第40話 秘密を打ち明ける
「どうかな? お世話になっているんだ。ベルさん……
ただ、秘密を知られることで、ビビの居心地が悪くなるかもしれない。
なので、相談したうえで決めたかった。
ボクのわがままに、付き合わせることになるのだから。
『ニャアは別に、構わないニャ。別にしゃべれても、お話できなくても、ニャアのケントご主人への感謝は変わらないニャー』
ビビは、快く承諾してくれた。
「ビビはそれでいい? 特に問題が、出たりはしない?」
『問題が発生したら、その度に解決していけばいいニャン。そうやって、ニャアたちは生きてきたニャ。ゲームといっしょニャー』
「そうだったよ。ビビは強いね」
ボクは、ビビの頭を撫でる。
『ニャアと同じように、ベルもケントのことが大事だニャー。きっと、わかってくれるニャー』
「ありがとう、ビビ」
『ケントご主人こそ、今まで隠し事をしてて、しんどかったはずだニャー』
「特に、大変ではなかったよ。ビビと話せて幸せだし」
『そういってくれると、うれしいニャー』
数日後、ボクはベルさんにビビのことを打ち明けた。
それが、助けてもらったケジメだと思ったからである。
ボクのホームに来てもらい、ベルさんたちビビと会わせた。
「ホントに、あなたはビビちゃんなの?」
『そうニャー。よろしくニャー』
ビビはボクと接するように、ベルさんにあいさつをした。
「声の感じからして、あたしが知っている声優さんの誰とも似ていない。完全に、オリジナルだわ」
ベルさんは不思議がっている。
だが、すぐに冷静になる。
ナインくんが、普通にビビと遊び始めたからだろう。
ビビとナインくんは、薬草畑の隣にある草原に出た。手持ちのゴムボールで、サッカーを楽しむ。
同じ動物同士だからか、ナインくんとビビとの仲は変わらない。
「ペット同士だと、すぐに打ち解けるわね」
家の外に設置したベンチに、ベルさんが腰掛ける。
ボクも、並んで座った。
「はい。通じ合っているんだと思います」
「いつ頃から、ビビちゃんは言葉を覚え始めたの?」
「しゃべりだしたのは、最初のバグ取りのときですね」
ベルさんを、バグによるロストから救ったときだ。
「あの時からだったのね?」
「はい。ですが、人間の言葉は、それ以前からわかっていたみたいなんですよね」
ビビはゲームの設定など、細かい内容さえ把握しているようだった。自分のステータスも選べていたし、ある程度の言葉はわかっていたみたい。
「直接、ビビに事細かく聞いたことはないので、わかりませんけどね」
あまり詳細にビビのことを聞いても、よくわからないと返ってきたのである。
赤ん坊が自然と言葉を覚えるように、ビビたちネコも、段々と理解していくのだろうと、ボクは判断した。
「それでケントは以前、『ペットが言葉を話し始めたら、どう思うか』なんて聞いたのね?」
ベルさんがベンチに腰掛けながら、ボクに顔を向ける。
「そうです。ベルさんなら、どう考えるのかなって」
「いいと思う。愛情自体は変わらないけど、どうしてほしいとかが細かくわかるのはいいわね」
「はい。病気の時とか、助かるかもしれません」
「そうね」
ビビが、こちらにやってきた。オヤツをねだってくる。
「わかった、わかった。どうぞー」
ボクは一旦ゲームを中断して、ビビにオヤツの封を開けてやる。
「よろしくねビビちゃん」
『こちらこそニャー』
ボクたちが話をしていると、ちっこいエルフが「こんにちはー」と手を振ってボクの家の畑にやってきた。
エルフのファンナおばさんである。
見た目こそ少女だが、実年齢は六〇を過ぎたおばあさんだ。
「薬草をもらいにきたよぉ」
「ありがとうございます。今月分は、こんな感じですね」
大量の薬草を、ボクは木の皮で編んだカゴに詰める。
「どうもぉ。それとぉ、ポーションの新作を作ってみたよぉ」
ファンナおばさんが、新種ポーションの試供品をくれた。
攻撃力を上げる【アタックポーション】と、防御力を上げる【ガードポーション】である。
「ありがとうございます。大事に、使わせていただきます」
「いえいえ。なんかねぇ。お隣のトワちゃんから、『ブス? と戦うよ』って聞いたから、作ってみたのよぉ」
おばさんが言っているのは、多分「ボス」だろうな。
「ブスっていうから、オークちゃんか、トロルちゃんかねぇ? あたしゃ、ああいうのも愛嬌があってかわいいと思うけどねぇ」
「あはは」
ボクとベルさんは、苦笑いをした。
「あとは、【聖水】も作ったよぉ」
弱い魔物を、近づけないようにするという。
アンデッドを避けるアビリティなら、イチさんのペットであるカメのホクサイくんが持っている。
聖水は、どの魔物にも効果があるらしい。
「こんなにたくさん、ありがとうございます」
「お店をもらったんだから、これでも足りないくらいだよぉ」
今からファンナおばさんは、調合のために引きこもるらしい。
「またポーションができあがったら、分けてあげるねぇ」
「お願いします。今日はありがとうございました」
ボクたちは、ファンナおばさんを見送る。
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