第六章 うちのコが、やっぱり最強で最愛

第46話 目撃情報

「ご存知だったんですか、ビビのこと?」


 ボクは、ヴォルフさんに詰め寄った。


「うーん。どちらかというと、目撃情報からキミらを調査してきた。ケントがビビと会話をしている場面をよく見かけると、ユーザーから報告があったんだ」


 どうやら、掲示板でボクは「ペットと話す飼い主」として、少し話題になっていたみたい。


 攻略掲示板じゃない雑談用の板だったから、まったく見てなかったな。


「黙っていて、すいません」


「謝罪なんて、必要ない。このゲームは、実験場だ。特に不思議ではないさ」


 ボクもビビも縮こまっていたが、ヴォルフさんはまったくボクたちを咎める素振りを見せない。


「ビビ、もし話したいなら、しゃべっても構わないぞ」


 ヴォルフさんは、ビビに言葉を話すように促す。


 ビビはボクに視線を向けて、戸惑っていた。頭に、汗をかいているような顔文字を浮かべる。


「いいんですか?」


「構わないさ。ここには、我々しかいない。それに、オレもそうだからな」


 なんと、ヴォルフさんも言葉を話すペットらしい。


「実はヴォルフは、私のペットなのです」


 受付のお姉さんが、ヴォルフを撫でる。


「オレは『PペットRランFファクトリー』の、実験体だったんだ。ペットが飼い主と、意思疎通できるかどうかのな」


 なんとヴォルフさんは、言葉を話す機能のサンプルペットだったらしい。


「とはいえ、危ない実験ではありませんよ。ペットの脳波をAIで変換して、模擬人格を作り上げるのです」


「ビビもそうだと?」


「わかりません。ですが、ペットの脳波をAIが管理して言語変換しているのは確かです。ビビちゃんまでが、そうとは限りませんが」


 ヴォルフさんはもともと、保護犬だった。

 

 受付のお姉さんが、彼を引き取ったのである。


「我々の本来の業務が、ペットと人間の意思疎通であると、聞いたことはありませんか?」


「はい。ついさっき、パーティメンバーのイチさんから、聞きました」


「そうですか。その情報は、事実です」


 PRFは元々、言葉を話せないペットたちのバイタル・メンタルを人間が理解できるアプリケーションの実験だった。

 

 スタッフたちは、他にも保護犬・保護猫を受け入れ、PRFで遊んでもらったらしい。

 その過程で、言葉を話せるようになるかのテストを、毎回行っていたという。


 スタッフも保健所の元従業員たちで構成され、ペットの安全も確保した形で。


「しかし、資金繰りがうまくいかず、チームは解散させられそうになりました。それで、まずはゲームを出して資金を稼ぐ必要がありました。保護したペットの食費問題もありましたし」


「だから急に実装されたんですね?」


「はい」


 たとえバグだらけだとしても、早急にゲームを売り出す必要があったという。


 程よい難易度と、お金をかけるほど強くなるペイ・トゥ・ウィン概念のない、見た目変更などのフレーバー的な課金要素が受けて、PRFは覇権ゲーとなった。

 未だに、バグが多発しているものの。 

 

「敷居を低くするため、できるだけ難易度の低いゲームとして売り出すことにしたいんです」


 フルダイブではなくセミダイブ型にして提供したのも、ペットのお世話をおろそかにさせないためらしい。


「驚きました。てっきり、運営さんが狼男に化けて、演じているんだろうなと思っていたので」


 ボクは、ヴォルフさんは運営の特権を利用しているのかと思っていた。ロールプレイ……つまり、役割を演じていたと。


 しかし、本物の動物が、運営の手伝いをしていたなんて。


 運営側の獣人族は、すべて運営が保護した犬や猫らしい。


「驚いたのは、こっちだよ。バグ取りの一環としてだが、ビビが話せるようになっていたなんてな」


 豪快に、ヴォルフさんが笑う。


「オレたち以外に、自分で考えて自分で話せるヤツがいるなんて。びっくりしたぜ」


 ヴォルフさんが身の上話を語った後、改めてビビに言葉を引き出そうとする。


『ニャアは最初から、ヴォルフがペットだって気づいてたニャー』


 ビビが、遠慮せずに語り始めた。


「だから、人前でも堂々と飼い主と会話をしていたのか?」


『見られても、問題ないって思っていたニャー。おそらく、運営がもみ消すニャーって』


「そこまで、見抜いていたか。どういう意図なんだろうと、泳がせていたんだが」


『やっぱりニャー。そうだと思っていたニャー』


 ビビも、運営に関してある程度の意図を汲んでいたみたいである。


「ビビは、どうなっちゃうんですか?」


 ボクは、ビビの今後を気にした。


 ゲームに関して、ビビはトッププレイヤーすぎる。さらに、言葉も話すのだ。


 もしかすると、PRFの上層組織、というか、運営さんに連れて行かれてしまうのではと。


「どうもしない。これまでどおり、ゲームを遊んでくれ」


「じゃあ、機関の実験体として連れて行かれるとか、ボクと離れ離れになるってことはないんですね?」


「その心配は、無用だ。オレの他に、少しは言葉を話す仲間ががいるからな。ビビよりゲームのうまい動物は、いないがな」


 よかった。


「ビビ、よかったね」


『うれしいニャー』


「ただ……ビビは今後、言葉を話せなくなるだろう」

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