第11話 愛猫とダンジョンへ

 ダンジョンの中は、思っていたより深そうだ。

 明るいからまだいいけど、真っ暗だと夜目がきかないボクだとキツかったかも。


 ダンジョンの構造は、岩をくり抜いた感じの自然なものだ。遺跡などのように、人工物がある感じではない。


『ケントご主人。こっちニャ』


 わずかにビビが先行して、お宝の位置まで歩いていく。


「モンスターに気をつけてね」


 本来なら、ボクがビビを守りつつ進行していくつもりだった。


 しかしビビは、好奇心のほうが勝っているみたい。先に進んでしまう。


 ビビが喜びそうなお宝が、あるといいね。


『魔物ニャ』


「わかった。下がってて、ビビ」


 危ない魔物なら、ビビを守らなきゃ。


 現れたのは、イノシシの頭をした小太りの亜人だ。【オーク】だな。ここは、オークの巣なのかもしれない。


 オークが、手に持った棍棒を振り下ろす。


 ボクは、盾で防御した。


「うおっ! 重っ!」


 地面がめり込んだよ。こんなの、ビビに当てられない。

 結構、殺意が高めだそ。このオークは。


『ケントご主人。多分、当たらないように避けるか、受け流すシステムだニャ。まともに受け止めちゃダメニャー』

 

 そうか。バカ正直すぎた。


「よし、それ!」


 今度は、斜めの方角に受け流す。


『OKご主人。今ニャ』


 ビビが【ライトニングスピア】を放った。雷撃を帯びた剣で、相手を突っつく。


 電撃が体に流れ込んで、オークが目を回した。モザイク状になって、オークの肉体が消えていく。


 仲間がやられたのに気づいてか、オークが集まってきた。


 群がるオークを、同じような手法で撃退していく。


 さすが、ゲームと言うだけある。ちゃんと、攻略法があるんだな。


「受け流して……ビビ!」


『OKだニャ』


 ボクが攻撃を流して、オークの体制が崩れたところを、ビビが倒す。


「これでラストだ、ビビ」


『【ライトニングスピア】ニャ!』


 どうにか、すべてのオークを撃退した。


「ボクのレベルが、一ポイント上がったね」


『そうだニャ。ニャアは強くなりすぎてて、オーク相手ではレベルが上がらないニャー』


「ステータスは体力に振って、と。スキルは、なにを取ろうかな」


 ボクは、取れそうなスキルを前に悩む。


 盾で攻撃できる【シールドバッシュ】。

 自分が壁役になって、敵を怒らせる【挑発】。

 回復魔法の【ヒール】。


 魔法の杖があるから、ヒールはいいか。


「【挑発】を取るね」


 これで、ビビが攻撃対象になるのを避けられる。


「探索スキルは、もうすぐ発動しそう?」

 

『ビンビン伝わってくるニャ』

 

「例の、クモ型モンスターの気配ってある?」


 ボクたちは冒険者ギルドから、『クモのモンスターを倒して、糸を取ってこい』と依頼を受けている。

 

『モンスターの気配は、わからないニャ。でも、アイテムの位置は特定できそうニャー』


 ビビはボス部屋とは違うルートを、トテトテと進む。


『ここニャ』


 なにもない壁に、ビビが触れた。


 ネコの顔をしたピクトグラムが、マーカーとなって壁に出現する。


 ピクトグラムを、ビビがちょこんと前足で押す。


 ズズズと壁が動いて、新しい道ができた。


「こんな道があったのか」


 ビビといっしょに、狭い道を進む。

 

『このスキル、隠し扉も見つけられるみたいニャン』


 ビビの持っている【ここ掘れニャンニャン】、隠し通路まで見つけられるとは。


 財宝がたくさんある部屋に、たどり着いた。

 

「宝物庫だ」


 お金だけではなく、換金用アイテムの絵画、レアアイテムまで手に入れる。

 でも全部、店売りで手に入る高級品や、お金に換えられるものばかり。

 たしかにお金は大事だが、いずれ手に入るなら特別感がない。

 この発想って、贅沢なんだけどね。


『限定的なアイテムは、出てこないニャー』


「そうだね」


 やはり効果的なアイテムは、ボスを倒さないとダメみたい。


 ひとまず、手当たり次第にお宝をもらっていく。

 これは、領地の資材代にしようかな。

 

「よし。クモモンスターを目指すか」


『やっぱり地に足のついた財宝は、自分で勝ち取る必要があるニャね』


 哲学的なことを、ビビが語る。


「そうだねー。苦労の先に、財宝があるんだろうね」


 ボクも、しみじみ感じた。


 手軽にチートなんて、小説の世界だけなんだね。


「ちょっとまって。この道、ボス部屋に続いてない?」


 床が見えたとき、真下にボスの気配を感じた。


 いやあ、前言は撤回しよう。チートって、あるところにはあるんだなあ。まさか、こんなところに抜け道があったなんて。


 バカでかいクモが、獲物を求めてキョロキョロしている。小学校の体育館を、まるまる埋め尽くすくらいの大きさだ。


 目を回したオークが、ぐるぐる巻きにされて捕まっていた。


 オークでさえ、刃が立たないのか。そりゃそうだろうね。フロア全部覆い尽くすくらいに、大きいもの。アイツ。


 しかし果敢にも、一匹のオークがボスのクモに突進していく。


 クモの魔物が、なにか液体を口から吐き出した。


 液体を浴びたオークが、バタンと倒れる。


 クモはシッポから糸を出して、うつ伏せになったオークを縛り上げて吊るした。


「毒グモだ! コイツは、毒を持っている!」


 あのクモは、毒持ちのようだ。

 

 飛び道具を持っているベルさんを、連れてくればよかったか?

 

 でも、こういうのは楽しんだもの勝ちだ。

 ゲームでも、いきなりキャラロストするような仕掛けなんて、用意していないだろう。


『ケントご主人、あれニャ!』


 ビビが、なにかに気づく。


「どうしてのビビ……あれ!?」


 なんと、毒グモのモンスターの背中に、『ここ掘れニャンニャン』のマーカーが浮かんでいるではないか。

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