第24話 望まぬ再会

【佐藤悠斗視点】


 やばい、やばいっ……嘘をついていたのが秋菜にバレた!


 内心めちゃくちゃ焦りながら、早足に映画館を後にする。

 あの後から秋菜に連絡を何度もしているが、一向に出る気配が無い。

 これまでこんなこと一度もなかったのに。

 そのことからも、秋菜が怒り心頭なのが伝わってくる。


「と、とりあえず明日、学校で会ったらすぐに全力で謝ろう」


 でも、それだけで許してくれそうな雰囲気じゃなかったよな……


「よし、なら今度はちゃんとお詫びとして秋菜の観たい映画を奢ろう! それと、秋菜がおすすめしてくれたあの本もしっかりと読んでおこう!」


 天使様と呼ばれるくらい秋菜は心優しいし、これできっと許してくれるはず。

 今はそんな希望に縋るしかなかった。


「そうと決まれば早速その本を買いに行くか」


 一度ショッピングモールから出てしまったので、Uターンして書店へと向かうことに。


「でも……」


 俺が嘘をついていたのがバレたので、秋菜があの態度をとるのは分かる。

 けど、夏美が素っ気ない態度をとる理由は今でも分からない。

 確かにあの時、夏美の質問に適当に答えてしまったけど、それだけのことであんな態度をとるとは思えない。

 でも、何かしたような記憶は無いし……


 いや、もしかして……だから・・・……なのか?


 一つの可能性を思い付いた……その時だった。

 ショッピングモールから出てくる制服姿の女子の姿が視界に映る。


 それは、今まさに俺が考えていた人物……


「夏美!」

「っ……悠斗」

 

◇◆◇◆◇


【御影夏美視点】


 ショッピングモールで買い物を済ませたので帰ろうとしていると、思わぬ人物と遭遇した。 

 それは、今一番会いたくないと思っていた人だった。


「夏美!」

「っ……悠斗」


 今日、学校で悠斗から何度も声を掛けられていたが、私は敢えて素っ気ない態度で対応して距離を置くようにしていた。

 それがまさか、こんなところでばったり出くわすなんて……

 

 悠斗が駆け寄って来る。

 悠斗……なんか様子が変だけど、もしかして何かあったのだろうか。

 

「おい、夏美」

「……なに?」

「昨日、夏美からの質問に適当に答えたことは謝るからさ、そろそろ機嫌直してくれよ」

「……謝らなくてもいいよ。別に気にしてないし」


 確かにあの時、まったく興味が無いような答えや態度をされてショックを受けたのは紛れもない事実。

 でも今言ったように、あのことは別にもう気にしていない。


 けど、どうやら悠斗はそうは思わなかったらしく……


「気にしてないって嘘だろ。だったら、なんでいつも通りに接しないんだよ」

「それは……」


 正直に言うべきだろうか、今の悠斗が前までの……私が好きになった悠斗とは別人であると。

 でも、多少なりともその自覚があるのならまだ話は通じるだろうけど、悠斗の様子を見るに自覚はなさそうだから言っても通じないし信じない気がする。


 内心迷っていると、悠斗が突然こんな事を言い出した。


「もしかして……俺が何もしてこなかったからか?」

「えっ、ごめん。どゆこと? 全然意味分かんないんだけど……」


 そして悠斗は、予想外であり信じられない言葉を告げるのだった。


「だから、俺が夏美の好意に対してこれまで何もしてこなかったから機嫌を悪くしてるのかってことだ」

「……はっ?」


 どういう思考回路をしたらそんな結論が出てくるのかまったく分からず、私は驚きのあまり言葉を失う。


 えっ……ていうか今、なんて言った?

 私の好意……?

 誰に対しての……?


「……なに、勘違いしてんの」

「いや、なにも勘違いじゃないだろ。だって夏美は俺のことが────」

「っ……」


 正直、悠斗がどうしてこんな事を突然言い出したのかはまったく分からない。

 でも、悠斗がこの次に何を言おうとしているのかだけは分かった。

 だから私はそれを……それだけは絶対に言わせない為に、言葉を遮って声を荒げてハッキリと告げるのだった。


「違う! 勘違いしないで! 私が好きなのは“”であって……あんたじゃない!」

「はっ!?」


 今度は悠斗が私の言葉を聞いて呆気に取られていたけど、それもすぐに苛立った表情へと変わっていく。


「なにを意味分からんこと言ってるんだ! あれだけ俺に対して露骨な態度で好意をアピールしてきたくせに!」

「だからそれは────」


 この時、夏美と悠斗は人目も気にせず言い合いを繰り広げていたが、声を掛けられるような雰囲気じゃなかったので周囲の人達は静観していたのだった。

 

 しかし……


「おっ……やっぱり、あの時の美少女ギャルじゃ〜ん」


 そんな雰囲気など知ったこっちゃないと言わんばかりに、空気を読まずに二人に近づいて来る一人の軽薄そうな男。


「っ……」

 

 その男を見て、夏美は苦い顔を浮かべた。


 ……この人とは前に一度しか会った事がない。

 けど、すぐに思い出せた。

 いや、忘れるはずがなかった……忘れられるはずがなかった。

 でもそれは、決して良い意味じゃない。

 これは望まぬ再会だった。

 

「あんた……」

「久しぶり〜」


 なぜなら、この男こそ……前に私に絡んできた不良なのだから。

 そして、それはつまり……

 

「それと……よぉ、会いたかったぜ」


 先ほどまでニヤニヤとした笑みを浮かべていた男だったが、悠斗を見ると表情が一変。

 険しい表情を浮かべて、悠斗を鋭い眼光で睨みつける。

 蛇に睨まれた蛙のように、悠斗の表情には恐怖が表れていた。


 この男は、前に私に絡んできた不良。

 それはつまり……その時に一度、悠斗が撃退してくれたということ。


 でも、それは……


「この前はよくもやってくれたなァ」

「ひぃ……っ」


 今の・・悠斗・・じゃなくて……

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