第15話 大家さんのキャラ完成

健人けんとくん、【アビリティ】ってなに?」


 大家のトワさんが、ボクに問いかけてきた。


「待ってくださいね。チェックするので」


 ボクは、解説項目をチェックする。


[【アビリティ】とは、キャラクターに永続的な効果をもたらす技能です。スキルとは違い、アビリティは育ちません。が、そのキャラクターの個性を決定づけるので、スキル自体が成長します]


 と、書かれていた。


「だそうです」


「うわー悩むねえ」


 こういうときは、自分の個性に合わせてやるのが一番なんだけど……。


「他の人の邪魔を、したくないんだよねえ」

 

 いい意味でも悪い意味でも、トワさんは人に合わせてしまう。

 高校のゲーム部時代から、そうだ。空気を読める人だから、周りはついてきてくれる。だが、自分が楽しめているかというと、どうなのか。最後まで、わからない人だったなあ。


「どっちかというと、すしおのために買ってきた感じだし」


 三毛猫のすしおくんは、「招き猫の置物かな」と思わせるくらいにでっぷりしている。


 おそらくトワさんは、運動不足を懸念してるのだろう。


「とはいっても、すしおくんが動くかどうか」


「だよねえ」

 

「トワさん、こういうときは、逆算しましょう。すしおくんに、どんな役割をさせたいか」


 ボクは、一つ提案をする。


 やることが決まっていないなら、飼い猫の性格に合わせればいい。

 

「このコは、こんなでしょー? ズボラなんだよー。だから、全部こっちがしてあげないとねー」


「でしたら、これなんてどうでしょう?」


「……アビリティ、【山のごとし】?」


『突っ立っているだけで、周囲の防御力がアップする』というアビリティだ。

 タンク職のアビリティなんだけど、積極的に攻撃してこないならこれかなと。


PペットRランFファクトリーで遊んでいるペットの中には、割と言うことを聞かない子も多いんですよ」


「生き物だもんねー。ソワソワしちゃうのかも」


「動かない子もいるので、すしおくんにはちょうどいいと思いますよ」


「わかったー。考えてみるねー」


 だが、なかなか決まらない。

 やっぱり、悩むよね。すしおくんは、消極的な性格の子だからなあ。


 アビリティより、職業から決めることに。


「トワさんって、具体的に、何がしたいです?」


「生産職!」

 

 これは、すぐに決まった。


「ウチって、家にずっといるでしょ? チビがまだ小さいから、目を離せないんだー。でも、人とは関わりを持ちたいし」


 それで、生産職と。


「では、【錬金術師】か【鍛冶屋】はいかがです?」


「ふむふむ。いいね。鍛冶屋がいい」


 錬金術はボクが持っていると説明すると、鍛冶屋を選んだ。


 トワさんは、種族をドワーフにした。戦闘時は、前衛のパワータイプで戦う。


「すしおは、どうしようかな?」


「商人なんてのは?」


「いいね! 見るからに招き猫じゃーん!」


 お店のマスコットとして、置物になってもらえばいい。これなら、動かなくてもOKだ。


「じゃあ、すしおのアビリティはこれだなー。【明王のご利益】!」


「へえ! 仕入れ値が三割引って、大きいですね」


 不動明王には、商売繁盛のご利益がある。

 コンセプトが決定したことで、アビリティもあっさり決まった。


「【山のごとし】は、ウチが取るよー」


 ボクが教えたアビリティは、トワさんが取ることに。

 

「わかりました。これで、OKです」


 一時間ほどして、ゲームをプレイできるようになった。


 気がつくと、トワさんの旦那さんとお子さんが食い入るように画面を見ている。


 PCと繋いでいるため、モニタと連動しているのだ。 

 

 お子さんも見守る中、トワ先輩はどうにかログインまでこぎ着けた。


「おっと、お腹が空いてるよねー。待っててー。支度するからー」


 トワさんが、データを保存して一旦中断する。


「いいよ。遊んでて。カレーは、オレが温めておいたから」


「そういうわけにもいかないよー。ご飯は、みんなで食べましょー」


 なんの惜しげもなく、ゲームから離脱した。


「それにしても、オンゲで生産職か。かーちゃんらしいな。オレ、負けちまいそうだぜ」


 絶賛商売人の竹中さんも、要領のいいトワさんのプレイが気になっているようだ。


「なにを言ってんのさー。大黒柱が、人妻に敗北宣言してんじゃねーよ」


 トワさんが、竹中さんに軽くチョップをする。


 いいな、こんな家庭。

 

「じゃあ健人くん、ありがとー。一旦休んでさ、ご飯食べていってよ」


「お気持ちはうれしいのですが、ビビと食べますので。では、お邪魔しました」


 そろそろビビも、お腹をすかせている頃だ。帰ってご飯だね。


「わかったー。ビビちゃんに謝っておいてー。じゃあまた、ゲームの中でねー」


 耐熱容器にカレーを入れてもらい、ボクは退室した。


 ひとまず、ビビのごはんだ。


 ボクは、カレーをいただく。


 トワさん一家のカレーは、ポークである。


 なので、ビビにも豚肉の缶を開けてあげた。

 

 食事をビビといっしょに終わって、ゲームにログインを。


 これから一時間後に、トワさんと待ち合わせをしている。


 アビリティか。ボクもビビと確認をしに行こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る