第48話 メイドになったビビとデート
セーフルームに、ティーセットが用意されていた。緑茶におせんべい、ケーキタワーと、フレーバーとして集めたリラックス用のセットがテーブルに並んでいる。
メイド服姿のビビは、なんかノリノリだ。
「ビビ、どうしたの、その格好?」
『【お貴族様セット】で、おめかししたニャン』
たしかに、ヴァンパイアから貴族セットというアイテムはもらった。
しかし、もっと便利なアイテムをドロップしたはずである。
『強い装備も、たしかにもらったニャ。でも、今はこっちが必要だニャン』
「必要性って?」
『ケントご主人とお話する時間は、少なくなってきたニャ。だから、目一杯お世話するニャー』
ビビもビビなりに、考えてくれていたのか。
「ありがとうビビ」
『ケントご主人のことは、なんとなくわかるニャ。黙っていても、ニャアにはわかるニャー。強がっちゃダメニャ』
そうだよね。ずっといっしょにいるんだもん。ビビには、知られてしまうよね。
『じゃ、気を取り直してお茶ニャー』
ビビが、お茶を入れてくれた。薬草で作った緑茶である。
仮想空間なので、味覚が的確に再現されていた。
「おいしい。ビビ、よくお茶の点て方なんて覚えたね?」
『練習したニャ』
「ありがとう。ビビもどうぞ」
『うれしいニャ。じゃあ失礼するニャン』
ビビが向かいに着席して、タワーからケーキを取る。
VR空間のため、味覚しか刺激しない。甘いケーキでも、実際に食べるわけじゃないからネコでも安全だ。
『ニャアもニンゲンだったら、こんなおいしいものを食べられるんだニャー』
ビビは、ケーキを食べる手を止めない。
かなり、気に入ったみたいである。
「そうだね。人間になったビビも、見てみたいけどね」
『でも、ニャアはネコでよかったニャ。ケントご主人と仲良くできたからニャー』
「ありがとう。そう言ってくれていると、うれしいよ」
『ニャアもうれしいニャー。言葉を話せるようになってよかったって思ったのは、感謝を伝えられたことニャ』
話せなくなること自体は、別に構わない。ちょっとさみしくなるけど。
「ごちそうさま」
『ごちそうさまニャー』
「なんか、バーチャルで食事をしていると、お腹が空いてきたね。ホントのゴハンにしよう」
『ニャー』
ボクたちは、リアルでもお昼ごはんにする。
せっかくビビがメイドさんなので、なるべく豪勢にしてみよう。
買い出しに行って、ビビ用のササミやサバ缶もいい感じの高いやつを買ってみた。
ボクも今日は、お肉を焼こう。普段は手に取らない、ちょっとお高めのステーキを購入した。
「さて、いただきます」
『いただきます。おいしいニャー』
やや豪華めのお食事を、ビビといっしょに食べる。
『いつもの食事より、おいしく感じるニャー』
「楽しいねー」
『食べ終わったら、ゲームの中でお出かけするニャー』
「うん。いっぱい街を回ろう」
食後、ボクたちはゲームの街なかを歩き回った。
『
新型感染症の流行により、出歩けなくなったペットと飼い主のために、このゲームは開発された。
もっとも背景には、「ペットが飼い主に、バイタルの不調を直接伝えられるアプリケーションの開発」がベースになっているが。
「服がいっぱい置いてあるニャー」
装備品だけではなく、外見変化用のアイテムも、街にたくさん増えてきた。
メイド服から、学生服のようないでたちにチェンジする。
『【魔法科学校】の制服だニャー』
獣人の女子高生が、爆誕した。かわいい。
「魔法使いのビビに、ピッタリだよ」
『もっと褒めてもいいニャンよ』
ビビも、楽しそうだ。
露店を回っていると、トワさんのお店に到着した。
「どうもー、ビビちゃーん」
トワさんも、ログインしているようだ。
「こんにちはトワさん。今日はお昼からゲームですか?」
「そうなんだー。空き時間の合間に、開発を進めておこうと思ってねー」
ボクたちはこの間、【ミスリル】という魔法金属を手に入れた。
トワさんに、ボクは装備の強化を頼んである。
子どもたちのお世話をする合間に、トワさんは装備品の開発・強化をしているみたい。
すしおくんも、がんばって店番をしている。
「ちょうど、ケントくんとビビちゃんの装備が完成したよー」
ボクたちは、装備を更新した。
盾の強度が、二倍に上がっている。剣に至っては、攻撃力が三倍だ。さらに、体力を注ぎ込むことによって、確実にクリティカルを出せるという。
「ありがとうございます、トワさん」
「またおいでー」
お散歩の中で、のどかな公園を見つけた。
「こんなスポットが、実装されたんだね」
PRFは、ログインする度に新しい発見がある。街が拡大していたり、新しい施設などが実装されていたりするのだ。
この間は、カジノが稼働していた。景品として、外見変化用のアイテムが置いてある。
『静かで過ごしやすい、公園だニャー』
ベンチに座って、ボクたちはくつろぐ。
メールボックスに、メッセージが。
[ビビさんの会話機能は、本日をもって終了します]
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