第9話 株の上がるモブ、株の下がる主人公

 金髪のギャル系美少女の御影夏美──彼女は勉強が苦手で嫌いなヒロインである。

 入学当初の成績はクラスで下位であったため冬音は夏美を勉強会へ誘っていたが、参加することはなかった。

 

 しかしそれは、彼女が佐藤悠斗・・・・に恋をするまでの話。


 それ以降、夏美は積極的に勉強会へ参加するようになった。

 その理由は、同じく勉強会に参加していた佐藤悠斗と一緒に勉強が出来るから。

 勉強は嫌だけど好きな人と一緒なら話は別だったのだ。


 そして、夏美が勉強会へ参加し始めた頃には佐藤悠斗は成績上位の実力だったので、夏美は彼に先生役をお願いした。

 一緒にいられるだけでなく勉強も教えてもらえる……一石二鳥な願ってもないことだ。

 

 そして、冬音もそれに賛同した。

 夏美の成績向上に繋がるならそれが最善だと考えたからだ。

 ちなみに夏美が二人きりで勉強をしなかった理由は、二人きりだと緊張しすぎて勉強どころじゃなくなると考えたからだった。

 

 こういった経緯から、佐藤悠斗は勉強会で夏美に勉強を教えることになり、勉強を教えている彼の姿を冬音は見たことがあったのである。


「…………えっ」


 そして、だからこそ冬音は驚いていた。

 なぜなら、古賀春華に勉強を教えている千歳和樹の姿が、御影夏美に勉強を教えている佐藤悠斗の姿と重なったからだ。


 最初は教え方がただ似ているだけだと思った。

 でも、それにしてはあまりにも似すぎているような…………

 

「……冬音。冬音!」


 名前を呼ばれていることに気付き、はっと我に帰る。

 

「な、なにかしら、佐藤君?」

「いや、教えてもらいたい問題があったから声を掛けたんだけど…… ぼーっとしてどうかしたのか?」

「な、なんでもないわ。それより、どの問題かしら?」


 先程までの思考を中断して、私は佐藤君に勉強を教える。


「……なるほど。そうやって解くのか」

「ええそうよ。それにしても珍しいわね。佐藤君の得意分野の問題なのに」

「そ、そういう時だってあるだろ」

「そ、そうね。気を悪くしたならごめんなさい」

「いや、べつに……」


 あ、あれ……まただ。

 前にもあった、佐藤君がまるで別人のように感じた違和感を私は再び覚えた。

 それも、今回は前回よりも強く。


「……ねぇ、佐藤君」

「ん? どうした、冬音?」

「……いえ、なんでもないわ。忘れてちょうだい」



◇◆◇◆◇



【佐藤悠斗視点】


「……いえ、なんでもないわ。忘れてちょうだい」


 その直後、冬音は他の生徒に名前を呼ばれたので、その生徒の所へと向かって行った。


 ……冬音のやつ、なんか様子変だったな。

 もしかして、なんかあったのだろうか。

 ま、もしも何かあったとしても冬音の事だから何とかするだろうし、俺が気にする必要無いか。

 そんな事を思っていたら……


「ねっ、佐藤君」


 突然、ギャルっぽい生徒に声を掛けられた。

 

「えっと?」

「あっ……私、夕凪由紀ゆうなぎゆき。よろしくね」

「よろしく。それで、どうかした?」

「佐藤君。もし良かったら、この問題教えてくれないかな? 篠宮さん、他の生徒に教えててしばらくは手が空きそうにないからさ」

 

 夕凪は問題集を開いて見せた。


「どうして俺に聞くんだ?」


 他にも生徒はたくさんいるのに、なんでわざわざ俺を……


「それは、夏美から佐藤君は勉強を教えるのがめっちゃ上手いって聞いてるからだよ。ね、お願い助けてくれないかな?」


 夕凪が手を合わせてお願いしてくる。


 どうしようかな……正直めんどくさいな。

 ってかこれ、めっちゃ簡単な基礎問題じゃん。

 

「…………はぁ。なんでこんな簡単な問題も分かんないんだよ」

「は?」


 刹那、空気が凍る。


 あっ……ヤバっ、聞こえたのか……

 

 夕凪は不快そうな表情で俺を睨む。

 俺達の間に険悪な雰囲気が漂う。


「なにそれ、別にそこまで言わなくてもよくない?」

「い、いや……その……」

「もういいよ」

  

 夕凪はそう言って自分の席へと戻って行った。

 その後、夕凪が再び俺のところへ来る事は無かった。


 それから時間は過ぎていき、やがて勉強会はお開きとなる。

 さっきは流石に言い過ぎたから謝ろう、そんな考えは結局思いつきすらしなかった。



◇◆◇◆◇



【夕凪由紀視点】


 あーもう、なにあれほんと意味わかんない! 


 私と夏美は一緒の仲良しグループに入っており、佐藤君は勉強を教えるのが上手だという話を聞かされていた。

 実際、佐藤君に教えてもらい始めてから夏美の成績はどんどん良くなっている。

 だから私も彼に教えてほしいと思ったのに、まさかあんな事を言われるなんて……思い出すだけでもムカムカするっ!

 

 ……なんか、夏美の話で聞いてた彼と全然違ったな。

 でも、夏美が嘘をついていたとは思えないし……


「てか、この問題どうしよう」


 篠宮さんはまだ他の生徒に教えてる途中だから聞けそうにないし……


「この問題は……」

「……なるほど」


 と、その時、勉強を教えている男子生徒の姿が目に止まった。

 たしか、夏美のクラスメイトの……千歳君。

 そして、千歳君が勉強を教えているのは今話題の美少女の古賀さんだった。

 古賀さんの反応を見るに、どうやら千歳君は勉強を教えるのがかなり上手のようだ。


「……ねぇ、千歳君」


 私は早速、千歳君にお願いしてみることに。


「夕凪さん? どうしたの?」

「千歳君……もし良かったら、この問題教えてくれないかな?」

「もちろん良いよ。えっと、この問題はこの公式をこうして……こうして……こうすれば解けるよ」

「なるほど。そうすれば良かったんだね」


 うそっ、めっちゃ分かりやすいんだけど!

 

「ありがとう、千歳君。ほんとに助かったよ」

「どういたしまして。もしまた分からない問題があったら、いつでも聞いて大丈夫だから」

「じ、じゃあ、この問題もお願いしてもいい?」

「もちろん」


 それからも千歳君は嫌な顔一つせずに、私に勉強を教えてくれるのだった。


 ヤバっ……千歳君、めっちゃ良い人じゃん!

 優しくて親切だし……それに、結構カッコいい……かも。


 そして後日、私は今日の出来事を仲良しグループの皆と共有する。

 その中には当然、ヒロインの一人である御影夏美もいたのだった。


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