第18話 楽しい時間の裏側で
「えっ!? ど、どうでしたか!?」
本の話題を出すと、水瀬さんは予想以上の食いつきを見せた。
今か今かと、俺の感想を楽しみに待っている。
さっきまでの、どこか緊張した表情はもうそこには無かった。
「めっちゃ面白かった!」
「〜〜〜っ!」
正直に感想を伝えると、水瀬さんはとても嬉しそうな満面の笑みを見せた。
「ち、ちなみにどのシーンが一番面白かったですか!?」
大好きな本の話題と言うことで、少し興奮した水瀬さんがそう訊ねる。
「面白かったシーンが多かったから、どれが一番かはなかなか決められないかな」
「その気持ちとても分かります。どのシーンも素晴らしいので甲乙付け難いですよね」
「そうなんだよね。あっ、でも一番印象に残ってるシーンなら決まってるよ」
「ど、どのシーンでしょうか!?」
「終盤の──」
それから俺達は、時間が経つのも忘れて本の感想についての話に花を咲かせる。
……と言うか、映画を観に来た事すら完全に忘れてしまっていた。
それくらい楽しくて充実した時間だった。
そして、それは秋菜も同じだった。
秋菜にとっても和樹と話している時間は……話せば話すほど語り合いたい事が増えて、この時間がもっと続いて欲しいという気持ちが大きくなる……そんな至福のひと時だったのだ。
しかし、同時に……疑惑が確信へと近づいていく時間でもあるのだった。
◇◆◇◆◇
【水瀬秋菜視点】
それは、話がひと段落した時でした。
先ほどまでの千歳君とのやりとり思い出していた私は……ふと、こう思ってしまったのです。
あれ……私、千歳君とこうして本の感想について話し合うのはこれが初めてでしたっけ……と。
どうしてそう思ってしまったのか。
それはきっと、お話ししていた時の千歳君の姿が……悠斗君の姿と重なったから。
そして、千歳君とお話していたはずなのに、まるで悠斗君とお話していたかのように感じてしまったからです。
前回、図書館でお話しした時も同様のことを感じましたが、その時は気のせいだろうと思っていました。
ですが今は、それが本当に気のせいなのか分からなくなっています。
「……」
……いえ、もしも気のせいではないとしたら?
もしも……もしも、千歳君と
そしてもしそうなら、最近の悠斗君がこれまでの彼とはまるで別人のように感じてしまう時があることにも一応説明がつきます。
漠然とそんなことを考えてしまった私は、思わず千歳君に声を掛けてしまいました。
「あの……千歳君」
「ん? どうかした?」
……いえ、あのような考えはやはり非現実的ですし、単なる私の勘違いですよね。
私の勘違いのせいで千歳君を困らせる訳にはいきません。
「……いえ、なんでもありません。ごめんなさい」
「気にしてないよ。でもほんと、あの本と出会えて良かった。そのおかげで、水瀬さんとこうしてお話しすることもできたしさ」
「たしか、千歳君があの本を借りようと思った理由は、すごく気になったからでしたよね?」
あの時、図書館で千歳君がそう言っていたのを今でも覚えています。
「そうそう。あーでも、実は他にも理由があって……あの本、前に誰かにおすすめされていたような気がしたんだよね」
「っ」
和樹はあの本を見つけた時、普段読まないジャンルの本にも関わらずなぜかすごく気になってしまっていた。
そしてその際、この本誰かにすすめられたことあったっけ……?と、和樹は疑問に思っていた。
「……」
あの本は、前に私から悠斗君におすすめしたことはありますが、千歳君におすすめしたことはありません。
ですので……ただの偶然。
そう思うのが普通なのですが……
「あっ、そろそろだよ」
千歳君にそう言われて、もう上映時間が目前に迫っていることに気づきます。
正直、まだ気持ちの整理がついていないのですが、今は映画に集中することにします。
悩み事や考え事のせいで、集中して観られなくなるのは勿体ないですし。
それになにより……
「始まりますね、千歳君」
「そうだね、水瀬さん」
ちゃんと観ないと、終わった後に千歳君と映画の感想について話し合えなくなってしまいますから……
それから間も無くして、映画が始まります。
そして観終わった後、感想について話し合ってひとしきり盛り上がり、私達はやがて帰路についたのでした。
◇◆◇◆◇
「あっ……ゲームが面白かったからつい夢中になりすぎて、気づいたらもう夕方じゃん。やっぱ映画行かなくて正解だったかな。あんまり興味ない作品だったし……」
〜〜〜〜〜
和樹が本を借りるくだりは11話に書いています!
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