第2話 サビネコと、冒険を

「ふわああ」


 街の中に、降り立つ。

 

 本当に異世界だ。おしゃれなクレープの屋台があったりお店がドラッグストアっぽかったりして、ちょっと近未来っぽい。

 けど、れっきとしたファンタジー世界のようだ。景観を損ねるほどではない。そこそこの観光地って感じの世界観である。


「これ、どれくらいの人がペット連れなんだろう?」


 ボクは、辺りを見回す。


 あのキジトラ獣人は、戦士だな。狩人タイプの女性と行動を共にしている。


 他のプレイヤーって、あんなふうに見えるんだな。


 さっそく、フリーズしている人がいた。棒立ちになっているワンちゃん魔法使いに、僧侶の男性が付き添っている。おトイレだな。あれは。


「ビビ、キミはどうしたい?」


 ボクは、ビビに聞いてみた。


 このゲームの特徴は、動物語の翻訳機能である。鳴き声や感情を解析して、飼い主に伝えることが可能なのだ。


『遊びたいニャー』

 

「じゃあ、冒険者ギルドに向かおう」


 このゲームは、チュートリアルで全部を説明しない。世界観に浸ってもらうように、基本的には自由行動である。

 街をひたすら探索しても、いきなり街の外に出て戦闘や採取をしても構わない。

 後からちゃんとギルドに向かうようにガイドされ、そこからでも説明を受けられる。


 だが、ボクはちゃんとギルドで依頼を受けようと思った。

 その方が、冒険者っぽいからね。


「冒険者ギルドにようこそ、ケントさま。ビビさま。


 ギルドで、冒険者証をもらう。

 これで依頼や達成度、報酬や戦況報告は、全部電子メールで届く。いちいち素材を売りに行かなくても、依頼書を確認しにギルドへ足を運ばなくていい。

 細かい説明は、やっぱりギルドに聞いたほうがいいんだけど。

 

「ゴブリン五匹、スライム一〇匹倒してくださいだって」


 依頼書を見て、手頃なミッションを受けた。


「装備は、初期装備でいいか」


 手持ちのお金で、アイテムのポーションだけを買いに向かう。


 この世界は「テラフォーミングした、地球とは別の星」という設定だ。そのため、ある程度は近代化が進んでいる。ガラスどころか、パウチやセルフレジがあるのだ。土地によっては、文字通り中世ヨーロッパっぽい国とか、異国風の文化などもあるらしい。


 ポーションも、コンビニなどで売っているノド飴みたいなパウチ型である。


 あれかな? ワンちゃんとかが現実と違和感なく入りやすいように、近代的な建築物で構成しているのかも。


「おっ、ビビ。買いたい?」

 

 とある商品に、興味津々なビビ。


「ああ、このポーションは」


 これって、パウチ型のおやつじゃん。


 このゲームにある店舗には、ペット用品も「異世界の商品」として陳列している。ここは、ネット店舗でもあるのだ。


 ゲーム内通貨や冒険者の報酬は、「クーポン」として提供される。ここで商品と交換できるのだ。

 だから、買いすぎ注意である。


「ビビ、これがほしいんだね?」


 ボクがおやつを差し出すと、ビビはコクコクとうなずく。わかりやすいなー。


「じゃ、ビビ。買っておいで」

 

 ビビに、お会計を頼んだ。


 自分の冒険者証を、ビビはセルフレジに差し出す。

 ちゃんと、お金の概念がわかるみたい。


「ほんとにキミは賢いな、ビビ」

 

 さて、ポーションを買ったら冒険だ。


「どれだけの敵が、待っているのかな?」


 早速ビビが、スライムと格闘を始めた。


 スライムは、この世界で最弱のモンスターである。

 ネコの遊び相手としては、最適かも。


「とお。それっ」


 ボクはショートソードで、スライムをコンと叩く。

 おお、最弱。一発で倒せた。


「おっふ」


 一度、わざと攻撃に当たる。ポーションの使い方を覚えるためだ。


「封を切って、チューっと食べたらいいんだな?」


 ほんとに、チューブ型ノド飴と同じだな。


 スライムは用心さえしていれば、苦戦する相手ではない。


 やられ演出もファンシーで、目を回す程度にとどまっている。

 潰れたり、血が吹き出すようなことはない。


 ゲームの操作に慣れるために、ボチボチとスライムを叩く。


 だが、ビビは違った。自分の身体を電撃の槍と化して、スライムを撃退する。

 

 シュンとビビが移動したかと思えば、スライムの群れが感電して目を回す。


「すごいな。七匹をいっぺんに倒しちゃった」


 こっちはまだ、三匹しか相手にしていないよ。


「次は、ゴブリンだ。村を狙っているみたいだから、行ってみよう」


 近くの村付近で、たむろしているゴブリンを発見した。


「ギャギャ!」


 背後から、ビビが雷撃タックルをする。


 それが合図だった。


 五匹倒せばいいのに、一五匹くらいを相手に。


 でもビビは、全身を電撃の槍にして、一瞬でゴブリンの集団を倒してしまう。


「まったく。目を回すのはこっちの方だよ」


 ミッション達成のメールが来た。


 報酬のクーポンが、冒険者カードに振り込まれている。ビビのおやつ、二個分かな。


「さて、ログアウトするよー……って、ビビ?」


 街へ帰ろうとしたが、ビビは街とは反対方向を見ていた。


 と思っていたら、いきなりビビが走り出す。


 あそこは、森の中だ。上位ランカーだけが、入るのを許可されたエリアである。まだボクたちは、許可をもらえていない。


「そっちは、目的地と違うよ! ビビ!」


 仕方ないなあ。ペットの気持ちはわからないや。


 だが、ビビの野生は本物だと証明された。


「たすけてぇ」


 なんと、女性プレイヤーとペットが、ゲームのバグにハマっていたのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る