第4話 ビビが、しゃべった!?
「あの、ベルさん。すいません」
ボクは、先を行くベルさんに声をかける。
「どうしたの、ケント?」
ベルさんが、振り返った。
「街へ戻るのは、ファストトラベルにしませんか? ビビ、お昼をねだってきたので」
目的地に足跡を残せば、街とダンジョンを行き来できる。
「よく考えたら、もうこんな時間なのね」
ベルさんが、時計を確認した。一二時を過ぎている。
「わかったわ。じゃあ一時間後に、ギルドの入口で落ち合いましょ」
「はい。すいません」
ボクは一旦、ベルさんと別れた。
ベルさんが一瞬で、姿を消す。
すぐさま草むらに隠れて、ビビに語りかける。
「ちょっといいか、ビビ?」
『どうしたんニャー?』
「本当に、言葉を話せるんだな?」
『そうみたいニャー。ゲームの中だけみたいだけどニャ』
どうやら、本当にビビがしゃべっているようだ。
「どうして話せるようになったか、わかる?」
『可能性があるとしたら、バグ取りニャ』
やっぱり、あのバグが原因か。
「それでも、飼い主とペットは定型句でしか会話ができないはずだ」
ここまで流暢に話せるようになるとは、到底思えないけど。
『ニャアもわからないニャ。でも、ケントご主人と話せるのはうれしいニャ』
「そうか。じゃあ、ビビ。お腹が空いてないか?」
昼食を口実にアウトしたから、お腹になにか入れておいたほうがいいよね。
『たくさん働いたから、お昼ごはんがほしいニャ』
「わかった。お昼にしようか」
ボクは一度、ゲームから落ちた。
「レトルトカレーでいいか」
ちょっと色々ありすぎて、頭が追いつかない。料理を作る意欲が、わかなかった。
パウチを茹でつつ、ビビの分の缶を開ける。
「サバだよー」
「にゃあ」
ビビは、もしゃもしゃと食べ始めた。ときどき水とカリカリを口に入れて、またもしゃもしゃ。
「ビビ、ビビ~」
話しかけても、食べるのに夢中である。
ああ、やっぱりリアルだとしゃべれないみたい。
ペットと、言葉の意思疎通ができるゲームか。
でも、ボクとビビのケースだけかもしれない。
ちゃんとビビと話し合ってみよう。
食後、ゲームにインする。
『ケントご主人、ごちそうさまニャー』
「いえいえ。欲しいものがあったら、リクエストしてね」
『うれしいニャー』
ビビは、これまで食べた中でおいしかったメーカーを、教えてくれた。
「ところでさ、ビビ。キャラメイクのときも、自分で調節したよね?」
本来は飼い主が、ペットのビジュアルや能力値振り分けを行うはず。
『ニャアは、自分ができそうなステータスで遊ぼうと思ったニャ』
「他のペットたちも、同じ考えなのかな?」
『ニャアはケントご主人が遊んでいるのを見て、自分もやってみたいって思っただけニャ』
「ああ、ビビが選んだキャラって、本来はボクのプレイスタイルだもんね」
ボクはMMOをプレイする際に、魔法火力職を好んで選ぶ。
魔法使いだけど前衛に立って、立ち回りながら魔法を撃ち出す戦闘スタイルなのだ。
よく考えると、ビビも同じような戦い方をしていたな。
『他のペットたちは、よくわからないニャ。ゲーム好きのご主人の元にいたら、ゲームできるかもしれないニャ。でも、ゲームについていけないペットもいそうだニャー』
なるほど。ボクがゲーム好きだから、ビビも感覚的に操作がわかったのかもしれない。他のペットだと、事情がわからないや。
「そういえばビビは、ボクがゲームで遊んでいるときも、いつもボクの手の甲の上に乗ってきたもんね」
『あれは手が動いていると、マッサージしてもらってるみたいで気持ちがいいからニャー』
悪びれることもなく、ビビは語りだす。
「でもペットにも意思があるってわかっただけでも、財産だよ」
『わかってもらえて、ニャアもうれしいニャー』
「これからも、仲良くしよう、ビビ」
『もらってくれて、ありがとうニャー』
ボクは、ビビを軽く抱きしめた。
「ボクもだよ。いっしょにいてくれて、ありがとう」
『ただお風呂の頻度は、ちょっと減らしてほしいんだニャー』
「わかったわかったアハハ」
ボクたちが談笑していると、ギルド前にベルさんが現れる。
「あら、仲良しさんたち」
「どうも。ベルさん。こんにちは」
ベルさんの方も、ナインくんと手を繋いでいた。あちらも、仲がよさそう。
「ギルドに報告しに行きましょ」
冒険者ギルドに戻ると、ギルドの受付さんが、あいさつに来た。
「まずはお礼から。ご協力、ありがとうございます」
すぐ「こちらへ」と、奥に通される。
おっ? 物々しい雰囲気だぞ。
「ギルドマスターが、お二方にお会いしたいと」
「ギルマスが? そこまでなんだ」
「はい。非常事態でしたので」
ギルドの応接室に通されて、ソファに座るよう言われた。
黒い革製のソファに、着席する。
四人座っているのに、ソファには余裕があった。
正面に、ゴツい体型の狼男が座る。レザー系の軍服に、身を包んでいた。
「私は、ギルドマスターのヴォルフだ。今回のバグの件、世話になったな」
口調はアレだけど、感謝はしてくれているみたい。
おそらくロールプレイなんだろうけど、堂に入ってるな。
「あれ? 獣人キャラって、プレイヤーは選べないはずでは?」
ボクはヴォルフさんに、疑問を投げかけた。
このゲームはペットキャラと混同してややこしいため、人間は獣人キャラを選択できない。
だが、ヴォルフさんはれっきとした人間プレイヤーで、ペットが選ぶはずの獣人だ。
「私は運営だからな」
運営スタッフ本人が、ギルドのキャラを担当しているらしい。
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