第16話 アビリティ 【以心伝心】
『おかえりニャー』
さっそくビビが、ボクに声をかけてくる。
『他の女の、カレーの匂いがするニャー』
「まあまあ。大家さんだからね」
ビビも『冗談ニャー』と笑う。
『大家さん、ログイン、うまくいったのかニャー?』
「大丈夫だった」
大型アップデートがあったため、ログインが困難になっていただけだと告げる。
「アビリティのことかニャー?」
よく知ってるなあ、ビビは。さっき説明があったばかりなのに。
「ボクたち初期プレイヤーは、はじめから備わっているそうだよ」
選択する自由はなくないけど、戦闘経験からかなり有益なアビリティが手に入るらしい。
「ビビは、アビリティは気になる?」
『ご主人のお役に立てるか、楽しみニャー』
「ビビはいてくれるだけで、癒やされているよ」
『ありがたいニャー』
さっそく、二人で確認をし合う。
『ケントご主人は、【最強のふたり】って書いてあるニャー』
ペットにバフ効果をもたらす、アビリティだ。ボクが強くなると、ビビも相乗効果で強くなるみたい。
これは、ボクも気になっていた。もらえてよかったよ。
「ビビは……【以心伝心】?」
飼い主と心を通わせることができる、だって。
このアビリティがあるから、ビビとも会話できるのかな?
「でも、アビリティの選択項目にはなかったなあ」
トワさんと遊んだときは、そんな名前のアビリティは存在していない。
こんな最高のアビリティなら、飼い主はみんなこぞって選ぶはずだけど。
『運営でも管理しきれていない、アビリティなのかもニャー』
そのようなアビリティなんて、あるのかな?
でも大量のバグがあるゲームだし、アクシデントととは隣り合わせなのかもね。
「ビビがバグ取りをしたことで、ボクと意思疎通ができるようになった可能性は高いけど」
『まだわからないニャー』
これは、調査が必要かもね。
時間だから、大家さんに会いに行こう。
『大家さんは、なんという名前でプレイしているのかニャー?』
「たしか、【アントワーヌ】だって」
自分の名前の「トワ」から取って、「アントワーヌ」にしたらしい。「トワだけだと他の人も使ってそうだから、長い名前にした」とのこと。
ボクはありふれた名前だから、目立たないように自分の名前にしたんだけど。
「こんにちはー」
「あら、いらっしゃーい」
トワさんことアントワーヌさんは、見事に露店を開いていた。露天レベルは「一」だ。
鍛冶屋などの生産職は、レベルが上がると店の規模も上がる。ある程度の大きさになると、NPCや他のプレイヤーに店番を任せることだってできる。
「どうして、アントワーヌにしたんです?」
「アントニオの女読み」
「えっと……ああ、アントニオ・バンデラスですか?」
3Dアニメ『長ぐつをはいたネコ』の役者が、アントニオ・バンデラスだったよなー。
「違うよ。『じゃりン子チエ』」
あーっ。あのネコかー。
「それはそうと、トワさん。商業ギルドに行けたんですね?」
「うん。いろんな人から話を聞いて、露天の出し方も教わったー」
さすがトワさん、コミュ力が高い。
「アントワーヌは長いから、ケントくんは普通にトワでいいよー」
「ではトワさん、必要なものはありますか?」
「これだけ、ほしいんだよー」
トワさんが、リストを見せてくれた。
魔物の牙や爪、鉄鉱石か。【朱砂】などの宝石や、【植物の角】といった変わったものまで必要みたい。
「結構な量が、求められるんですね」
「生産職って戦わなくてもいいけど、要求されるものが多いんだよねー」
生産職は戦わなくても戦闘経験値が貯まる代わりに、レベルアップには大量の生産が必要になる。
「魔獣の【爪】と【牙】なら、これだけありますよ」
ボクは大量に、爪と牙を持っていた。アイテムボックスを埋め尽くすほど。ギルドに提供してもこれ以上必要ないと言われて、インベントリ内を圧迫していたのである。
「ありがとー助かるよー」
さっそくトワさんは、鍛冶を始めた。魔獣の爪では、ナイフを。魔獣の牙では、矢を作った。できあがった品を、店に並べる。
どうにかボクの所持品で、トワさんのレベルが上ったみたい。
ボクも素材が売れて、ホクホクだ。
トワさんはアビリティで、三割引きで取引できる。「商業ギルドが、仕入れ値の一部を負担してくれる」という設定のようだ。
「うんとレベルを上げて、キミたちに見合う武器も作れるようになるからねー」
「ありがとうございます。防具は一応、一式揃えました」
トワさんに、胸当てを見せる。ビビの装備している、革鎧なども。
ボクの装備している胸当ては、ダンジョンで手に入れたものだ。
「胸当ては素材がないと強化できないけど、ビビちゃんのはすぐに作れるよ。魔獣の【革】ってある?」
「あります。今出しますね」
ボクはトワさんに、魔獣の革を渡す。
ものの数秒で、鍛冶が完成した。
ビビが、ボクの腰辺りをチョンチョンとする。
「あっ。強化素材ならあります!」
ボクは、クモの糸をトワさんに渡す。
これを教えたかったんだよね、ビビ?
「ビビちゃん、よく気がついたねー? それにしてもケントくんは、ビビちゃんの言いたいことがわかるのかなー?」
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