第13話 大家さん襲来
ボクたちが驚いていると、ベルさんが口を抑えて話を続けた。
「ええ? だって、ある程度親グモにダメージを与えると、倒れてお腹から子グモをワラワラワラーって生むのよ。知らないの?」
ベルさんも、あのダンジョンを攻略済みだ。
しかし、ボクたちとはボスの倒し方が違うみたい。
話によると、毒液を避けつつ、背中の入れ墨を執拗に攻撃してやっと倒したという。
だがその後、子グモたちがワラワラと襲ってきて大変だったらしい。
「なんとか、勝てたけどね。あたしもナインも一点集中型の攻撃パターンでしょ? 囲まれると弱いのよ」
ベルさんはガンナーで、ペットのナインくんはニンジャだ。
どちらも動きが素早いけど、範囲攻撃をあまり所持していない。
たしかに、大多数の敵を相手にするのは大変そうだ。
「だから、狭い通路におびき寄せて少しずつ撃退したのよ。あれはもう、二度とやりたくないわね。範囲攻撃の手段を考えることにしたわ」
そうか。まともに戦うとそういう攻略法なんだね。
「ケントたちは、違ったの?」
「すいません。ボクたち違うルートから、ボスの部屋に入っちゃったみたいで」
ボクはビビのスキルについて、包み隠さず話す。
ベルさんになら、知られても別に痛くない。ベルさんだって、ボクの知らない特殊なスキルを多数持っていたし。
「なるほど……裏道があるのね?」
「そうですそうです」
「いいわね、ケント! それ! 楽しそう!」
ベルさんは、プラスに解釈してくれたみたい。
「でも、ラクして勝ったみたいで、申し訳ないと思っています」
「とんでもないわよ、ケントッ! 活用できるなら、ガンガンするべきよ!」
ボクが卑屈になると、ベルさんが励ましてくれた。
やはりトップランカーは、ゲームに対する姿勢が違う。
「やっつけ方が複数あるモンスターって、面白いギミックね。そうやって手に入れたアイテムも、特別感がありそう」
「ベルさんは、何を手に入れたんです?」
「これよ」
ベルさんが手に入れたのは、【毒ポーション】だった。解毒効果はない。武器に毒を付与するものだ。
「すごいのよ。銃弾にも毒が回るの。しかも、永久になくならないのよ。効果は弱いんだけど」
「それはすごいっ」
ずっと毒効果を、武器にもたらしてくれるとは。
これ、ビビの武器よりすごいかも?
でも、毒ダメージの威力までは追加されないから、いいのか。ビビの刀と違って、解毒効果もないし。
「でも、ケントたちのほうが、すごい報酬アイテムなのよ。クモの糸が、恒久的に採れるなんて」
ちなみに、ベルさんが受け取った報酬は、装備ひとつにつき一度きりのアイテムらしい。
そっちの差別化でもあるのか。
ベルさんたちは攻撃主体、ボクたちは防御主体のアイテムを手に入れたと、考えたらいいんだね。
「じゃあ、ボクたちが手に入れたクモって……」
「ええ。あたしたちが子グモだと思っていた、クモかもね」
ううううう、と、ベルさんがうなる。
「そっかー! そっちルートで行くと、ちゃんと永続アイテムが採れるのかー! 失敗したぁ……」
残念がったベルさんが、ぶっ倒れた。
「リトライ、ってわけには?」
「再戦自体は、できるのよ。でも、アイテムのテーブルは決まっているの」
一度ボス専用のアイテムを取ってしまうと、別の攻略法で戦ってもノーマルのアイテムしかドロップしないという。
いわゆる、「取り返しのつかない要素」らしい。
「でも、あきらめるのは早いわ!」
ベルさんが、ガバッと起き上がった。
「これから出てくるボスも、おそらくそういったパターンがあるのね。ペットの特性を活かして、ボスを攻略するなんて、イカしたゲームじゃない!」
「そうですね。ペットを連れているって感じがして、面白いです」
お話をしていると、部屋のチャイムが。
「あ、すいません。誰か来たみたいなので」
「宅配かしら?」
たしかに今は、ゲーム内でビビに買ってあげた荷物が届く頃だ。ちょっと遅い時間だけど。
「じゃあ、あたしは落ちるわね。ナインを寝かせるわ」
「ボクもアウトします。ではまた」
さて、ビビを撫でて、出ますかね。
「ビビ、おやつ楽しみだねー」
ボクは、ビビに呼びかける。
だが、ビビは「にゃーん」と鳴くだけで、言葉を話さない。
やはりペットと話せる現象は、ゲームの中だけなのか。
「はいー」
ドアを開けると、モデルのように痩せた女性が、耐熱容器を持って立っていた。
大家さんだ。ウチの真下に住んでいて、旦那さんと二人のお子さんがいる。
またこの人は、ボクの通っていた高校の先輩でもあった。
ペットと住める部屋探しの相談をしていたら、「うちに住みなよ」と声をかけてくれたのだ。
おかげでボクは、ビビといっしょに過ごせている。
「こんばんはー。これ、今日の残りだよー」
大家さんが、お家で余ったという肉じゃがをくれた。
ボクと大家さんは、ネコの飼い主同士である。よくビビのおやつや、ごはんも分けて合っているのだ。
「ありがとうございます。でも、こんな時間に、どうしたんです?」
「実は、ゲームのセッティング方法がわからなくて」
大家さんが手に持っているパッケージは、
(第二章 おしまい)
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