第31話 行動するモブとしない主人公

【佐藤悠斗視点】


「おはようございます、千歳君っ」


 朝……登校した俺は、千歳のところへ笑顔を浮かべながら向かう秋菜を見て、呆然とその場で立ち尽くしていた。

 夏美だけじゃなく秋菜までも、千歳と距離が明らかに近くなっている。

 それも、ただ映画を一緒に観に行った……それだけでは説明が付かないほど近く。


 マ、マジで一体何がどうなってんだ……っ!?


 そして、ふと……俺はこんな不安に駆られてしまうのだった。


 ま、まさか冬音も……


「……っ」

 

 ダメだ、これ以上は脳が壊れてしまう。

 かぶりを振って、その思考を中断する。


 と、とりあえず、冬音が登校して来たら真っ先に話しかけて、彼女の時間は俺が独占…………いや、もうそれだけじゃダメだ。

 もう、なりふり構ってられる状況じゃない。

 千歳にこれ以上好き勝手される前に、冬音をさっさと手中に収めないといけない。

 その為には……もう、あれ・・をするしかない。

 夏美と秋菜のことを放置するつもりは毛頭無いが、一先ず今は冬音が最優先だ。


 今後の行動方針が固まったので、俺は冬音が登校して来るのを待つことに。

 

 しかし結局、今日……冬音が登校して来ることはないのだった。




 ──放課後。


 帰り支度をしていると、賢吾が話しかけに来た。


「なぁ、悠斗。篠宮さん……心配だな」


 実は今日、冬音は体調不良で欠席したのだった。

 ちなみに今日、隙あらば夏美と秋菜に話し掛けようと試みたのだが、結局まともに話すことが出来なかった。


 そして、これまでずっと俺のそばにいた二人が今は千歳のそばにいる状況に、クラスメイト達は驚きと困惑の表情を浮かべていた。

 まるで……お前一体何をやらかしたんだ?と言わんばかりの視線を何度も向けられたので、俺は苛立ちを覚えていた。

 ちゃんと謝って二人も許してくれたのに、なんで俺が悪いみたいな雰囲気になってんだよ。

 

「冬音のことだし心配いらないだろ」

「まぁ、篠宮さんなら大丈夫だと思うけど……でも、お見舞いには行くんだろ?」


 お見舞いか、行った方が……いや、待て。

 もし、お見舞いに行って風邪を移されて、その結果、数日間ほど自宅療養する羽目になったら?

 ただでさえ良くない状況なのに、そんな中で数日間も何も出来なくなったりしたら、それはあまりにも致命的だ。

 そうなってしまう可能性がある以上、今回はお見舞いに行くのはやめておいた方が良いだろう。

 前回・・とは状況が違う。

 それに冬音が登校して来ないのなら、千歳も冬音に対して何も出来ないしな。


「いや……実は用事があるからお見舞いには行けないんだ」

「そうなのか。でも、メールくらいはしとけよな」

「そうだな」


 それから俺は……


 冬音の体調をとても心配してること。

 お見舞いに行きたいけど、どうしても外せない用事があるから行けないこと。

 早く体調が回復するのを願っていること。


 そんな内容のメールを冬音に送る。


 特に、本当はお見舞いに行きたかったアピールは念入りにしておく。

 よし、これで俺の印象が悪くなることはないな!

 

 そして、俺はそのまま下校した。

 

◇◆◇◆◇


【千歳和樹視点】


「……あの、千歳君」


 放課後、古賀さんが声を掛けに来た。


「どうかした、古賀さん?」

「篠宮さんのことなんですけど……」

「体調不良みたいだね。心配だね」

「はい。それで……この後、一緒にお見舞いに行きませんか? 篠宮さんには勉強会で何度もお世話になっていますので、少しでもその恩返しがしたくて」


 古賀さんは元々クラスで下から二番目の成績だったが、篠宮さんの勉強会に参加してからは成績はうなぎ登りだ。

 勿論それは古賀さんの努力の賜物だが、勉強会という環境もその要因の一つだろう。

 少なくとも、古賀さんはそう思っているのだ。


「そうだね。それに俺も篠宮さんには何度も助けられてるから、少しでもお礼がしたい」

「はい」


 でも……それには問題がある。


「あっ……でも、篠宮さんのお家の場所が分かりません」


 そう、まさにそれなのだ。

 このゲームの原作ストーリーの記憶が一応あるので、篠宮さんの家の場所は分かるには分かるのだが……あくまでもそれは前世の記憶。

 本来なら、今の俺モブが知るはずのない情報なのだ。

 

 どうしたものか……そう思っていた時だった。


「もしかして……千歳君と古賀さん、篠宮さんのお見舞いに行こうって話してる?」


 御影さんが声を掛けに来た。

 そして、水瀬さんもこちらにやってくる。


「実は、私と御影さんはこれから篠宮さんのお見舞いに行く予定なのですが、もし良ければご一緒に行きませんか?」

「い、良いんですか?」

「もちろんです。きっと篠宮さんも喜びます」

「あ、ありがとうございます」


 棚ほだ展開に感謝しつつ、俺は三人の超絶美少女と一緒に篠宮さんの家へと向かうのだった。


◇◆◇◆◇


【篠宮冬音視点】


 夕方。

 スマホに二通のメールが届いた。

 佐藤君と御影さんからのメール。


 佐藤君からは、お見舞いに行けないとのメールが。

 本当はお見舞い行きたかったアピールと行けない事へと言い訳が多すぎて、どこか嘘っぽく感じてしまう。


 御影さんからは、これからお見舞いに行くというメールが。

 お昼にメールのやりとりをして御影さんと水瀬さんがお見舞いに来てくれるのは知っていたけど、さらに千歳君と古賀さんも来てくれるらしい。

 そして、何か入り用な物があったら遠慮なく言ってほしいとも書かれている。

 

「……」


 少し考えた後、私はある物を買ってきて欲しいとお願いすることにした。

 

 おそらく、これでハッキリするはず。

 千歳君が……私が好きになった佐藤君なのかどうかが……

 私は、その確信が欲しい。

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