第49話 最終話 うちのコが最愛

PペットRランFファクトリー』は、しばらく閉鎖されるそうだ。

 

 今後はアップデートが行われて、システムの大幅な見直しがされるという。


 ビビと話ができるのも、今日が最後だ。


「ビビ、お話できなくなるって」


『さみしいニャー。せっかくケントご主人に、気持ちを伝えることができていたのにニャン』


「ボクも、さみしいよ。ビビとお話できないなんて」


 ボクは、ビビを抱きしめる。


『ニャアは、ケントご主人が大好きだニャン』


「ボクも大好きだよ、ビビ」


『うれしいニャー。しゃべれなくなっても、気持ちは変わらないニャー』


「うん。ボクもだよ。ビビ」


『ありがとうニャー』

 

 突如、ビビの身体が光りに包まれた。


 光が晴れると、ビビはきょとんとしている。


「ビビ?」


 ボクが呼びかけても、ビビは『ニャー』と鳴くだけ。


 ああ、もう会話はできなくなったんだな。


「ビビ、お家に帰ろう」


 ボクが撫でてあげると、ビビは『ニャー』と鳴いた。


 さみしい気持ちのまま、ログアウトする。



 それから数ヶ月、ボクとビビは特に変わりなく生活をした。


 トワさんからは、相変わらずお惣菜を分けてもらっている。お刺身が出たときは、ビビの分まで用意してくれるようになった。


 ベルさんこと、鈴音りんねさんとも、交流は続けている。


 ときどきみんなで、イチさんとリモートでゲームを楽しんだ。

 PRFは遊ばなくなったけど、ゲームはそれだけじゃない。

 

 ただ、ビビとのお話ができないのが、心残りである。


 もっと言うべきことが合ったんじゃないか?

 言葉だけでは、伝わらないこともあるだろう。


 そんな気持ちが、ずっとグルグルとボクの頭の中を回っていた。



 しばらくして、PRFの大型アップデートが完了したとアナウンスが。


 さっそく、ボクはログインを行う。

 

「うわ、めちゃめちゃ早くなってる!」


 ログインに結構時間がかかったはずなのに、今はあっという間だ。

 いくら今までプレイヤーだったとはいえ、結構ログインは大変だったのに。


 セーフハウスからのスタートも、久しぶりだな。


 ゲーム世界だからか、放置してもホコリ一つ立っていない。

 

「ビビ、またお散歩ができるよ」


 話せないとわかっていても、ボクはつい声をかけてしまう。


『ニャアも楽しみだニャー』


「あれ? ビビ?」


『ニャ?』


 ビビが、しゃべっている。


 どうしてだ? バグは修正されたんじゃないのか?


「ちょっと、ケント! 大変なの!」


 ベルさんが、ボクたちのセーフハウスに飛び込んできた。


「どうしたんですか、ベルさん」


「ナインが!」


 え、ナインくんになにかあったんだろうか?

 だとしたら、ゲームどころじゃない。


『やあやあ、こんにちは、お兄さん方』


 しわがれた声のコボルドニンジャが、セーフハウスに入ってきた。


「あれ、ナインくん?」


『そうじゃ。ワシはナインじゃよ』


 なんと、ナインくんまで言葉を話しているではないか。


「どうしたんだい? キミって、話せたの?」


『なんでも、会話機能が本格的に実装されたそうじゃ』


 まさか、アップデートってそういう?


「ベルさん、冒険者に行きましょう。ヴォルフさんなら、事情を知っているかも」


「そうね。行くわよ、ナイン」


 ボクたちは、急いでギルドへ。


 そこも超満員だった。


 押し寄せてきた冒険者は、みんな揃って「ペットが急に話し始めた」という現象について解説を求めていた。やはりみんな、考えることは同じである。


「こっちだ」


 ヴォルフさんが、物陰から顔を出していた。


「セーフハウスに行きましょう。そこなら安全なので」


「案内してくれ」


 ボクたちは、ヴォルフさんを連れてセーフハウスまで戻る。


『トワごしゅじん、家主が帰って来たぞ』


『メイン盾きた! これで勝つる!』


 トワさんとイチさんも、入れ違いでボクの家にいた。


 すしおくんとホクサイくんも、話せるようになっているではないか。

 ホクサイくんに至っては、まさしく古のネット民のような用語を話す。英才教育が、行き届いている。ホクサイくん的に言えば、「経験が生きたな」ってやつかな。


 みんなでセーフハウスへ。


「結論から言うぞ。バグ取りは完了した。その際に、もういっそペットとの会話機能は実装しようとなった」


 ビビのこともあって、会話機能に関するデータは十分に揃っていた。

 会話パターンこそ、模擬人格によるものらしい。それでも、日常会話に近いやりとりは可能だという。


「ペット側の理解が追いつかなくなって、ストレスマッハで最悪頭がおかしくなって死ぬってことは?」


 イチさんの質問にも、ヴォルフさんは首を振った。


「お前さんのペットを見ればわかるが、しっかり順応しているぜ」


「把握」


 さすがイチさんである。一瞬で理解できたらしい。


「よかったね、ビビ」


『またケントご主人と、お話できるニャ』


 それだけじゃない。隠れて会話もしなくていいんだ。


「じゃあ、今から冒険に行こうか? ビビはどこに行きたい?」

 

『新エリアができたみたいだから、そこへ行ってみたいニャ』


 ヴォルフさんによると、そこにある素材を採取するクエストがあるらしい。


「決まったね。みんなで行きましょうか?」



 全員の承諾を得て、ボクたちは旅に出る。


「待ってビビ! アビリティ変えないと!」


『ニャア。そうだったニャ』


 ペットと意思疎通ができるアビリティである【以心伝心】は、アップデートによって不要になった。


「どうしよう。楽しそうなアビリティを今から探すとなると」


『実はもう決めてるニャー』


「そうなの? えっと……【猫鍋】?」


 わずかなスキマや、壺状のオブジェクトに潜れるアビリティである。


『掲示板で存在を発見して、楽しそうと思ったニャー』


「よし、【猫鍋】セットするね!」

 


 さらにかわいくなったビビを連れて、またPRFに旅立とう。



(おしまい)

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最強のVRMMOプレイヤーは、ウチの飼い猫でした ~ボクだけペットの言葉がわかる~ 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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