第20話 鉱山バグの除去

 ボクとビビも、魔物を撃退して回る。


 ビビが刀を振り、【ライトニング・スピア】で大トカゲを貫いた。


 みんなへの攻撃を、ボクが【カバーリング】で防ぐ。


「新技をくらえ。【シールド・プレス】!」


 固まっている集団に、ボクは盾を押し付ける。

 盾でアタックして、大トカゲを倒した。


「ボクだって、攻撃を受けっぱなしじゃないよ」

 

 しかし、どんどんと大トカゲは増えていく。 

 

「囲まれたわ!」

 

 たとえ魔物に周囲を塞がれても、すしおくんは動じない。ネコヒップアタックなど、肉弾戦で相手を倒していく。


 あれだけいた大トカゲの集団を、ほぼ一匹で倒してしまうとは。


 ふたりとも、前衛肉体派のようだけど……。


「おかしいなー。魔法使い寄りのモンクにしたはずなんだけど」


 そっか、たしかに。


「ちょっとすしおくん、チェックさせてねー」


 ボクはすしおくんのステータス表を、確認してみた。

 

 なるほど。すしおくんはヒップアタックで、土魔法の【アースクエイク】を起こしていたのか。


「ということは、すしおはちゃんと、魔法を使ってた?」


「魔力を消費しているから、間違いありません」 

 

 至近距離でヒップアタック土魔法とか、すごいね。


「ボクたちは総じて、全体攻撃の手段に乏しいから、全体攻撃魔法が使えるすしおくんは大活躍できますよ」


「そっかー。よかったねー、すしおー」


 トワさんがおやつ代わりに、チューブ型ポーションをすしおくんに舐めさせる。


 すしおくんも、おやつを食べているときだけは積極的だ。

 

「でもケント、これだけの魔物が現れたってことは」


「はい。魔物が溢れてくるバグの傾向かもしれません」


 この間、ベルさんを助けたときも、魔物が大量発生した。


 バグには、魔物を呼び寄せる作用があるのかもしれない。


「でも、バグが見当たらないわ」


 たしかに、バグは発生している。

 すり抜けられる壁も、見つけた。

 ボス部屋の前にいるのだが、入れない。

 本当に、進行不能バグは起きていた。

 

 ただ、原因がわからない。


 どこかにバグの元となる、モザイク状のエフェクトがあるはずなんだけど。


「適当に掘って、探そうか?」


 ツルハシを持って、トワさんがベルさんに語りかけた。


「そうしてもらえる?」


「おっけー。なにかあったら、よろしくね」


 さっそくトワさんは、ツルハシで地面や壁を掘り出す。


「異常はないわ」


 バグの出てきそうなポイントを、重点的に探した。

 

 トワさんがあちこちを掘り、ベルさんが掘った跡を警戒する。


 そういった作業を、繰り返す。


 みるみるうちに、トワさんの強化に必要な素材が集まってきた。


 おやつを食べてお腹がいっぱいになったすしおくんも、気まぐれに動き出す。なにか、ネコ独特の感覚が働いたみたい。


「すしおーっ、遠くに行ったらダメだよー」


「ボクとビビが見ていますから、安心してください」


 トワさんはベルさんに任せて、ボクはすしおくんの様子を伺った。


「ビビ、すしおくんは何かを感じたのかな?」


『かもしれないニャ。ここのバグは、かなり厄介な現象みたいニャ。すしおもできるだけ、大家さんを遠ざけたいみたいニャー』

 

 すしおくんなりに、飼い主を気遣っているみたいだね。


 突然、すしおくんがダッシュした。


 そこにはただ、岩壁があるだけ。

 

『ん、すしおが、なにかを見つけたみたいニャー』


 ビビも、一緒に走り出す。


「待って、ビビ!」


 ボクもつられて、駆け出した。


 すしおくんは、一心不乱に壁に爪を立てている。


「ここにバグがあると、すしおくんは睨んだんだね?」


『そうみたいニャー』


 一旦すしおくんをどかせて、ボクは壁に剣を突き立てた。


 出たぞ。モザイクだ!


「よし。出ました! ベルさん!」


 ボクが呼びかけると、ベルさんが駆けつける。


「見つけたのね、ケント!」


 ベルさんは手持ちの銃とは違った形の、拳銃を手にした。


「みんな、離れて! ナイン!」


 ナインくんがベルさんの合図に合わせて、ボクたちの壁になってくれる。


 ターンッ、と甲高い音が、ダンジョンに鳴り響く。


 白黒の銃弾が、モザイク状のエフェクトの中に消えていった。


 モザイクが光って、砕け散る。


「これで、バグは除去できたと思うわ」


 仕事を終えたベルさんが、ステータス画面からギルドへ報告のメールを打つ。


「ケントくん、すごいねー」


「すごいのは、すしおくんです」


 ボクは、すしおくんを撫でた。


「あら?」

 

 すしおくんはボクの手からすり抜けて、飼い主であるトワさんの元へ。


「おーっ。よしよし。甘えん坊さんだねー」

 

 終始ムスッとしながらも、トワさんに撫でられて気持ちよさそうだった。


 やっぱり、飼い主さんのほうがいいよね。


「たしかに、バグが除去された返答が来たわ。あとは、ボスだけよ」


「はい。あとベルさん、なにか変わったことはありませんか?」


「変わったこと?」


 バグを除去したことで、ビビはボクと話せる力を得た。


 ベルさんにも、そんな力が備わったのではないかと思っただけど。


「なんともないわ。ただ、大幅にレベルが上がったくらいかしら?」


 バグ取りは、ぶっちゃけボス撃破より大量の経験値をもらえるみたい。


 とはいえ、ベルさんにペットと話す能力は手に入らなかったようだ。

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