第35話 対峙
それは、自販機に飲み物を買いに行こうとしていた時だった。
「クソォォォ!!!」
校舎裏の方から突然、そんな叫び声……いや、怒鳴り声が聞こえてきたのだ。
びっくりしたぁ、なんだ今の…………あれ、今のって……佐藤の声だよな?
それから、さっき佐藤が篠宮さんと一緒に教室から出ていったのを思い出し、無性に嫌な予感がした。
そして、何が起きてるのか確認しようと声がした方へ向かった俺は、その光景を見て……目を疑った。
「……おい」
なんだよ……これ……
人気の無い校舎裏。
そこにいたのは、佐藤悠斗と篠宮冬音。
この世界……このゲームの主人公とヒロイン。
しかし、そんな設定からは信じられないような光景が眼前に広がっていた。
佐藤は顔を赤くして激昂しており、篠宮さんはそんな佐藤に怯え恐怖している。
そんな二人を見て、俺は無意識に言葉を溢していた。
「おい、
二人が同時に俺の方を見た。
「っ……千歳! なんでここでお前がでしゃばって来るんだよ!」
「佐藤……お前……」
佐藤が原作ストーリーとはまるで別人だったので困惑してしまったが、すぐに思考を切り替える。
そうだ、俺が今すべきことは……
そして、行動を起こそうとした瞬間。
篠宮さんが消え入りそうな声で……けど、確かにこう言ったのが聞こえた。
助けて、千歳君……と。
「っ……!」
俺は二人の間に割って入り、篠宮さんを庇うようにして佐藤の正面に立った。
「な、なんだよっ」
俺と対峙した瞬間、佐藤が怯んだ。
きっと俺は今、とてもおっかない表情をしているのだろう。
「佐藤。それ以上、篠宮さんに近づくな」
ドスの利いた声で、佐藤に言う。
「お、お前にそんなこと言われる筋合いはないだろ! それに俺は今、冬音と大事な話をしてるんだから邪魔すんな!」
邪魔、か。
確かに、本来なら今の俺は主人公とヒロインの間に割って入っている邪魔者だ。
本来なら……な。
「お前……
さっきまで、篠宮さんは恐怖で今にも泣きそうな表情を浮かべていた。
本来ならヒロインを笑顔にするべきはずの主人公が、そんな顔をさせたのだ。
そして、そのことを全く悪びれも反省もしていない佐藤に、俺は腑が煮えくり返る気分だった。
「ひぃ……っ」
俺が強くそう言い放つと、気圧された佐藤はなんとも間抜けな声を漏らして一歩後ずさる。
「っ……」
俺を睨みつけていた佐藤だったが、やがて走り出して校舎裏を後にした。
「篠宮さん、大丈夫? なにかされたりしてない?」
「え、ええ。大丈夫よ。何もされてないわ」
「そっか」
俺は胸を撫で下ろす。
「千歳君。助けてくれてありがとう。本当に……ありがとう」
「そんなの当然だよ。むしろ、ごめん。もっと早く駆け付けていれば……」
「いいえ、千歳君が謝る必要なんてないわ」
それから、篠宮さんが少し落ち着いたタイミングを見計らって尋ねる。
「篠宮さん。聞いてもいい? ここで何が……佐藤と何があったのか」
篠宮さんは無言で頷き、話し出そうとした……その時だった。
「篠宮さん!」
御影さん、水瀬さん、古賀さんの三人が校舎裏にやって来たのだ。
三人とも焦った表情をしている。
「御影さん達……どうしてここに?」
「今さっき、教室に戻って来た悠斗の様子がどこかおかしかったの。それで、篠宮さんと悠斗が一緒に教室から出て行ったのを思い出して、もしかして何かあったんじゃないかって思って……」
「そうだったのね」
「それに、千歳君も飲み物を買いに行ったっきり全然戻って来ないから……」
三人は俺のことも心配してくれていたようだ。
「心配してくれてありがとう。俺は大丈夫だ」
「私も大丈夫よ。千歳君が助けてくれたから」
助けてくれた……それはつまり、助けが必要な状況に陥っていたということ。
三人が心配そうに篠宮さんを見る。
そして、篠宮さんはここで何があったのか……その一部始終を語り出した。
佐藤に告白されたこと。
その告白を断ったこと。
その後、急に佐藤が怒鳴りだして篠宮さんを鬼の形相で鋭く睨みつけたこと。
「……」
振られたことに納得がいかなくて、佐藤が逆上して篠宮さんに怒りをぶつけて怒鳴り散らした……それが、ことの顛末だった。
どう見ても佐藤が悪い……それが、篠宮さんの話を聞いた俺達の共通認識であった。
「そ、そんなことが……」
古賀さんは衝撃のあまり言葉を失っている。
でもそれは、俺も同じだった。
それと同時に、佐藤への怒りが込み上げてくる。
「……ごめんさない」
突然、御影さんが謝った。
「どうして、御影さんが謝るの? あなたは何も悪く……」
「ううん、違うの。私がちゃんと前もって忠告していたら、篠宮さんがこんな辛い思いをするのを防げたかもしれなかったの。でもまさか、悠斗がここまでするなんて……」
えっ、今……
「み、御影さん。もしかして、御影さんも佐藤と何かあったの?」
「……うん」
御影さんは暗い顔で小さく頷く。
まさか……と思い、水瀬さんの方を見る。
「……はい。実は、私も……」
水瀬さんは辛そうな表情でそう言った。
そして、それから二人も語り出したのだった。
佐藤と何があったのかを。
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