べに行きたい気持ちは大きいけど、事情を知ってしまった以上、この機会を逃すわけにはいかない。
なにより、クレープは逃げないけど勉強会は次いつ開かれるか分からないからな。
「えっと、篠宮さん。ごめん、やっぱり今日の勉強会参加してもいいかな?」
「わ、私も参加してもいいでしょうか?」
「もちろんよ。歓迎するわ。それじゃあ20分後にこの教室で始めるから」
「わかった。よろしく、篠宮さん」
とまぁ、こうして俺達は篠宮さん主催の勉強会に参加する事になったのだった。
「ごめん、古賀さん。クレープ楽しみにしてくれてたのに……」
「いえ、千歳君は悪くないです。それに、私も篠宮さんの勉強会に参加する事に同意しましたし」
「クレープ、次は必ず行こう」
「はい!」
古賀さんは満面の笑みで頷いた。
「佐藤君」
篠宮さんが下校しようとしていた佐藤に声を掛ける。
「どうした、冬音?」
「今日の勉強会、御影さんは用事があって参加できないようなのだけど……佐藤君は参加してくれないかしら?」
原作のストーリーだと入学当初、佐藤の成績はクラスで下位だった。
でも、篠宮さんの勉強会に参加することで佐藤の成績はどんどん良くなり、その結果前回の中間試験では上位の順位をとっていた。
篠宮さんの勉強会に参加するのは、主に成績が悪いか不安のある生徒だ。
だから本来なら、成績上位の佐藤が参加する必要はない。
でも篠宮さんは佐藤を誘った。
先ほど篠宮さん自身が言ったように、この勉強会は任意参加だ。
参加したいならすればいいし、参加したくないならしなくてもいい。
でも佐藤を誘う篠宮さんからは、参加してほしい、そんな気持ちが伝わってくる。
「……そうだな。分かった、参加するよ」
「そ、そう。ありがとう」
篠宮さんは冷静を装っているが、どこか嬉しそうだ。
「べ、勉強会……緊張します」
開始時間が近づくと、古賀さんがどこか緊張した様子で呟いた。
「緊張しなくても大丈夫だよ。篠宮さんの勉強会はとても雰囲気が良いし」
「千歳君は篠宮さんの勉強会に参加した事があるのですか? さっきの二人のやりとりから、今日が初参加だと思っていたのですが……」
原作ストーリーでは何度も参加したけど、今の俺はこれが初参加だ。
にも関わらず、参加した事があるようなことを思わず言ってしまった。
「いや、その……参加した事がある生徒がそう話していたのを耳にした事があってさ」
「そうだったんですね。でも、それを聞いて緊張がほぐれました」
そうこうしていると、勉強会の開始時刻になった。
「……千歳君。お隣に座ってもいいですか?」
「もちろんいいよ」
「ありがとうございます。さっきはああ言いましたけど、実はまだ少し緊張していまして。なので千歳君の隣に座りたくて。千歳君のそばはとても安心しますから」
「そ、そっか」
……無自覚なんだろうなぁ。
思わずドキッとしてしまった。
「分からない問題があったら、いつでも聞いて構わないわ」
篠宮さんのその言葉が合図となり、勉強会がスタートした。
そして、この勉強会をキッカケに俺とヒロイン達の物語は少しずつ動き出す事になるだった。
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