第五章 最大のピンチ! 飼い主を救うニャー

第36話 高熱でダウン

「うわーっ!」


 本格的な冬到来の前に、大雨が降ってきた。


「ひどい雨だな、こりゃあ」


 ドバドバとバケツを引っくり返したような雨の中、ボクはゴミを置きに行く。


 このところ、雨のせいでゴミを置く機会がなかった。しかし、いくら待ってもゴミが溜まっていく。

 

 ゴミ出しの時間をすっかり逃してしまったボクは、大雨の中での作業を余儀なくされる。

 仕方ないね。

 おかげで、二往復もしてしまった。


「こんな夜に、雨が降ってくるなんて」


 ついてない。

 服も傘も、ずぶ濡れに。


 ボクはゴミ出しを終えた直後、オフロに入った。


 疲れた身体に、お湯が染み渡る。


「ふうう……」


 身体が冷えているなあ。入浴中なのに、震えが止まらないや。


 このところ、仕事もバタついていたからなぁ。ボクの仕事じゃないエリア業務も、担当したし。簡単な作業だったから、よかったものの。


 それも、体調を崩した人がいたからだ。


 このところ、社員のほとんどが体調を崩している。

 子どもにカゼをうつされたり、自分がどこかからもらってきたり。


 感染しないように万全の態勢を取っていても、かかる人はかかる。


 ボクも気をつけないとなぁ。


 なぜか、ビビがお風呂場まで歩いてきた。心配げに、『ニャー』と鳴いている。いつもは、水場には近づかないのに。自動給水器のお水に手を付けているから、ノドが渇いているわけでもなさそう。


「大丈夫だよ、ビビ。すぐに出るから。その後、ゴハンにしよう」


 オフロから出て、ビビの食事を用意した。


 ボクの分は、耐熱容器に入った肉じゃがである。おコメとお味噌汁だけは、手作りだ。


 食事は大家のトワさんから、作り置きを大量にもらっている。その量は、約三日分だ。


 トワさんたち一家は、しばらくの間は家にいない。すしおくんも。全員、温泉旅行に出かけているのだ。


 ペットも入れる温泉かぁ。ボクも行ってみたいな。

 ビビがケージで窮屈しなければ、いいけど。


「うん。あいかわらず、おいしい。ありがとうございます」


 今はいないトワさんに、お礼を言う。


 食後、ゲームにログインする。

 

「ビビ、こんばんはー」


『ケントご主人、なんだか顔色が悪いニャー』


 珍しく、ビビが不安な顔を見せた。


「ボクは大丈夫だよ、ビビ。心配ないから」


 ズズ、と、ボクは鼻をすする。

 

『すでに、鼻声だニャー』


 ビビに指摘されるまで、そんなこと気にもしていなかったな。


 ボクはティッシュ箱を引き寄せて、鼻をかむ。セミダイブだと、こういう行為もできていいね。


『季節の変わり目だから、気をつけるニャー』


 飼い猫に心配されるくらいだから、目に見えて体調が悪いのかも。


「そうだね。近い内にボクも予防接種を打とうかな」


 先日、獣医さんから、ビビには注射を打ってもらった。


 ペットの健康第一で、自分は不摂生というのは、飼い主あるあるだね。


 飼い主である自分がしっかりしないと、ペットの安全どころではない。


「今日は、遊ぼう」


『ちょっとだけにするニャー。早く休むニャよ』


「わかった。今日は、近くを回るだけにしよう」


 前に行ったダンジョンを、積極的に回る。


 この間行った幽霊屋敷、【ホーンテッド・パレス】の近くにある山へ、鉱石を掘りに向かう。


「レア鉱石が出るといいね」


『後ろは任せるニャー』


 ビビが見張っている間、ボクは【幸運のツルハシ】を振った。


『敵が来たニャー』


「ボクも戦うよ」


 せっかく、装備を強化したんだ。試してみたい。


【赤熱の剣】なら、アンデッドにも通用しそう。


「それ!」


 ボクは、炎が燃え上がる刀身で、ゾンビを斬りつけた。

 

 アンデッドモンスターが、炎に包まれる。

 

 やはり、ボクの予想は当たった。


 この武器を使っていたら、オフ会でもうちょっと活躍できただろうね。


 ベルさんやイチさんが強すぎたから、ボクは役に立たないかな。 


 でも今のボクとしては、この剣で暖を取りたいかも。


 気を取り直して、鉱石を掘り進める。


「【紫水晶】だって。魔法の武器が作れるそうだよ」


『それを取って、早く戻るニャー』

 

「いい感じの鉱石が手に入ったよ、ビビ。ありがとう」


 ボクは今まで以上に、ビビを撫でる。


『気を付けて帰るニャー』


 街に戻って、トワさんの家に預けた。

 トワさんがログインしていなくても、ドロップアイテムを預けることはできる。


「今日はありがとう、ビビ。楽しかった」

 

『ニャアは不安でしょうがなかったニャー。早く寝るニャー』


「わかった。おやすみ、ビビ」


 ビビに催促される感じで、ログアウトする。


 ホントに、今のボクは顔色が悪いんだな。


 寝ようとしたところ、鈴音りんねさんからメッセが来ていた。


 軽くやり取りをする。

 

 以前お邪魔したとき、「今度、家に来ていいか」と言われたので、住所は教えてある。

 

 明日にでもどうか、と誘われた。

 が、ボクの体調がすぐれないので後日にしてもらう。



 翌朝、ボクは動けなくなった。


 身体が重い。

 これは、本格的にカゼを引いてしまったようだ。


 幸い、ビビのゴハンはすべて全自動で行える。


 ボクは寝ているだけでいい。


 このカゼ、いつまで続くのか……。

 

「しまった。カギを閉めてない」


 ボクは玄関に向かおうとした。


 だが、そこで力尽きてしまう。

 

 

 夕方頃、ボクは目を覚ました。


 あれ、ベッドで寝ている。


「気が付きましたか?」


 ベッドのそばに、鈴音さんがいた。

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