第16話 後先考えず自ら怠惰を選ぶ勘違い主人公

【佐藤悠斗視点】


 冬音の勉強会に参加した翌日。


 俺がそれの存在を思い出したのは、五時間目の休み時間のことだった。


「やべー、課題やってくるの忘れたっ」


 クラスメイトの誰かがそう呟いたのを聞いて、俺も課題をやって来てないことに気がつく。

 提出は次の授業……しかも、よりにもよって学校一厳しくて怖いと言われてる先生の授業だった。


 ど、どうする……課題を忘れた生徒は厳しく叱りつけるような先生だ。

 このままだと俺も……


「……そうだ!」

 

 名案が思い浮かんだ俺は、早速行動を起こすことにした。


「冬音」


 次の授業の準備をしている冬音の元へ行き、話し掛ける。


「なにかしら、佐藤君?」

「実は、次の授業で提出しないといけない課題をやってくるの忘れたんだ。だから冬音、写させてくれ」

「……」


 俺が課題を忘れたことが予想外だったからなのか、それとも写させてほしいと俺に頼まれたことが予想外だったからなのか……冬音は言葉を失うほど驚いていた。


「……ダメよ」


 冬音はキッパリと断った。

 このままだと俺が叱られるって分かってるはずなのに……なんでだよ……


「た、頼む、冬音」

「これは佐藤君の為に言ってるのよ。そんなことしたら佐藤君の力にならないわ」


 ……いや、俺の為って言うなら尚更写させてくれるだろ普通。

 

「まだ授業開始まで時間はあるわ。今すぐ取り組み始めたら、まだなんとか間に────」

「ほんとに頼む、冬音。次からは忘れないようにするからさ」

「……」


 冬音の言葉を遮って頼み込む。

 少し迷っていた冬音だったが、やがて小さく頷いた。


「今回だけ……本当に今回だけよ・・・・・・・・?」

「わかってる」


 冬音から課題のノートを受け取り、早速自分の席で書き写す。

 その途中、クラスメイトの男子と冬音がこんな会話をしているのが聞こえてきた。


「あのー、篠宮さん。僕も写しても……」

「ダメよ。あなた、前も忘れてたわよね?先生に怒られてしっかり猛省しなさい」

「はいぃ」

 

 フッ、残念だったな……冬音は俺が特別だから、特別に許可したんだよ。

 断られたクラスメイトを見ながら、俺は内心ほくそ笑む。


 しかしこの時、佐藤悠斗は盛大に勘違いをしていたのだった。

 冬音が許可を出した理由……それは、冬音がこれまでの・・・・・佐藤悠斗・・・・の誠実で・・・・真面目・・・姿を知っているから……そして見てきたからであった。

 これまで一度たりとも課題を忘れたことの無かった彼が今回は忘れてしまった……きっと何かやんごとなき事情があったのだろう。

 そう思い、冬音は今回だけ特別に許可を出したのだ。


 だが、そうとはつゆ知らずに俺はもう完全に味を占めてしまっていた。

 冬音の信用を利用していることにも気づかず。


 ……冬音、最初は頑なな態度だったけどやっぱり写させてくれたな……これなら次からも大丈夫そうだな。

 最近ハマったゲームがあるから、勉強に時間を割きたくないって思ってたところだったしな。

 もしまたダメって言われても、さっきみたいに懇願したらなんやかんやで写させてくれるはずだ。


 こうして、俺は自ら怠惰になる事を選ぶのだった。

 後先考えずに。

 

 そして、この時の俺は知らない。

 努力しようとも理解しようともしない道を自ら選んだ……自業自得の選択の先にある未来を。

 まさか、校内中の笑い者になってしまう日が来ることになるなんて……


 そして、もう一つ。


「…………佐藤君。あなた……」


 冬音から訝しむ視線を向けられていたことも、この時の俺は知らないのだった。


◇◆◇◆◇


【千歳和樹視点】


 土曜日。

 俺は映画を観に来ていた。


 古賀さんと…………


「始まりますね、千歳君」

「そうだね、水瀬さん」


 ではなく、水瀬さんと。

 

 俺を挟んだ逆側に古賀さんが座っていて、水瀬さんと古賀さんに挟まれた両手に花状態……というわけではなく、水瀬さんと二人でである。

 

 どうしてこうなったのか。

 事の発端は───

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