第三章 大家さんと三毛猫が、参戦
第14話 大家さんにレクチャー
翌日、ボクは大家さんのお家にお邪魔させてもらった。
今日は、仕事が半休の日である。お昼から、遊べるのだ。
ボクの職場は週休二日で、火・水・木のいずれかが半休になる。
やっぱりビビのために、仕事を変えてよかったな。ありがとう、ホワイト企業よ。
さすがに昨日は夜が遅すぎたので、お子さんに迷惑がかかるからと断った。
ちょうど今日は有給で、助かる。
「お邪魔します」
旦那さんが夕方に帰るというので、その時間帯前に上がらせてもらった。
ビビは今回、お留守番である。
カレーの香りが、漂ってきた。夕飯のメニューかな。
「ご飯も、こっちで食べていってねー。うちのコたちも喜ぶから」
小さいながらも、兄と妹は仲良くお手伝い中だ。
「すいません。大家さん。お家に入ることになっちゃって」
大家さんに、昨日いただいた肉じゃがの容器を返す。
「いいからいいからー。ウチと
「いえ、大家さんは大家さんなので」
「昔みたいに、トワ先輩って呼んでよねー」
大家さんこと
高校生の頃、ネットゲーム研究会の副部長を務める。とはいえ、「べらぼうにゲームができない、ゲーム部の副部長」「トワさんならぬ、ヨワヨワさん」と揶揄され、部内でも置物同然の扱いだった。
しかし、「ゲーム以外のことなら完璧」と称され、事務・会計作業などでボクたち部員を幾度も陰ながら救ってくれていたのである。部員というより、マネジメントに長けていた。
大学生の頃からFIRE……経済的自立に興味を持ちはじめ、就職後は会社に務めつつ株式や不動産の投資を始める。三〇代にして、目標だった金融資産額三〇〇〇万円を達成した。
同時に、FIREコミュニティで知り合った男性と結婚する。二人の子宝に恵まれ、専業主婦ながらも資産は減っていない。
ボクが住むこのアパートも、大家さんがFIRE後に購入した物件だ。大家さんいわく、「自分こそ最強の顧客」だという。自分が住んでしまえば、家賃は永久に入るから、とか。
「でもごめんねー、真っ先にオンラインゲーム抜けちゃってー。あれ以来だっけ?」
「ですね」
ボクたちゲーム部は、成人してもみんないっしょに遊んでいた。
多忙や結婚などで抜けていったが、その中でもいち早く退場したのが、トワ先輩である。
「ただいまー。おーっ。
「竹中さん、お邪魔しています」
トワ先輩の夫である、竹中さんが帰ってきた。
「オレは、チビと風呂に入ってくる。田益、トワっちとゲームを楽しんでてくれ」
「ありがとうございます」
「へへー」と、竹中さんは息子さん娘さんと、お風呂へ消えていく。
竹中さんは、ボクが前に勤めていた会社の上司である。今はFIREして、独立起業した。若くして、ベンチャーの社長である。といっても、従業員は竹中さん一人だけだが。
ボクも社員として入れてくれと言ったら、「やめておけ」と断られた。「創業者の熱量が高いベンチャーは、他人からしたら地獄だぞ」と。
だが、この家の主は竹中さんではない。
家主はグレーのソファの上で、ぐったりといびきをかいていた。
「すしおー。首輪をつけるからおとなしくしててねー」
トワ先輩が、寝ている三毛猫「すしお」に首輪をはめる。
「前から聞きたかったんですけど、どうしてその子の名前って、『すしお』なんです?」
寿司から取るにしては、たしかに色が白いけど。茶色と黒の柄が、どんな寿司ネタなのかわからない。
「デヴィッド・スーシェ」
「ああ、『名探偵ポワロ』からですか」
海外ドラマの主人公を演じた俳優から、名前を取ったらしい。
「三毛猫っていったら『ホームズ』なんだろうけど、ウチは逆張りしてポワロにしたんだよー。スーシェは読みづらいし、そのままだから、『すしお』にしたんだよねー」
あとは、PCを起動させるだけ。
「ゲームの起動って、どうすんの?」
「してますよ」
PCのモニタを確認したところ、ちゃんと起動はしていた。起動「は」。
「待機時間が、かかるっぽいです」
「そうだったんだー。なんか時間がかかるなーって、思っていたんだよね」
初期待機時間が、結構掛かるのだ。
ペットの生体情報を、チェックするためである。
「自分のキャラ作成は、ペットの生体情報チェックしている間に行えばいいですよ」
「そうなんだー。OKOK」
とはいえトワ先輩って、自分の持ちキャラに愛着を持たないタイプなんだよなー。ジョブも、周りに合わせて選んじゃう。
やはりトワ先輩は、「うーん、うーん」と悩む。
「まあ、気長にやりましょう。大型アップデートもあるみたいなので」
知らない間に、そんなことが起きていたのか。
なにやら、『新要素』が追加されたっぽい。
[ユーザーに新しい要素、【アビリティ】が加算されます]
アビリティだって?
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