ギャルゲーのモブキャラに転生した俺は覚えてない間にヒロイン達を攻略していたらしい〜主人公がヒロイン達を不幸にするので、代わりに俺が幸せにしようと思います〜
第29話 不穏な視線と、天使様と二度目の映画鑑賞
第29話 不穏な視線と、天使様と二度目の映画鑑賞
「それじゃあね、千歳君っ」
朝、古賀さんと一緒に登校した後、席についてすぐに御影さんが声を掛けに来た。
こんなこと初めてだったので少し驚いたけど、それからちょっと雑談をして御影さんは友達のところへと向かう。
話していた時の御影さんは、笑顔を終始絶やさなかった。
昨日のあの件……もしかしたらトラウマになってないだろうかと心配していたが、今の御影さんの様子を見るに大丈夫そうだ。
あの場面に遭遇したのは偶然だったけど、それでも助けられて本当に良かった。
そんな事を思っていると、再び声を掛けられる。
「……おはようございます、千歳君」
「おはよう、水瀬さん。どうかしたの?」
水瀬さんの表情がどこか真剣なものだったので、何か話があるのかなと思い尋ねる。
「実は、千歳君にお願いしたいことがありまして」
そして、水瀬さんは意を決したようにこう言うのだった。
「もしよろしければ、今日の放課後……一緒に映画を観に行きませんか?」
「え、映画?」
「はい。実は今、綾小路先生が脚本を担当されている映画が上映していまして、千歳君と一緒に観に行きたいと思いお誘いさせていただきました」
その映画が上映しているのは当然知ってる……というか、一昨日に古賀さんと観に行った映画だ。
水瀬さんは綾小路先生の大ファンだし、てっきりもう観に行ったと思っていたけど、どうやらまだ観ていなかったらしい。
「えっと、実はもう観ちゃって……」
「そ、そうでしたか……」
水瀬さんはとても悲しそうな表情を浮かべて、しゅんとしてしまう。
それだけ、俺と一緒に観に行きたいと思ってくれてたってことだよな。
「でも、実はもう一回観に行こうって丁度思ってたところだったから、是非ご一緒させてもらえると嬉しい」
これは、水瀬さんの悲しそうな顔を見たくなくて言ったというのもあるけど、もう一回観に行こうかなと思っていたのも紛れもない事実だった。
「ほ、本当にいいのですか?」
「もちろん」
「……わかりました。ありがとうございます。では今日の放課後、よろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく」
「はい」
水瀬さんは満面の笑みを浮かべて、自分の席へと戻って行った。
……それにしても、まさか水瀬さんと二回も一緒に映画を観ることになるとは。
まぁ、前回のは偶然だったけど。
それから、朝のHRが始まるまでまだ少し時間があるので、それまで古賀さんとお話ししようと思い席を立った……その時だった。
「……ん?」
なんだ……?
今一瞬、嫌な視線を感じたような……
でも、周りを見渡しても俺の方に視線を向けている生徒は見当たらない。
気のせいか……そう思い、そのまま古賀さんのところへ向かう。
「……」
そんな俺に、
◇◆◇◆◇
放課後。
約束通り、俺は水瀬さんと一緒に映画館へと足を運んでいた。
ここに来るまで、これまでに水瀬さんからおすすめされて読んだ本の感想を話し合って、めちゃくちゃ盛り上がった。
正直もうかなり充実した時間を過ごしたけど、映画を観終わった後もその感想を話し合うので、まだまだ楽しい時間はこれからだ。
その後、チケットを購入して中に入り上映時間を待つことに。
それから少し雑談をしていると、気がつけばもう少しで始まる時間になっていた。
「もうすぐ始まるね」
「そうですね」
ふと、水瀬さんは笑みを溢した。
「ふふっ。千歳君、初めて観る私よりも待ちきれない様子ですね」
「そうかな?」
「はい。それだけ、この映画がとても面白かったということですよね。楽しみです。あっ……でも、一応念の為に……千歳君、ネタバレはダメですからね?」
そう言って、水瀬さんは口元で指でバツ印を作った。
この天使様……可愛すぎるだろ。
「勿論しないよ」
そう答えると、水瀬さんは優しく微笑んだ。
俺がネタバレをするとは端から思っていなかったようだ。
間も無くして映画が始まる。
今作は、いわゆるミステリー映画だ。
ストーリーの面白さは言わずもがな、演技の素晴らしさや登場人物達の丁寧な心理描写、そして伏線の張り方と回収の仕方があまりにも秀逸なので、始まりから終わりまでまったく目が離せない。
それは観るのが二度目でも変わらず、あっという間に引き込まれた。
「……」
水瀬さんも集中して映画を観ている。
この時をずっと楽しみにしていたんだし当然か。
気が付けば、映画ももうすぐ終盤にさしかかろうとしていた。
その時……ふと、この後のとあるシーンを思い出した。
実はこの後、ほんの少しだけだがホラーシーンがあるのだ。
今作は全体的にクオリティが高く、それは当然そのシーンも含まれる。
そして、実は水瀬さんは……ホラーが大の苦手なのだ。
つまり……
「きゃっ」
予想通りと言うべきか、水瀬さんは突然のホラーシーンに驚き怯えてしまい、思わず俺の手を握ってしまうのだった。
よっぽど怖かったようで、水瀬さんの手は震えている。
水瀬さんに手を握られて緊張で映画に集中できるか心配だが、でもそれで水瀬さんの恐怖が少しでも和らぐなら……
そう思い、俺は水瀬さんの手を握り返した。
「……」
これまでずっとスクリーンに釘付けになっていた水瀬さんの視線が、俺に向けられる。
水瀬さんは驚いた表情を浮かべていたが、すぐに嬉しそうに微笑んだ。
そして、映画の音量にかき消されるくらいの小さな声でボソッと呟くのだった。
「……やっぱり。そうだったんですね」
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