第10話 天使様とモブの出逢い
【水瀬秋菜視点】
私には好きな時間があります。
それは本を読んでいる時間です。
私の家のすぐ近くには大きな図書館があって、小さい頃は毎日のように通い詰めていました。
お友達と外で遊ぶよりも本を読む方が好き……子供の頃の私はそんな女の子でした。
……まぁ、それは高校生になった今でもあまり変わってはないのですが……
小・中と図書委員だった私は高校でも同じように図書委員になりました。
だだ、今までと違う点が一つ。
それは、もう一人の図書委員が男子生徒だったことです。
これまで女子生徒としか当番をしたことがなかったうえに、私は男の子と関わった経験がほとんど無かったので、うまくやっていけるか不安でした。
でも、そんな不安はあっという間に無くなりました。
もう一人の図書委員……佐藤悠斗君のおかげで。
そして気づいた時には、私は本を読んでいる時間だけでなく、彼と一緒にいられるこの時間がとても好きになっていました。
この時間がやって来るのをとても楽しみにしていました。
楽しみにしていた……はずでした。
◇◆◇◆◇
放課後。
私は悠斗君と図書委員の当番のため図書館に来ていました。
「……今日も利用する生徒は少ないですね」
といっても、これはいつものことです。
返却されている本も今のところ少ないので、手持ち無沙汰な時間になってしまいました。
「あの……悠斗君」
「ん? どうした?」
「前におすすめした本って読んでいただけましたか?」
少し前、私の大好きな作家さん……綾小路先生の待望の新作が発売されました。
最近読んだ中ではイチオシの作品だったので是非とも悠斗君にも読んでほしい…… そして、
「あー、えっと……」
悠斗君の反応を見て、私は察しました。
残念ですが、またの機会を楽しみに待つことにしましょう。
「ごめん……」
「いえ、私は気にしていないので大丈夫──」
「なんて本だっけ?」
「……えっ」
一瞬、時が止まったような感覚に陥りました。
それくらい、悠斗君の言葉を聞いて私は驚いたのです。
だって、こんなこと初めてでしたから。
初めて……言われましたから。
「……」
「秋菜?」
「あっ……ご、ごめんなさい」
名前を呼ばれて、私ははっと我に帰ります。
それからその本について悠斗君に話しました。
「その本ね。ごめん、まだ読んでない」
「そ、そうですか。その……とても面白かったので、是非とも悠斗君にも……」
「わかった。読めたら読むよ」
「……」
……根拠はありません。
でも、どうしてでしょうか……悠斗君とその本の感想を話し合う機会は訪れない、そんな気がしてしまいました。
……いえ、そんな悲しいこと考えてはいけないですよね。
「あっ、そうでした。悠斗君、実はなんですれど綾小路先生の──」
「それよりさ……」
あ、あれ……今、話を途中で……
それから悠斗君は最近ハマっているらしいゲームについて話し始めました。
銃で相手を撃つ……みたいなことを言っていましたが、私はゲームの知識が殆ど無いに等しいので悠斗君の話はあまりよく理解できませんでした。
その後、ひとしきり話した悠斗君は私にこう訊ねるのでした。
「そうだ。秋菜、今度の土曜日って予定ある?」
「え、えっと……」
突然予想外のことを聞かれたので、私は困惑します。
返事をしようとしたその時、本の貸出しの為に受付に並んでいた生徒に声を掛けられました。
悠斗君がその生徒の対応をしている間、私はいつの間にか溜まっていた返却された本を棚に戻すことに。
「……」
本を棚に戻している途中、ふと私はこんなことを思ってしまい手を止めます。
悠斗君って……ほんとうに悠斗君なんでしょうか……
前にも一度同じ違和感を覚えたことがありましたが、あの時はただの気のせいだと思い気にしませんでした。
確かに最近、悠斗君は変わったと感じていましたが、でもただそれだけだと思っていました。
でも今は……本当にそうなのか分からなくなっています。
それくらい、先程の悠斗君は……前の彼とはまるで別人のようでした。
「ううん、それより今は考え事してないで手を動かさないと……」
そんな非現実的な思考を一度中断して作業を再開することに。
「届くかな……」
最後の一冊を棚の最上段に戻そうと背伸びしますがギリギリ届きません。
と、その時でした。
「その本、ここに戻せば良いの?」
「えっ……は、はい」
「分かった。よいしょっと……これで大丈夫?」
「はい。ありがとうございます、千歳君」
クラスメイトの千歳君が手を貸してくれたのです。
「気にしないで、水瀬さん」
千歳君の手には一冊の本が。
どうやらこれから借りるようで…………えっ。
「それじゃあ、俺はもう行くね」
「あっ……千歳君。ちょっと待ってください」
踵を返そうとした千歳君を思わず呼び止めてしまいました。
でも、どうしても聞きたいことがあったのです。
「水瀬さん? どうしたの?」
「あの……千歳君。その本……」
千歳君が手に持っていた本。
それは……
そして、もしもこの時呼び止めていなければ一生後悔していただろうと、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます