第12話 飼い猫の奇策

 このダンジョンのボスであるクモの背中には、複雑なモザイク柄の模様が。その中央が、ビビのスキル【ここ掘れニャンニャン】のマーカーになっている。


「つまり、あのクモは生き物でありつつ、フィールドでもあるってこと?」


『かもしれないニャ』


 たしかに最近のボスって、身体を駆け抜けて戦う大型の個体も多い。体内に入ったり、外皮を走り回ったり。ボスの身体自体が、ダンジョン化しているのである。


 あのクモも、その類ってわけか。


「でもあんなの、どうやって倒せばいいんだろう?」


 かなり大きいけど?


『ケントご主人、ニャアに作戦があるニャ』


 ビビが、思いついた作戦を話してくれた。


「そんなこと、できるの?」


『できるニャ。そうじゃないと、こんなところに宝物庫なんてないニャー』


 たしかに、そうかも。


「よし。ビビの作戦で行ってみよう」

 

『承知したニャ』


 ボクは、宝物庫からボス部屋に降下した。

 ただ落ちているわけじゃない。


「くらえ!」


 アイテムボックスを開き、ボクはお宝をすべてクモの上にぶちまけた。


 こちらを見上げたクモが、驚いている。


 金銀財宝が、クモの頭や胴体に落ちていった。


「ダメージが入ってる!?」


 ビビが考えついた作戦は、「ここで拾った金塊やアイテムを、すべてクモに落とす」というものだ。落下ダメージが入るのではないか、とのこと。


 その発想はドンピシャで、クモは大ダメージを受けている。

 他のゲームで言うと、いわゆる【ぜになげ】みたいな扱いなのかな。


 とにかく、ビビの作戦は大成功! あれだけ絶望的だった体格差が、一気に縮んだ。

 このまま一気に、畳み掛ける。


 まず、クモの注意を引く。


「ボクはここだ!」


 盾を構えて、ボスを【挑発】をする。


 体力を三分の一まで減少し、クモはまともな思考になっていない。

 ボクに向かって、毒液を吐いてきた。


 盾で受け止める。ダメージはないけど、酸の匂いがきつい。


「おう!?」


 思わず、のけぞってしまう。こんな怯み方をしてしまうなんて。


「しまった!」


 毒液を、足に浴びてしまった。


 みるみる、体力が奪われていく。


 こんなにキツイのか、毒ダメージってのは。


『ご主人離れるニャ! 準備できたニャ!』


 ビビがスキルを発動して、クモにとどめを刺す。


 クモの巨体が、モザイク状になって空に吸い上げられていった。


「勝ったのか……」


 痛む足をおさえながら、ボクは尻餅をつく。


『ご主人、ケントご主人、ポーションを飲むんだニャー』


「ありがとう」


 ビビから差し出された解毒ポーションを、受け取った。


 まさか、もう使うことになるなんて。


 身体から、バッドステータスが解消される。

 さっきまで重かった足が、ウソのように軽くなった。


 スクっと立ち上がって、ビビを抱き上げる。


『ケントご主人、元気になってよかったニャー』


「それが一番の財産だね」

 

『増援が来る気配は、ないニャー』


「うん。これで終わりみたい」


 クモがいなくなって、金塊やお宝も元通り。無事にすべて、回収する。


「ところで、スキルの効果は?」


『バッチリだニャン』



 ~~~~~~ ~~~~~ ~~~~~


 

 ユニークアイテム 魔力刀【クモキリ】


 毒グモの魔力がこもった、細身の刀。

 物理的な威力より、毒ダメージが勝る。


 斬りつけるだけで、攻撃対象に毒ダメージが回る。

 

 毒を受けた自分や仲間に鞘を当てると、毒が回復する。

 


 ~~~~~~ ~~~~~ ~~~~~



 すごいアイテムが、手に入っちゃったな。


「それはビビが持っていて」


『いいのニャ? ケントご主人ががんばったんニャ。ご主人が潰して、素材にしたらいいニャ』


「がんばったのはビビだよ」


『ダメだニャ。ニャアばっかりが強くなっちゃっても、仕方がないニャ』


「いいんだよ。ボクは、強くなるのが目的じゃないから」

  

 ボクとしては自分が強くなるより、ビビが死なないほうがいい。

 ビビが強くなってくれたほうが、うれしいかな。


『じゃあ、ありがたくいただくニャー』


「さて、依頼のアイテムを回収して、ダンジョンを脱出だ」


『これかニャー?』


 ビビが、数匹のクモを手に取った。 

  

 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 


 入手アイテム 【アヤトリグモ】


 ダンジョン【森の洞窟】に棲むボス、【ジャイアントスパイダー】を倒して手に入るアイテム。

 繊維の元となる糸を吐く、オレンジ色のクモ。

 ジャイアントスパイダーの呪縛から開放されて、自由の身となった。

 そのお礼として、ニンゲンに協力してくれる。


 冒険者ギルドに渡すと、糸を分けてもらえる。

 


 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 

 


 糸じゃなくて、クモ自体が報酬なんだね。


『よかったニャー。じゃあ帰るニャー』


 大収穫を手土産に、ボクたちは街に帰ってきた。


 冒険者ギルドに、報酬を渡す。


 

 ~~~~~~ ~~~~~ ~~~~~


 

 報酬 クモの糸


 丈夫なクモの糸が手に入ったことにより、装備の伸縮性に幅が生まれた。

 あなたが装備するすべてのヨロイに、敏捷性が【二】アップ。


 

 ~~~~~~ ~~~~~ ~~~~~



 クモの糸が取れる前に手に入れたヨロイにも、敏捷性の効果が付与されている。

 これは、クリアしてよかった。

 ビビも、動きやすくなったことだろう。

 

「あなたたち、すごいわね。レベル差一〇以上の魔物をやっつけるなんて」


 ギルドから拠点に帰ると、ベルさんがボクたちを待っていた。

 

「子グモが襲ってきて、大変だったでしょ?」


「え?」


 初耳の情報に、ボクとビビは首を傾げる。

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