第19話 鉱山ダンジョンへ

 翌日、ボクたちはまたログインする。

 

「久々のバグ報告だね、ビビ」


『ケントご主人、大忙しだニャー』


「アハハ。メール来ちゃったからね」


 実は運営から、バグ取りと調査を直接依頼された。


 ボクなんかで役に立つんだろうか。


 とりあえず、ボクとビビは、トワさんと待ち合わせた。


 今日は、いっしょにダンジョンを回る予定である。


「ケント。こんばんは」


 しばらくして、ベルさんが待ち合わせ場所に現れた。ボクたちと、共に行動してくれる。


「おまたせー、ケントくーん」


 お店を終えて、トワさんがやってきた。


 武装が、若干変わっている。


 タンクトップ、ショートパンツだ。武器は、ハンマーである。

 鍛冶屋って、そのまま戦闘職もできるんだな。ドワーフの腕力補正もあるみたいだし。

 

「いえ、全然待っていません」


「よかったー。そちらの方は?」


「ボクのフレンドの、ベルさんです」


 今日は、ベルさんもいっしょだ。トワさんの話をしていたら、「是非お知り合いになりたい」と、同行してくれた。


「どうも、はじめまして。ベルです。こちらは愛犬のナイン」


「はじめましてー。トワでーす。ドワーフの鍛冶屋ですよー」


 トップランカーが来ようが、トワさんは動じない。いつもどおりのマイペースである。


 トワさんはドワーフというが、ショートカットで細マッチョのちびっ子である。実物は、もっと背が高い。似ているのは、ショートなところぐらいか。


 二、三こと会話しただけで、二人はもうすっかり打ち解けていた。

 世代とかぜんぜん違うのに、もう敬語が抜けている。


 主に、ボクとビビの話題で盛り上がっているみたい。

 話すことなんて、そんなにあるのかな?

 

「この子は、すしおー。三毛猫のオスだよー」


 すしおくんは、トワさんに持ち上げられて、されるがままになっていた。なんの抵抗もしない。


「ところで、すしおくんの職業は僧侶なの?」


「【モンク】ってのがあったから、それにしたー」


 土魔法が得意な格闘家で、大地の力を使った回復も得意な職業である。

 

 すしおくんはマントを羽織って、僧侶っぽい貫頭衣を着ていた。トワさんは、もっとかわいい服とかを着せたかったみたいだけど、太りすぎてて身体が入らないという。


「かわいいわね。おとなしい」


「おとなしいというか、無気力なんだよねー」


 すしおくんは、「なあ」と鳴くだけ。「これからダンジョンへ向かうんだ」という、緊張感も感じられず。

 まあ、リラックスしていると思えばいいかな。


「いいじゃない。ネコって、そんなもんよ」

 

「一応、ダンジョン巡りはできそうだから、安心してねー」


「期待しているわ。じゃあ、行きましょ」


 ベルさん先導で、ダンジョンに向かうことにした。


「それにしても、いきなりでしたね。バグ報告って」

 

「そうなの。進行不可のバグって、今まで出てこなかったんだけど」


 たいていは、魔物が大量に湧くとか、特定のエリアに入れないなどである。


 今回のバグは、かなり深刻そうだ。早く、取り除かないと。


「まだ開発途中でー、バグと銘打ってー、進行を妨げているとかはー?」


「運営だって、そんなポンコツじゃないわ。あと四エリアくらい追加しようか、って話しているくらいだから」


 開発チームは、進行状況を随時アップしている。


 その記事を、ベルさんは引用した。


「そっかー。じゃあ、急がないとねー」


 「バグ取りの依頼は受けているけど、楽しんでちょうだいね。バグに気を取られて、遊ぶことをおろそかにしたら、元も子もないから」


「おっけー」


 リオーネ鉱山は、見た目こそそんなに変化がない。普通に、岩山のダンジョンだ。

 冒険者たちが、がっかりしたような表情で帰っていくこと以外は。


「魔物が強くなっているなどの報告は、出ていないわ。安心してちょうだい」


「はい。行きましょう」


 ボクたちは、歩みを進めていく。


 一応、ビビの様子を伺った。特に、変化はない。なにかしゃべりたそうにも、していなかった。


「危なくなったら、知られてね、ビビ」


 ボクが声をかけると、ビビが『ニャー』と鳴く。


「やっぱり、あなたたちは通じ合っているみたいね」


「そうだよねー。話しかけられて、ビビちゃんうれしそー」


 ベルさんとトワさんが、ボクたちに視線を向けてきた。


「アビリティのおかげですよ」


 ボクは、適当にごまかす。

 

「モンスターですよ」


 二体の大トカゲが、ボクたちの前に立ちふさがる。狭い通路に、このデカさはキツイ。逃げられないだろう。迎え撃つしかない。

 

「えっと、スキルってどう使うんだっけ?」


 トワさんが、操作方法で悩んでいる。


「こうよ」


 ベルさんとナインくんが、スキルの扱いを実践してみせた。

 それぞれ一体ずつ、倒す。


「おーっ。やるもんだ」


「次が来るわ」


「おっけー。今度は任せてー。【ロック・スイング】!」

 

 トカゲの眉間に、トワさんがハンマーを打ち下ろした。土魔法をアクションに上乗せして、攻撃力を上げている。

 

 一撃で、大トカゲを倒した。


 一方、すしおくんもネコパンチ一発。それだけで、大トカゲをやっつける。ビンタじゃなくて、相手のおでこを押し付ける感じで。


 おお、さすが格闘家って感じ?

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