第39話 共有される真実

【佐藤悠斗視点】


 放課後、ようやくこの時間がやってきた。

 図書委員の当番の時間……即ち、俺と秋菜の二人の時間だ。

 

 今日、俺が話し掛けようとしても秋菜は千歳と話してばっかで全然話しかけられる雰囲気じゃなかったし、秋菜から話し掛けても来なかった。

 強引に話し掛けに行くことも出来たけど、その場合はまた千歳がごちゃごちゃ言ってくるのは目に見えていた。

 でも、今なら千歳に邪魔される心配もない。


「あのさ、秋菜。実は俺さ、前に秋菜におすすめされた本読んだんだ」


 秋菜のことだ、この話題を出せばいつも・・・通り・・笑顔で飛びついてくるはず。

 そう思っていたのだが……


「そうですか」

「……えっ」


 秋菜はそんな素っ気ない返事をするのみ。

 記憶の中にある、笑顔で感想を聞いてくる秋菜の姿はそこには無かった。

 なんでだよ……なんの為に貴重な時間を使ってまで、わざわざ読んだと思ってるんだ。

 

「あ、秋菜、なんで感想を聞かないんだ? 前までなら喜んで聞いてきたのに。なんの為にわざわざ……」


 そこまで言って、やらかしたと気づいた。

 わざわざなんて言ったら、実は読みたくなかったけど秋菜との話題作りの為だけに読んだのだと白状したようなものだ。


 だが、秋菜は最初からその事に気づいていたので、その失言があろうがなかろうが、どっちにしろなのだった。


「そ、そうだ。あの映画さ、実は俺も興味が湧いてきたんだ」


 これ以上あの話題を続けるのはまずいと思い、咄嗟に別の話題に変える。


「……」


 もしかして、どの映画のことか分かっていないのか……?

 無言の秋菜を見て、俺はそう思った。


「ほら、あの映画だよ。えっと、タイトルは…… ……」


 そして、気づく。

 またやらかしたと。

 興味が湧いてきたと言った矢先に、タイトルすら知らない。

 本当は興味無いと言ってるようなものだ。


「悠斗君、無理しなくても大丈夫ですよ」


 無理して興味あるフリをしてまで話し掛けなくてもいい……まるでそんな言葉のようだった。


「なんだよそれ。そもそも、秋菜が前と同じように接しないから……」


 そうだ……秋菜の態度が変だから、俺はこうして秋菜が好きな話題をわざわざ出して機嫌を直そうしてるんだ。

 それなのに、前と同じ態度に戻るどころか更に冷たくなる秋菜の態度にイライラが募っていく。


 しかし、その瞬間。


「水瀬さん。少しいいかな?」


 この声、まさか!?

 顔を上げると、予想通りの人物が立っていた。


 またか、またお前なのか……千歳ぇ!


◇◆◇◆◇


【千歳和樹視点】


「水瀬さん。少しいいかな?」


 俺は受付にいる水瀬さんに声を掛けた。

 佐藤が俺を睨んでるがあえて無視する。


「実は探してる本が見つからないから、探すのを手伝ってほしいんだ」

「わかりました。では、あちらの検索機の方に移動しましょうか」

「ありがとう」


 俺がお礼を言うと、水瀬さんが微笑んだ。

 お礼を言うのは私の方です、水瀬さんの表情がそう言っていた。


「ち、千歳、なんでここに?」

「本を借りに来たからに決まってるだろ」

「う、嘘だな。お前、本当は俺と秋菜の様子を見に来たんだろ」

「なんのことだ?」

「とぼけやがって。そんなに俺と秋菜が仲良くしてるのが嫌なのか?」


 ……ツッコミをいれたほうがいいのだろうか?

 

「しかも、わざわざこんなところまで邪魔しに来るとか、独占欲の強い束縛系彼氏かなんかかお前は? なぁ、秋菜も迷惑だと思──」

 

 水瀬さんに同意を求めようとして、佐藤は見てしまうのだった。


「か、彼氏だなんて……そんな……ふふっ」


 嬉しさと恥ずかしさから、顔を赤くしている水瀬さんを。

 悠斗は嫌味のつもりで言ったのだが、秋菜にとってはむしろ嬉しい言葉だったのだ。

 目の前で恋する乙女の表情を突然見せられ、困惑する佐藤。


「それと佐藤、図書館では静かにな。注意する立場の図書委員があんなに騒がしくしてたら本末転倒だろ」

 

 お前が水瀬さんにしつこく話し掛けていたのは見ていたと、遠回しに佐藤に忠告する。


「……っ」


 どうやら、ちゃんと佐藤に伝わったようだ。

 これで少しは大人しくなるだろう。

 それに、俺は受付から一番近い机で本を読んでいるので、何かしようとしても今みたいにすぐ駆け付けられる。


 それから水瀬さんと検索機のところに向かう。


「千歳君。ありがとうございました」

「気にしないで。それと、この後もちゃんと注意しておくから安心して」

「はい」


 本当は当番の曜日を変更できたら良かったんだけど、この時期に突然変更するのは難しいとのこと。

 

「あの……千歳君。もし良ければ、この後、一緒にご飯を食べに行きませんか?」


 検索機を操作していると、水瀬さんが突然そう提案した。


「どうしたの突然?」

「え、えっと……」


 それから水瀬さんは、恥ずかしそうに顔を赤くしながらこう言うのだった。


「その……千歳君と、もっと一緒にいたかったので……」

「っ……」


 反則なまでに可愛すぎる。


「わ、分かった」


 その後、俺は水瀬さんと近くのファミレスでご飯を食べてから帰路についた。

 そして余談だが、この日以降、水瀬さんが図書委員の当番の日は俺がこうして図書館に足を運んで、その後は一緒にご飯を食べて帰るというのがルーティン化したのだった。 


◇◆◇◆◇


【古賀春華視点】


 夜、私は御影さんと水瀬さんと篠宮さんとグループ通話をしていた。

 学校で、三人から夜に話したいことがあると言われたからだ。

 

「古賀さん、突然ごめんね」

「い、いえ、それは大丈夫ですけど。それで、話したいことと言うのは?」

「えっとね……千歳君に関することなんだけど」

「千歳君に……ですか?」

 

 それから御影さんは一度、水瀬さんと篠宮さんと目を合わせて、二人が頷いたのを見てから話し出すのだった。


「驚くと思うけど、どうか聞いてほしいの。実は、千歳君は…………」




〜〜〜〜〜

 

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ギャルゲーのモブキャラに転生した俺は覚えてない間にヒロイン達を攻略していたらしい〜主人公がヒロイン達を不幸にするので、代わりに俺が幸せにしようと思います〜 蝶野 @gehema

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