第32話 お見舞いイベント

「……」


 体調を崩してしまった篠宮さんのお見舞いの為に、俺達は篠宮さんの家に向かっているのだが、先ほどからすごく注目を浴びていた。

 まぁ、それも当然か。

 なにせ俺の隣には今、三人の超絶美少女がいるのだから。

 男子とすれ違う度、嫉妬の視線を痛いほど向けられる。

 

「それでさー……」

「ふふっ、そうなんですね」

「な、なるほど」


 しかし、三人はそんなことなど気にした様子もなく、普段通りに談笑していた。


 昨日今日で、俺は御影さんと水瀬さんと話すことが多くなったので、自然と古賀さんと二人が話す機会も増えたのだ。

 最初は緊張のあまりぎこちない会話をしていた古賀さんだったけど、今ではすっかり二人と打ち解けている。

 

 そうこうしていると、気付けば篠宮さんの家の近くまで来ていた。


「着いたよー。ここが篠宮さんのお家っ」


 原作ストーリーで何度か見たことのある二階建ての一軒家の前で、御影さんは立ち止まる。

 

「すごく立派な家ですね。それに私の家はマンションなので、こういう大きいお庭はとても憧れます」

「古賀さんの家はマンションなんだね」

「そうなんです。お庭はないですけど、上の階なので景色はとても綺麗です」

「へぇ、見てみたいなぁ」

「っ……」


 今度その景色の写真を見せてほしい……そうお願いしようと思っていたら、古賀さんがどこか恥ずかしそうにしながらこう言うのだった。


「ち、千歳君。でしたら今度、私の家に遊びに来ますか?」

「えっ……」


 まさかの提案に困惑していると、御影さんと水瀬さんが突然話に入ってきた。


「千歳君、私の家にも遊びに来て全然良いからね!」

「千歳君、私のお家もいつでも大丈夫ですので!」


 なんか、すっごい歓迎されてるんだが!?


「えっと……とりあえずその話は後にして、篠宮さんの家に早速行こうか」


 三人は頷く。

 チャイムを鳴らすと、少しして厚手の部屋着姿の篠宮さんが出迎えてくれた。

 

「来てくれてありがとう。どうぞ上がって」

「篠宮さん、体調はどう?」

「昨日の夜に少し熱があったけど、今日の朝にはもう下がっていたから体調は殆ど問題ないわ。今日学校を休んだのは、一応念の為に安静にしてたからなの」

「そうだったんだね」

「ごめんなさい。わざわざお見舞いに来てもらったのに……」

「ううん。そんなの当然だよ。篠宮さんには色々とお世話になってるんだから」


 御影さんの言葉に、俺達は同意するように頷く。

 篠宮さんは少し照れたのか、頬が僅かに赤くなっていた。


「篠宮さん、どうか食後にでも食べていただけると」


 水瀬さんが、ここに来る前に立ち寄ったコンビニで買ったゼリーを篠宮さんに渡す。

 

「ありがとう。いくらだったかしら?」

「いえ、お代は結構ですよ」

「そ、そう。本当にありがとう」


 次に古賀さんが、買ってきたのど飴を篠宮さんに渡す。

 

「お、お代は大丈夫ですので。篠宮さんには勉強会で何度も助けられていますし」

「本当にありがとう、古賀さん」

 

 それから御影さんもドリンクを篠宮さんに渡したので、最後は俺の番となった。

 俺は、買って来て欲しいとお願いされていたお粥を篠宮さんに渡す。


「もちろんお代は大丈夫だから」

「あ、ありがとう」

「それと、もしも何か他にもお願いしたいことがあったら遠慮なく頼ってほしい。篠宮さんには俺も勉強会で何度もお世話になってるから、少しでも恩返しがしたいんだ」


 そして俺は、篠宮さんがお粥を買ってきて欲しいとお願いしたのはお腹が空いているからなのだと思い、こんな提案をすることにした。


「あっ……もし良ければ、お粥作ろうか?」

「っ……」


 篠宮さんは目を見張って驚いていた。

 俺からそんな提案をされたのが予想外だったからなのだろう。


「……」


 逡巡した後、篠宮さんの口がゆっくり開く。


「えっと、それじゃあ……お言葉に甘えさせてもらっても良いかしら?」

「っ……」


 上目遣いでお願いされ、普段のクールな篠宮さんとのギャップも相まって破壊力がすごすぎる。

 というか、可愛すぎる。


「わ、分かった。すぐ作るから、少しだけ待っててほしい」


 早速台所を借りてお粥を作る。


 お手伝いを申し出されたけど俺だけで大丈夫だと伝えたので、作っている間、四人は会話に花を咲かせていた。

 さっき篠宮さん自身も体調はもう問題無いって言ってたし、楽しそうに談笑している篠宮さんの様子を見るに、明日には登校できるだろう。


 それから少しして、作ったお粥を篠宮さんのところへと持っていく。


「はい、どうぞ。少し熱いと思うから気を付けて」

「ええ。ありがとう」


 皆に見られながらだと食べづらいのではと今更思ってしまったが、三人は会話に夢中になっているのでその心配はなさそうだ。

 いや、もしかしたら気を利かせてくれたのかもしれない。

 

「いただきます」


 そして、篠宮さんはお粥を一口食べた。






「……やっぱり。そうだったのね」


◇◆◇◆◇


【篠宮冬音視点】


 千歳君が作ってくれたお粥を食べた私は……ふと、あの時のことを思い出した。


 今から約一ヶ月半ほど前に……風邪を引いて学校を休んだ私の為にと、佐藤君・・・がお見舞いに来てくれたあの時のことを。


『篠宮さん。もし良ければ、お粥作ろうか?』

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