第9話 ダンジョン攻略の相談
ビビは、ずっとダンジョンの入口を見つめている。
だが、お腹が鳴り始めた。
『お腹、空いたニャ。おやつ食べて、寝たいニャー』
「今日はここまでにして、帰ろっか」
『はいニャー』
ひとまずダンジョン探索は、後日に持ち越す。ビビもオネムだし、ボクは明日も仕事がある。
翌日、ボクはベルさんの元へ相談に向かった。経験者でトップランカーであるベルさんの家に、興味もあったからだ。「いつでも遊びに来てね」と、許可もいただいていたし。
「こんにちは」
隣のエリアに住む、ベルさん宅にお邪魔する。
「あら、いらっしゃい」
「ワン」
ドーベルマンニンジャのナインくんも、出迎えてくれた。
ボクに、アゴをなでさせてくれる。
「これ、ウチで穫れた薬草です。ポーションの足しにしてください」
「ありがとう! ポーションって消耗品だから、結構費用がかさむのよ!」
ベルさんも畑をもらっているが、農作業はやっていない。いずれ誰かを雇って、外部生産になるという。
「いつでも言ってください。いくらでもポーション用の薬草をあげますから」
「いいの? うれしいわ」
「それにしても、すごいお部屋ですね」
ボクが住んでいるお家より、立派なお部屋である。
戦利品を飾るスペース、いわゆる『祭壇』まであった。
「ボクの家なんて、それこそ豆腐ハウスですよ」
豆腐ハウスとは、四角いだけの家を指す。建築初心者の家は、まず豆腐ハウスになってしまう。寝床を作ることしかできない。
「そのほうが立派よ。あたしなんて作るもセンスも余裕がなかったし、ドワーフに外注しただけだわ。自分で作ったほうが、愛着も湧くってものよ」
ベルさん的には、祭壇を作っただけで力尽きたという。それ以外はすべてドワーフ産で、自分の城という自覚はないらしい。
「あたしは戦闘職をやっていきたかったから、生産はさっぱりなの。生産職の人の話を聞くと、そっちはそっちで楽しそうだなとは思うわ。あなたも生産職に片足を突っ込んでいるみたいだし、お話が興味深いわね」
隣の芝生は青く見えるというけど、そのとおりなのかも。
「ケント、あなたはそのまま自由に生きていって。そのほうが楽しいから」
「ありがとうございます」
ボクがあいさつをすると、ビビも「ニャア」と鳴いた。
「それで、ダンジョンに行きたいって話だけど?」
「はい。森の奥にダンジョンがあったので」
入る前に、攻略勢の意見を聞きたいと思ったのである。
「別に危険性はないわ。自由に入ってもいいんじゃない?」
「ダンジョンで気をつけるべき、トラブルなんてのは?」
「うーん……人に聞かないことね」
ベルさんが、そう言い切った。
「色々と行き詰まってから、経験者には聞いたほうがいいわ。でないとこちらが、攻略の面白さまで奪ってしまうから」
「そういえばそうですね。気が付きませんでした」
「いえいえ。責めているわけじゃないのよ。あたしも、あなたにはこの世界を目一杯楽しんでもらいたいの。あたしに質問したのも、ビビちゃんを心配してのことだろうし」
「そうですね」
ビビに危険が及ぶなら、できるだけ避けたかったのは事実だ。
「危ない目にあわせたくないなら、準備していけばいいわ。あなたには薬草畑があるでしょ?」
「そうか。ポーションの生産」
このゲームは【錬金】というスキルを取ると、自作でポーションが作れる。最初は店売りよりショボいポーションしか作れない。
スキルは戦闘・生産のどちらも、使い込んでいくうちに成長をしていく。
練習してスキルが育っていくうちに、ポーション作りも上手になるのだ。
「そうね。スキルを消費することになるけど、無料のポーションを作ってみる手もあるわね」
【錬金】スキルは鍛冶や錬成などにも使えて、できることが多い。その分、大量のスキルポイントの消費を要求される。
今後もポーションは、買ってしまってもいい。
とはいえ、せっかく畑で薬草を育てているんだ。
この際、ポーションを作れるようになってもいいかも。
「なんだか、あたしがあなたの作ったポーションを求めていると思うかもしれないけど」
「いえいえ。ボクの手作りでよければ」
「なにをいうの? ケントの作ったポーションなら、ノドから手が出るほどほしいわ。どんな効果を持つのか、楽しみでしょうがないし」
ボクって、そんなに器用な男に見えるのだろうか?
「遊んでみて、わかったことがあるの。このゲームって、なにかに特化するより、色々試してみたほうが楽しいっぽいのよね」
「急いで攻略するゲームじゃ、ありませんからね」
「だから、ケントのように色々な場所に行ったり、たくさんのスキルを学んだほうが、できることが増えるわ」
「器用貧乏になりませんかね?」
「脱線しまくって行き詰まるほど、このゲームの難易度は高くないわよ。きっと寄り道も前提に作られているわ」
「そうなんですね」
「ええ。トップランカーの言うことを信じてみて」
「ありがとうございます」
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