第38話 ハーレム!?

 お昼休みの屋上にて。

 

「おい、あれ……」

「な、なんで……?」

「わ、わっかんねぇけど……羨ましすぎるっ!」


 昼食をとっている生徒達は衝撃の光景を目の当たりにして、食べる手を止めていた。

 それもそのはず。

 現在、学園にはS級美少女と呼ばれている生徒が四人いるが、その全員を俺が独占して一緒にお昼を食べているのだから。


 特に御影さんと水瀬さん……そして篠宮さんは、これまで佐藤と一緒の時間を過ごすことが多かったが、今はその時間はほぼ皆無に等しい。

 そして突然、俺と一緒の時間を過ごすようになったのだから、周囲の生徒達からしたら何がなんやらと混乱するのも当然だろう。

 

 でも、混乱しているのは彼らだけじゃなくて……俺も同じなのだった。

 と言うのも……


「千歳君。はい、あーん」

「千歳君。このおかずもどうぞ」

「あら、なら私もこれをあげるわ」

「わ、私も千歳君の為ならたとえ好物でも惜しくはありません」


 四人がそれぞれおかずを俺に分けてくれる。

 それも所謂……はい、あーん……でだ。

 古賀さんとはこれまで何度も一緒に昼食をとってきたけど、こんなに大胆なことをされたのは初めてだった。

 他の三人に関しても、こういったことを誰にでもしないのは分かっている。

 ……えっ、なんか距離めちゃくちゃ近くないか!?

 

「い、いただきます」


 周囲の生徒からすごく視線を感じるが、だからと言って断るなんて選択肢は無い。

 羞恥で顔が熱くなりながらも、俺は四人から食べさせもらう。


「あ、ありがとう。とても美味しかったよ」

「あっ、千歳君。ほっぺたにご飯粒ついてるよ」

「えっ」


 取ろうとすると、御影さんの手が俺の顔に近づいてくる。


「私が取ってあげるねっ」

「み、御影さん!? それはずる──大胆すぎると思います!」

「わ、私もそう思います!」

「水瀬さんと古賀さん、少し落ち着きなさい。……まぁでも、確かにずるいわね(ぼそっ)」


 なぜか俺の頬に付いているご飯粒で盛り上がる四人。

 自分で取ると、四人は心なしかガッカリした様子を見せた。

 

「あっ……そう言えば、もうそろそろ期末試験の時期が近づいてきたね」


 期末試験の話題を出した瞬間、御影さんと古賀さんの肩がビクッと弾んだ。

 どうやら二人は今のところ自信が無いらしい。

 成績上位の水瀬さんと篠宮さんは、取り乱すこともなく冷静だ。


「そうね。だから近々、また勉強会を開こうと思っているわ。千歳君……」

「もちろん参加させてもらうよ。前にそう約束したし」


 前にプリントを準備室に運んでいる時に、次の勉強会に参加すると篠宮さんと約束したことは当然覚えている。

 俺がそう答えると、篠宮さんは満足そうに微笑んだ。


「あっ、私も参加していいかな?」

「わ、私もいいですか?」

「もちろんよ御影さん、古賀さん。歓迎するわ」


 二人からの申し出を、篠宮さんは当然受け入れる。


「そうだ。水瀬さんも参加しない?」

「私もですか?」

「うん。皆んな参加する予定だし。それに、水瀬さんとも一緒に勉強できるならすごく嬉しいからさ」

「っ……」


 俺がそう言うと、水瀬さんの顔が赤くなった。

 

「わ、分かりました。篠宮さん、私も参加してもよろしいでしょうか?」

「ええ、もちろんよ。歓迎するわ」

「ありがとうございます」


 こうして、次の勉強会は全員参加することが決まったのだった。

 そして、もうそろそろお昼休みが終わろうとしているが、誰も佐藤の話題を出さなかった。

 その話題を敢えて避けていると分かっているので、当然俺も口にするつもりはない。


 しかし、そうしたくても避けては通れないこともある。


「あの……」


 水瀬さんが暗い顔をして言う。


「実は私、今日の放課後は図書委員の当番があるのですが……」


 それはつまり、佐藤と二人の時間が出来てしまうということ。

 今の佐藤と二人……水瀬さんが不安に思うのも当然だ。

 古賀さん達も心配そうにしている。

 でも……


「大丈夫だよ、水瀬さん。俺に考えがあるから」

「……千歳君」


 俺が力強くそう言うと、水瀬さんの表情が明るくなった。


「ありがとうございます」

 

 その後、もう少し雑談してから俺達は教室に戻るのだった。


◇◆◇◆◇


【御影夏美視点】


 屋上から教室に戻ってすぐ、篠宮さんと水瀬さんが私のところにやって来た。


「それで、御影さん。相談って何についてかしら?」

「それも、千歳君と古賀さんには内緒で……」


 実はさっき、二人に相談したい事があると伝えておいたのだった。

 水瀬さんが言ったように、千歳君と古賀さんには内緒で三人きりで。


 私は一度周囲を確認してから、大きくない声で言う。


「その前に確認なんだけど……二人は気づいてる? 悠斗が、前までの悠斗とは別人だってことに」

「「っ」」


 一瞬驚いた表情を見せた二人は、無言で頷く。

 これは予想していたので驚かない。


「ならさ……千歳君のことは?」

「「……」」


 今の言葉だけで、二人には十分伝わった。

 二人は真剣な表情を浮かべて、再び無言で頷いた。


「相談したいのはそのことについてなの。実は…………」

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