第26話 オフ会のお誘い

「オフ会ですか?」


「うん。オフ会。ベルちゃんが、ウチに会いたいらしいんよー」


 トワさんが、「オフ会をしよう」という。


「ベルちゃんとリモートで話しているうちに、オフ会しないかって話題になってー。近い内に、ケントくんともリアルで会いたいねーって。ねー」


 トワさんが、カウンターに寝そべっているすしおくんを撫でる。


 リモート?

 まるで、最近まで連絡をし合っていたみたいな言い方だな。


「ベルさんとは、よくお話をされているんですか?」


「そうなんだよー。ウチから誘ってみたらさー、リモートでお話することになってさー」


 思いの外、女子トークが盛り上がったという。

 

 トントン拍子に、「リアルでも会わないか」となったらしい。

 

「といっても、ウチが一方的に話し込んでただけなんだけどねー」


 相手側は、トワさんからの質問に答え続けていたそうだ。


「ケント、こんばんは」


 ベルさんも、ログインしてきた。ドーベルマンニンジャのナインくんと、手を繋いでいる。


「こんばんはベルさん。オフ会の話をしていたところです」


「うん。ごめんなさい。一度、ケントともリアルで会いたいって、勝手に」


「構いませんよ。お家は、近いんですか?」


「ええ。割と。職場もほとんどリモート作業だから、家を出ないことが多いの。だから、人恋しくなっちゃって」


 それで、リモートの話を振ってくれたのか。


「みなさんは、お時間大丈夫なんですか?」


「問題ないわ。ナインの散歩も兼ねて、遠出しようかなって」


 ベルさんは、ナインくんの頭を撫でている。

 

 ナインくんは、おとなしくベルさんに撫でられていた。 


 それにしても、愛犬が自分より背が高いって。結構、脳がバグるような気がするんだけど。


「ベルさんは、どうしてナインくんの背を高くしているんです?」


「ナインはいつも、あたしを見上げているでしょ? ゲームの中くらい、立場が逆転してもいいかなって。ね?」


 ベルさんが声を掛ける、ナインくんも「わふん」と返す。


「トワさんは、ご家族とかは大丈夫ですか?」


「へーきへーき。ダンナの仕事も、そこまで時間に追われていないし。子育ても運用資産でどうにかなってるから、時間を仕事で潰されることもないしねー」


 さすが、資産運用家族はすごいな。


「チビたちはまだ手がかかるけど、ダンナが見てくれてるからー」


 ダンナさんもダンナさんで、子どもたちと遊ぶのを楽しんでいるみたい。


「ただ、もうすぐ冬休みだから、旅行でもしようかってー。今チビたちとスケジュール合わせてしてるよー」


 旅行か。いいな。


「ペットも連れていける、温泉に行くんだー。ペットからすると、旅行自体がストレスっぽいんだけどねー。『PペットRランFファクトリー』で、慣れてもらおうかーって話になってるよー」


 ネコは、環境の変化に敏感だ。基本的に、新しい場所を嫌う。


 旅行も、一泊が限度だろうと話し合っているそうだ。


「だからオフ会をやるなら、その前でお願いしたいんだけど」


「問題ありません」


「急でごめんねー。こっちの都合ばかり、押し付けちゃってー」


 申し訳なさそうに、トワさんが手を合わせる。


「構わないわよ。あたしも早く会いたいわ」


「ありがとー。一応、場所はここの古民家なんだけど」


 ゲーム内メールに添付して、トワさんが地図を見せてくれた。

 

「いいですね。古民家を、貸し出してくれるんですね?」


 ペット撮影用の古民家を、貸し切りにする予定だとか。


「七五三のシーズンが終わったら、貸し切ってOKだって」


 お庭もあるから、ナインくんを遊ばせることもできる。


「ベルちゃんが、見繕ってくれたんだよー。ネコも犬もいっしょに遊べる場所、ないかなーって」


「というか、あたしが古民家のおじさんと仲がいいの。ゲームも一緒にログインできるわよ」


 ベルさんに、そんな知り合いがいたとは。


「そうなんですね。どんなキャラでプレイしているんですか?」


「カメよ」


 古民家撮影所の店長さんは、小さいカメを飼ってるんだとか。


「カメって、PRFに入れたんですね?」


「水槽の酸素入れに、ログインとモーション装置が付属しているそうよ」


 水棲のペットと、ゲームで遊べるとか。このゲーム、どこまで進化するんだろう? 


「でも、めっちゃ強いタンクよ。たまにパーティを組んでるんだけど、お世話になっているわ」


 最近始めたばかりなのに、あっという間に強くなったらしい。


「ただ『古のネット民』だから、ネットリテラシーは察してね。たまに意味不明なことを、言い出すから」


「わかりました」


 ああ、うん。いるよね、そういう人って。


「急だったし、ウチのわがままに付き合ってもらってるから、予算はこっちで用意するねー」


「そんな。ご用意しますよ」


 ボクもベルさんもお金を出すといったら、トワさんから丁重にお断りされた。

 

「いいのいいのー。この次に何かあったら、みんなごちそうしてー」


「わかりました。今日はありがとうございます」


「ありがとー」


 トワさんは、ログアウトする。


 ベルさんも「じゃあね」と、アウトした。

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