第5話 バグ発見ボーナス

「我々スタッフでも見つけられなかったバグを発見してもらって、感謝する」


「いえ。ボクは何も。バグから助けたのも、ビビですし」


 ヴォルフさんからのお礼に、ボクは首をふる。


「そうですよ。あたしだって、バグにひっかかっただけだし。ナインは、それを助けてくれたの」


「とはいえ、あのバグを見過ごしていたら、キャラロストの危険もあった。感謝しきれないくらいである」


 ボクたちの席の前に、ヴォルフさんがなにかのアイテムを提示した。腕輪かな? 


「キミたちにはギルドから、特別にボーナスを進呈する。市場に出回っていない、レア装備だ。受け取ってもらいたい」


「ありがとうございます」


 ボクは、特殊素材の腕輪を手に入れた。

 筋力と防御力が、多少アップしている。


「あたしまで。いえいえ、結構よ。たまたま見つけただけだし」


「そういうわけにはいかない。序盤の街付近でバグが見つかったのは、こちらの責任だ」


 ベルさんが受け取ったのは、見た目が変わるネックレスだ。


「アイテムボックスに入れているだけで、素早さが上がったわ」


「わふん」

 

 ナインくんにも、お揃いのものが贈呈される。

 どちらも、敏捷性がアップするらしい。


「アクセサリって、装備しなくてもいいんですよね」 

 

 剣やヨロイだと、装備枠を使う。より強い武器が手に入れば、新調する必要がある。

 腕輪などのアクセサリは、持っているだけでいい。装備を交換しなくていいのだ。


「ビビといったな。ん? どうした?」


 ヴォルフさんが、ビビに声をかける。


 ビビの方は、前足でナインくんの腕を押し続けていた。話しかけているかのように。


「ナインがどうしたの?」


「にゃー」


 ベルさんが問いかけると、ビビはナインくんに構うのをやめた。


「ああ、すいません。遊びたいのかな?」


「ありがとう。この子は人当たりがいいから、いつでも遊び相手になってあげてね」


 ナインくんを撫でながら、ベルさんがビビに話しかける。 


「じゃあビビ、お前さんにはこれを」


 ビビは、ネコミミパーカーをゲット。見た目を変えるだけのアクセサリなんだけど、魔力ステータスが軒並みアップしている。


 なんだか、気に入ってくれたみたい。パーカーを被って、ボクに見せびらかしてくる。

 

「あと、二人には土地をプレゼントする。街の一角に居住地点と、畑を作れるスペースを用意した。活用してもらいたい」


 冒険初日で、拠点をゲットした。これで体力回復の際に、宿屋を利用しなくて済む。宿代って、結構バカにならないからなぁ。


「ありがとうございます」


 至れり尽くせりだ。これは、なにかあるかも。


「それで、ものは相談なのだが、今後もバグ取りを手伝ってもらいたい」


「構いませんよ」


「もちろん、遊びに支障が出ない程度でいい。キミたちは遊びに来ているんだからな。遊んでいるのに、仕事をさせてしまうわけだから。ついでで構わん。もしバグを見つけたら、報告していただけると助かる」


「わかりました。畑ももらって、タダなんてわけにはいきませんから」


 ボクがいうと、ベルさんも同意見だと話す。

 

「それと、家も自分で建ててくれ。うまく作れない場合は、ギルドからドワーフを派遣する。要望に応えるとなると普通は高くつくが、融通しよう」


「ありがとうございます」


 せっかくだし、ヘタクソでも自分で作ってみようかな。


 くあああ、とビビがアクビをはじめた。お腹もいっぱいみたいだし、もうログアウトしようかな。


「じゃあ、ボクたちはこれで」


「明日までには、土地を用意する」


「はい。では」


 ボクたちは、冒険者ギルドを出た。


「じゃあ、あたしもログアウトするわ。ナインとお散歩する時間だから。今日はありがとう」


「いえいえ。ではまた」


「うん。じゃあね」

 

 ベルさんが、その場から消える。


「さて、と」


 明日からは木材集めと、畑の開拓を同時に進めようかな。


「ビビ」


『んにゃー。どうしたの、ご主人?』


 ビビが、眠たげに目を擦る。


「ナインくんに、話しかけようとしていたね?」

 

『そうだニャー。でも、反応はなかったニャー』


 同じ現象に遭遇したのに、ナインくんには言葉を話す兆候は見られなかった、と。


 ビビだけに、その反応が起きた?


「不思議だねぇ」


『これはニャアだけの特権ってことに、しておくニャ』


「そうだね。他の人には内緒にしよう」


 ヴォルフさんに、ビビがしゃべったことを話そうかとも思ったけど、やめておく。運営側も、ペットと会話ができるなんて把握していなかったみたいだし。

 もし異変が判明した場合、ビビを色々調べられるかもしれない。


「とにかくビビ、なにかあったら話してね。ボクの方も、ビビのことをちゃんと見ているつもりだけど、言葉が通じないとわからないことが多いし」


『ニャアももっとお話したいニャー。でも今は、おねむニャー』


「そうだね。お昼寝しよう」


 ボクたちはログアウトして、お昼寝をすることに。


 あっという間に、本気で寝てしまった。トップランカーの女性とフレンドになったり、ビビが言葉を話したり、すごいことが立て続けに起きたせいだろう。脳が追いついてない。


 でも、ビビと意思疎通できるなんて、これってすごいことだ。


 明日はどんなことが起きるんだろうね、ビビ。


(第一章 おしまい)

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