第27話 ねこのオフかい
ケントご主人がオフロに入っている間、ニャアはベランダに出る。
こんなところに、ドロボーなんて入ってこない。
周りもいい人たちばかりなので、外の空気を取り込むことができる。
寒くなってきたとはいえ、二階はまだあたたかい。ポカポカ陽気に、ウトウトする。
「おーい、ビビー」
下の階にいる、すしおも同じような感じ。アパートのお庭で、休んでいる。
寒いのに外に出て、大丈夫なのかしら。あいつ、あんまり丈夫な方じゃないし。
ニャアはテーブルにおいてある、おやつの「猫用かつおぶし」の小さい袋を口にくわえた。
一袋まるまるドッサリ入っているタイプではなく、小分けパックなのがありがたい。
パイプを伝って、スーッと庭に降りる。
「すしお。あんたが外にいるなんて、珍しいニャ」
ニャアは前足で袋を押さえながら、歯で封を開ける。
「オフ会、楽しみだなー、ってなー」
すしおは、トワさんと同じような話し方をする。イエネコは飼い主に似るというが、本当だ。
「そうだニャー」
意外だ。すしおはあまり、外に出たがらないと思っていたが。
「自分でも、ビックリしてるんだよなー。出不精だったのになーってさー」
すしおなりに、うれしいのかもしれない。
「なんだかんだいって、すしおは遠出も楽しんでいるニャー」
「運んでもらうなら、オレも動かなくていいからなー。家来がいるから、安心安全だしなー」
すしおは自分の家族のことを、「家来」と呼んでいる。
だが、これはただの愛称のようなもので。ホントにトワさんご主人たちを、召使だとは思っていない。
彼の口調は、ただの照れ隠しである。
「ナインとも、話せるかニャ?」
さすがにニャアも、犬語は解読できない。
ペット同士だから、いけると思っていたんだけど。
「話せるといいなー」
すしおの方も、ナインを悪くは思っていない。
「こんにちはー」
「にゃにゃーん」
他の家からも、猫たちが続々とアパートの庭に集まってきた。
このアパートの庭は、ネコたちの集会場となっている。
ノラもイエネコも、関係ない。
ネコたちはここを拠点として、情報収集の場として活用しているのだ。
イエネコ組は、話し相手が欲しくてきたのだろう。
ノラは、かつおぶしの匂いにつられたかな。
「人間界では、なにかおもしろいことがあるか?」
「あのゲーム、面白いにゃー」
年配のモーさんが、『
牛柄のネコで、我が集会の最年長だ。モー「さん」までが、名前である。
飼い主は息子夫婦に、田舎から都会に呼んでもらった。いわゆる、三世代の世帯である。
孫がゲーム好きなためか、モーさんも最新のゲームにも詳しい。
「人間がペットといっしょに、ゲームできるとは。我々の時代からは、考えられないな」
「でも、ご主人さまが高齢だから、ついていけてないにゃー」
「ヒーラーって、結構周りを見ていないといけないから、大変だにゃー。ご主人さまも、『動かなくていいから、楽だと思っていたのに』ってグチってたにゃー」
飼い主は最近、ゲームをせず、掲示板を見る機会が増えたとか。
「動くのがしんどいなら、オレんちみたいにお店を構えて店番するといいぞー」
「そうするにゃー。でもビビちゃんみたいに、【以心伝心】なんて持ってにゃいんよー」
モーさんが、ションボリする。
「そのうち、ご主人にもなんとなくわかってくるニャー」
「ありがとうにゃー。でもにゃー、そんなにうまくいくかにゃー?」
「なんだったら、ウチのポーション屋さんのお店番でもするかニャー?」
ケントご主人の畑を管理してもらいたいし、相方が増えるのはうれしいかも。
「それとなく、ケントご主人に話してみるニャー」
「ありがとうにゃー。助かるにゃん」
これで、モーさんの問題は解決した。
「人間の管理は、大変だな」
「そうね。ワタシたちは毎日がサバイバルだけど、イエネコはイエネコで、考えることが多そうね」
ノラ二匹が、ニャアたちに対してそう告げる。
「お前たちも、ゲームできたらいいのにニャー。毎日のように会えるニャ」
「我々ノラは、ノラなりに楽しんでいるよ。ここは車の通りも制限しているから、安全だし」
メスネコの方も、「暴走するチャリもいないからね」と。
こういった、ノラの自由さはうらやましい。
とはいえ、ケントご主人から離れたいかと言うと違う。
もう、ケントご主人のいない生活は、考えられない。
「すっかり依存だな」
「かもニャー。でも、ケントご主人もお互い様だから、いいんだニャー」
「お前たちは、ご主人と守り合いながら暮せばいい。ノラはノラで、スリリングな毎日を助け合いながら生きるさ」
「お話できて、よかったニャー」
「おう。では、狩りの時間なのでこれで」
「寒くなったら、ここの軒下に逃げるニャー。空けておくからニャー」
「助かる。じゃあな」
ニャアも、パイプを伝って家に戻る。
もうすぐ、ケントご主人がオフロから上がってくるはずだ。
かつおぶしは、自分ひとりで食べちゃったことにしよう。
その後、ゲームにログインしたケントご主人に、ポーション屋さんの店員に心当たりがあると、それとなく伝えてみた。
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