第25話 リアル割れの危機!?

「もしかしてボク、リアル割れしているのかな?」


 リアル割れとは、ネット上で自分がしている言動が、リアル社会で知られてしまうことだ。


 この間、ボクはスーパーで、老犬を連れた女性とぶつかってしまた。

 その際に、携帯を落としてしまった。


 女性は、ボクの携帯を見ながら、ビビの名前をつぶやいていたっけ。


 たしかに、ボクは待ち受け画面をビビの寝顔にしている。


 でも、あれがビビだとわかる人なんて、ボクしかいないはずだ。


 たしかにゲーム内のキャラは、ビビに似せている。でも、サビネコなんてどこにでもいるはずだ。灰サビネコなんて、それこそ星の数ほどいる。


 そんな中で、このコをビビだといい切れる人なんて、数えるくらいしかいないはず。


「いったい、誰なんだろう?」


『実況をしているわけでも、ないしニャー。目立つ行動は、していないはずだニャー』

 

PペットRランFファクトリー』のプレイヤーには、プレイ内容を配信しているユーザーもいる。

 公式も、配信を禁止していない。節度を守ってさえいれば、誰だって配信は可能である。


「やらない、やらない。ボクに実況なんてムリだよ」

 

 ボクはゲームをしながら、配信なんてしていない。そんな器用なことはできないし、視聴者を楽しませる会話スキルだって皆無だ。接客しなくていい業種を、率先して仕事場に選んでいるくらいだし。


 誰かに見せびらかすために、ビビを飼っているわけでもない。ビビのよさは、ボクだけが知っていればいいからね。


 でも、相手はビビの存在を明確に知っていた感じがする。


『同じプレイヤーなのは、たしかニャ』


 だよねぇ。とはいえ……。


「大家さんが、ボクのことを他人に話すとは思えないし」


 トワさんはおおらかな性格だが、他人の秘密を相手にバラすような人じゃない。そんな人だったら、交流をやめている。仮にもあの人は、ベンチャーの社長夫人だ。信用が大切な立場なので、知り合いに不義理を働くとは思えない。


「気にしても、しょうがないよ」


 なんからの事情でビビの存在が知れ渡っているとしても、無視していればいいかな。


 見知った相手なら、あちらから声をかけてくるだろうし。


『そーだニャー。でも、あんな美人さんにも、ニャアの存在が知れ渡っているニャかー?』


「わからないけど、ビビはキレイなのは確かだよ」


『ありがとうニャー』


 ビビが、大きくアクビをした。


「眠い?」


『いつも以上に、脳みそを使ったからニャー。眠いニャー』


「ボクも一眠りするよ。おやすみ、ビビ」


『じゃあ、おやすみニャー』


 ボクは、ゲームをログアウトする。


 直後、ビビがボクのベッドへ移動した。ゴロンとなって、寝息を立てる。


 ビビを起こさないように、ボクもベッドに寝転んだ。


 ビビの寝顔を見ていると、リアル割れの心配も吹っ飛ぶ。


 



 翌日、大家のトワさんが家に来た。


「おでんですか。いいですね」

 

「そうなんだー。急に、食べたくなってさー」


 トワさんのおでんは、いつでもおいしい。


「今から、ゲームに入る?」


「はい。大家さんが欲しがっていたアイテムが手に入りましたよ。お渡しします」


「ありがとー。話したいこともあるんだよね」


「そうですか」


 立ち話もなんだから、と詳しい話は後に。


「それでは、ゲームで会おうねー」


 トワさんが、帰っていく。

 


 ビビとごはんを食べた後、ログインする。

 

 さっそく、トワさんのアバター、「アントワーヌ」さんの元へ。


「トワさん。こんばんは」


「こんばんはー」


「例のアイテムです」


 ボクは、【赤い鉄】、【黒曜石】、【スケルトンの灰】を渡す。


「さっそく、装備の開発をするからねー」


 トワさんが、アイテムを加工し始めた。

 

 トンテンカンと、軽快な音が鳴る。


「できたよー」


 トワさんから、装備を受け取った。


 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~

 


【赤熱の剣】

 赤い鉄を加工してできた、火炎属性のロングソード。

 盾を持ちながらでも、戦える。


【黒曜石の篭手】

 耐熱効果の高い、篭手。

 どんなタイプのペットにも、ジャストフィット。


【従属の骨】

 一部の魔物が夢中になる、ドラゴンの骨でできたオモチャ。

 骨の内部にある髄液の効果で、モンスターに与えることでテイムできる。



 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~



【赤熱の剣】は、ボクが装備する。このところ攻撃面に不安があったので、武器の強化はありがたい。フィジカルは固くなっているので、あとは攻撃力を上げていければ。


【黒曜石の篭手】は、ビビが装備した。ビビの素早さを活かすには、あまり重いヨロイなどを装備したくない。この篭手は、非常に役立つはず。 


【従属の骨】は、ビビがないがしろになりそうだな。モンスターをテイムできるのは、おもしろそうだけど。

 

「ありがとうございます。役立ててみせます」


「そういってもらえると、助かるよー」


 トワさんが喜んでいると、すしおくんがトワさんの肩に身体をスリスリしてきた。飼い主がうれしそうで、すしおくんもなんだか楽しそう。


 アビリティ【以心伝心】はビビが持っているので、ボクにはすしおくんの気持ちなんてわからないけど。


「そうだケントくん、オフ会やらなーい?」

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