第45話 ヴァンパイアの本体
あのオオカミが、ヴァンパイアの本体だったとは。
いや、ヴァンパイアもボスなんだろうけど、リーダーはペットのほうみたい。
動物が主導権を握るなんて、まるでペットと飼い主の関係に見える。
魔物の世界でも、同じなのかな。
「ビビ、全力で行くよ!」
ボクの呼びかけに、ビビも『ニャー』と応えた。
ビビのスピードに、相手がついてきている。というか、ボスのほうが早いかも?
【韋駄天の証】という、素早さが上がる称号を、ビビは持っている。
それでも、相手のほうが早いなんて。
これは、法則性を覚えて対処する系のボスなのだろうか。なにか、パターンを崩して戦う必要があるのかもしれない?
「【ソニックカバー】!」
ボクは瞬間的に移動して、オオカミの攻撃を受け止める。
相手の攻撃が重い! かすっただけなのに、突き飛ばされそうになった。
「ボスの攻撃が、雷属性だ!」
ダイヤアーマーを着ていなかったら、対処できなかっただろう。ボクが着ているダイヤアーマーには、雷ダメージによるマヒ状態を防ぐ効果がある。よって、至近距離からでも防御・攻撃ができるのだ。
とはいえ、ボクみたいにノロノロな攻撃は、相手に当たらない。
「ケント!」
ベルさんとナインくんが、加勢に入った。
「あたしたちは、なにをすればいいかしら?」
「とにかく、相手の動きを制限できますか? 相手も雷魔法の使い手で、ビビのスピードでも追いつくのがやっとなんです」
「やってみるわ!」
「ベルさん、これを!」
ボクはファンナおばさんからもらった【アタックポーション】を、ベルさんに渡す。
「わかったわ。ナイン、来て!」
ベルさんはポーションを、ナインくんに飲ませる。
同じ犬型なら、あのスピードにも適応できるか。
「ナイン、サポートするわ【
ナインくんが高速移動から、跳躍した。落下による蹴りを、何度もボスに浴びせる。
すごい。これがナインくんの本気か。アタックポーションの効果によって、ボスもみるみる体力バーが減っていく。
だが、半分を切ったところで全体攻撃が加わった。
すかさず、ナインくんが飛び退く。
「ストップよ、ナイン! 相手の攻撃パターンが変わったわ!」
とはいえ、相手は全体攻撃の後に、硬直するようだ。
そのスキを逃す、ビビではない。ビビが側面から、【ピリオド・スラッシュ】を浴びせる。アンデッドに大ダメージを与える、ビビの必殺技だ。
「ビビちゃん、相手の弱点は、目よ!」
ベルさんが【狙撃手の極意書】というモノクルをかけて、ボスの弱点を探った。
「でも、あのオオカミは、アンデッドじゃありません!」
「大丈夫よ、ナインが」
ナインくんが、ビビに【霊感スコープ】を投げ渡す。アンデッドじゃない相手でも、アンデッド特攻のダメージを与えるアイテムだ。【ホーンテッドパレス】攻略の報酬である。
ビビが、雷の槍のような姿に変わった。目にも止まらない速度で、オオカミの赤い目を貫く。
目を潰されて、オオカミがのたうち回る。そのまま、ドサッと倒れた。
『ぐおおおお!』
ペットを失い、ヴァンパイアが苦しがる。身体から煙を出して、段々と干からびていった。やがて、灰になって消滅する。
どうやら、クリアしたみたいだ。
「わああ。やったね、ビビ!」
ボクは、ビビを抱きしめる。
よく見ると、ビビが手に日記を持っていた。ボスの背景がわかる、アイテムである。
どれどれ。
どうもこの手記を書いたのは、ヴァンパイアのようだ。
オオカミは、貴族の家で飼われていた。
が、飼い主が死んでしまう。
その死因を、オオカミは餓死だと思ったらしい。エサとして、貴族の死体に人間の血を飲ませていたという。
貴族は、ヴァンパイアとなって復活した。ペットのオオカミに、自分と命を共有する魔法を施し、共に永遠の時を過ごそうとしていたようである。
「飼い主の方が、先に死んでしまったのね」
「吾輩も、人ごとではないのである」
高齢者であるイチさんにとっては、他人事ではないよね。
ボクだって、カゼで寝込んでいたときは、生きた心地がしなかった。一瞬、ビビより先に死んでしまうのでは、と思ったくらいである。
「さあ、帰りましょう」
ボクは、ギルドへと戻ってきた。
「すごいな。こんな短時間で攻略したのは、キミたちくらいだよ」
ギルドマスターのヴォルフさんが、応接室でボクたちを歓迎してくれる。
「いえ。楽しいゲームです」
「ああ。ボスを倒さなくても楽しめるようには作ってあるが、せっかく実装したエリアをたくさん回ってくれるのは、ありがたいよ」
ヴォルフさんは、笑顔を見せた。
報酬は、【ミスリル鉱石】である。貴族がかき集めていた、魔法の金属らしい。装備の強化にも使うもよし、そのまま装備品に加工してもよし。
「ありがとうございます、ヴォルフさん」
「いやなに」
みんなが帰った後、ボクとビビだけが応接室に残された。
「それよりケント、ビビと話をさせてくれないか?」
「ボクではなく、ビビとですか?」
「お前さんとビビとだ。ビビが会話可能なのは、我々も把握している」
(第五章 おしまい)
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