第33話 篠宮冬音は確信する

【篠宮冬音視点】


 今から約一ヶ月半前のこと。

 

 あの日、風邪で学校を休んだ私は、両親が共働きなので家で一人で安静にしていた。

 風邪を引いて精神的に弱っていたからなのか、いつもなら思わないはずなのに、この時の私は寂しいと思ってしまった。

 そんな時だった、佐藤君がお見舞いに来てくれたのは。

 

 そして、佐藤君からスポーツドリンクやゼリー、お粥の入ったコンビニ袋を渡され……その直後、こんな提案をされた。


『篠宮さん。もし良ければ、お粥作ろうか?』


 お見舞いに来てもらった上に作ってもらうのは申し訳ないと思い、一度は断ったのだけど……


『遠慮しないで俺を頼ってほしい。篠宮さんには勉強会で何度もお世話になってるから、少しでも恩返しがしたいんだ』


 そう言われてしまったので、素直にお言葉に甘えさせてもらった。

 

『はい、どうぞ。少し熱いと思うから気を付けて』

『ありがとう。いただきます』


 そして、あの時の事は今でも鮮明に覚えている。

 私の体調をとても心配し、早く回復して欲しいと心から願っている……そんな彼の優しさと気遣いが、料理を通じて伝わって来たからだ。

 本当に私のことを想い、私の為に丹精込めて作ってくれたのが分かった。

 

『とても美味しいわ。次もお願いして良いかしら?』

『それは構わないけど……なんでまた風邪を引く前提なんだ?』

『さぁ……どうしてかしらね』


 ──そして今。


 千歳君の作ってくれたお粥を食べて、私は驚いていた。

 それは……私の体調をとても心配し、早く回復して欲しいと心から願っている……そんな千歳君の優しさと気遣いが、料理を通じて伝わって来たからだ。

 あの時とまったく同じように。


「えっと……どうかな?」

「とても美味しいわ。次もお願いして良いかしら?」

「それは構わないけど……なんでまた風邪を引く前提なんだ?」

「ふふっ。さぁ……どうしてかしらね」


 料理から伝わってくる優しさや気遣いだけでなく、やりとりと彼の言葉もあの時と同じ。

 それはきっと姿や名前などの諸々が変わっても、優しくて誠実な彼の本質や性格は一切変わっていないからだ。

 更に、極め付けは……

 

「ねぇ、千歳君。もう一つお願いしたいのだけれど……私のおでこに手を当てて熱を測ってみてくれないかしら?」

「えっ……わ、わかった」


 もうとっくに熱が下がっているのは分かっているのに、私は敢えてお願いをする。


 千歳君の手が私のおでこに優しく触れた……その刹那、私は体温が急上昇するのを感じ、さらに心臓がドクンドクンと早鐘を打ち始めた。

 これも……あの時とまったく同じだ。

 実は、前回風邪を引いて佐藤君がお見舞いに来てくれた時も、こうやって熱を測ったことがあり、その時も今のように体が熱を帯びて心臓の鼓動が早くなっていたのだ。


「……」

 

 これまでに何度か姿が重なって見えたことと、これだけあの時と同じことが起こっていること。

 もう、確信するには十分だった。


「……やっぱり。そうだったのね」


 そして、私は確信したのだった。

 千歳君があの時の……私が好きになった佐藤君なのだと。


 それは同時に……今の佐藤君が、私が好きになった佐藤君とは別人だという確信にも繋がる。

 だって、私が好きになったは今目の前にいるのだから。

 まぁ、お見舞いに行く行かないに関係無く、別人なんじゃないかとは薄々思ってはいたけど。


 それとおそらく、千歳君は佐藤君として過ごした時のことを覚えていない。

 でも私はこうしてちゃんと覚えているし、それに思い出ならこれからたくさんまた作っていけばいいだけのこと。


 それから、もう少しだけ話に花を咲かせた後、帰る四人を玄関まで見送る。


「それじゃあ、篠宮さん。また明日ね」

「篠宮さん。また明日会えるのを楽しみにしています」

「し、篠宮さん。また明日」

「三人とも本当にありがとう」

 

 三人は先に外に出る。

 最後に残った千歳君が私の方を見た。


「篠宮さん。また明日ね」

「千歳君も本当にありがとう。今度、何かお礼をさせてくれないかしら?」

「気にしないで大丈夫だよ」


 彼ならきっとそう言うだろうと思っていたけど、今回ばかりは私も引けない。

 二度も・・・こうしてお見舞いに来てくれたのだから、私も何か恩返しがしたい。


「いいえ、そういうわけにはいかないわ。だから、もし何か私にしてほしいことがあったら遠慮せずに言ってほしいの。私に出来ることならなんでもするから」

「えっ、なんでも?」

「そうよ。千歳君が望むことなら……なんでも」

「そ、そっか」

「……っ」


 私なりに勇気を出したつもりだったけど、ここで羞恥が限界に達してしまった。

 ち、ちょっと飛ばしすぎたわね。


「と、とりあえず、何かあったら遠慮なく言ってちょうだい」

「わ、分かった」

 

 そして、千歳君の姿が完全に見えなくなった後、一人残った玄関で私はポツリと呟くのだった。


「大好きよ佐藤君……いえ、千歳君。これまでも……そして、これからも……ね」


◇◆◇◆◇


 翌日の朝。

 登校して早々、話があると言われて校舎裏にやって来た。

 

 そして、私は……


「俺と付き合ってくれ!」


 告白をされたのだった。


「冬音!」

 

 …………佐藤君に。















「ごめんなさい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る