第17話 商売開始
ボクもビビも、固まってしまう。
周りに気を配ることが多いためか、トワさんはやはりスキがない。
まずいぞ。ここでビビが言葉を理解できるってわかっちゃったら、大変だな。
「ああ、アビリティのおかげですよ……」
ボクは、適当にごまかす。
「そっかー。【以心伝心】って、そういう使い方をするんだねー」
あやうく、ビビの秘密がバレるところだった。
「でも、ネコちゃんが飼い主のことを色々と気遣ってくれるって、エモいねー」
「そうなんですよ。本当はどうかわからないけど、飼い主のフォローをしてくれている感じはしますよ」
「たとえフレーバーみたいな要素だとしても、うれしいよねー」
トワさんが、ボクから素材を受け取る。
「おお、これで素早さがアップするね」
「ホントですね。ステータスを確認したら、素早さが上がっていました」
クモの糸の伸縮性により、本当に素早さがアップしていた。重いヨロイを着ているはずなのに、身体を動かしやすくなっている。
これが恒久的に、今後も装備に影響が出るっていうんだから、すごいな。
「強化素材を用いた装備を作ったら、ウチの鍛冶レベルも更に上がるってもんよー」
クモの糸で装備を強化するのが、トワさんの鍛冶レベルアップの条件だったみたい。
「あとは、ダンジョンだねー。ウチも行こうかなー?」
トワさんも、戦闘を経験しておきたいらしい。
一度体験していれば、冒険者がどのような装備がほしいかもわかってくる。
ペットの動きなども確認できるので、いいかもしれないと。
「今日は遅いですから、今度にしましょう」
鍛冶スキルは、初級だと結構時間がかかってしまう。
実際、もう子どもたちは寝る時間となっていた。
トワさんの方は、もうタイムオーバーだろう。ご家族と食事をしていて、ログインも遅かったし。
「だねー。でも、お客さん大丈夫かな? ウチがアウトしたら、お客さんを待たせてしまうんじゃ?」
「売買は、オートでやってくれますよ」
ただ鍛冶を依頼する場合は、『予約』という形になる。
それ以外は、すべて商業ギルドが請け負ってくれるのだ。
「ボクたちも、ダンジョンに入るのは明日以降になりますね」
「じゃあ、明日また待ち合わせするー?」
「そうしましょうか」
ボクは、トワさんと約束を取り付ける。
「鉱石はこっちで取るから、戦闘をお願いできるとありがたいんだよねー」
「わかりました。引き受けましょう」
「じゃあ今日はこの辺で、アウトするよー」
「お疲れさまでした」
トワさんがアウトしたのを確認して、ボクたちはハアっとため息をつく。
「危なかったね」
『うかつだったニャー』
「いやいや、ビビのせいじゃないから。それにトワさんも、ビビがボクと話せるなんて思っていないだろうね。もしボクがホントのことを話しても、笑って冗談だろと考えてくれるよ」
自分を責めようとしたビビを、落ち着かせる。
「とはいえ。あれだと今は、ダンジョンに連れていけないね」
どこがで、ボクがボロを出しそうだ。
「打ち合わせしよう。できるだけ、ビビはしゃべらないようにね」
『心得ているニャー』
「ありがとう」
トワさんは、以心伝心アビリティなんて、フレーバーだと思っている。飼い主をその気にさせるための。
まさか、本当に飼い主と会話ができるなんて、思っていないだろう。
「ボクたちは、もう少しゲームをしていようか」
『そうだニャー』
ダンジョンへ向かう前に、冒険者ギルドに行った。クエストがないかどうか、掲示板で探す。
トワさんが欲しがっている素材アイテムは、【赤い鉄】、【黒曜石】、【スケルトンの灰】、【紅蓮の魔晶石】である。
どっちも、鉱山で手に入るな。
『紅蓮の魔晶石は、クエストアイテムでもあるニャー』
冒険者ギルドで、ビビが確認していた。
ボクも拠点に、お店を建てようかな。
『ケントご主人、お店をやるニャー?』
「うん。ポーションを売る段階に入ろうかなって」
商業ギルドに向かった。
「いらっしゃいませ」
「ポーションを売るための、露天を出したいんですが」
商売は一応、拠点でも可能だ。
しかし、辺鄙な拠点に建ててしまうと、知り合い以外は誰も寄ってくれない。
街の商業エリアに露天を建てたほうがいいだろう。
手頃な場所を教えてもらい、露店を出す。
トワさんのお店の、隣になっちゃったけど。
作ったポーションを置いておく。
一度作ったものなら、素材さえ登録しておけば勝手にできあがる。あとは、オートで売ってくれるのだ。
素材の管理や、冒険者からの確保も、フルオートである。
これで、生産職が冒険に出られないなんてことはない。
冒険できないパターンは、新素材が手に入って生産が必要になったときくらいだ。
「お金はいらないんだけどね」
ボクはダンジョンで、大量の金銀財宝を手に入れている。
『お店の拡張は、しないのかニャー』
「今は、必要ないかな。普通サイズのポーションと、毒消しが作れるくらいだから」
規模を拡大したところで、できることは限られている。
ひとまず、素材集めに専念しようかな。
鉱山には、ポーション強化のアイテムもたくさんある。
ただ翌日、ゲームの掲示板に、大変なことが起きたと報告が。
鉱山のダンジョンに、バグが発見されたという。
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