第37話

私は、今凄く怒っています。



「そんな怒るなよ……男ならちょっとはあーいうシチュエーション夢見るだろ?」



「……私、男じゃないし、知らない」



好き勝手に抱かれた後、資料室から出て部署に戻るとほとんどの人が退社していて、人が疎らだった。



貴也から後に聞いた話では、部長さんは私達の関係を知っているらしい。



第一印象は、物静かで必要以上の事は話さないけれど、ニコニコと笑っていて、優しそうな人、だった。



貴也も信用しているらしい。



何を考えているか分からない、ニコニコと笑う部長から帰宅の許可をもらい、ロッカーで着替えを済ませて部署を出た。



割と長い時間資料室にいた事には全く触れられなかったのが気になるけれど、言い訳が思いつかないから有難いとは思う。



こういう所が、貴也からしたら信用に値するのだろうか。



エレベーターの前で待っていると、背後に気配。



見ると、貴也が立っている。蒲田さんはいないようだ。



周りに人はいないけれど、万が一を考えて、周りを気にしながら、小さく「お、お疲れ様です」と言うと、貴也は明らかな営業スマイルで「やぁ、お疲れ様」と応えた。



エレベーターが開き、二人で乗り込む。



扉が閉じた瞬間、隣にいた貴也が私に迫って来て、後退る私は壁に背を押し付ける形になる。



「ちょ、何っ……ゃ、んっ……」



「っ、はぁ……制服脱いじゃったのか……勿体ない……」



キスをしながら、足の間に足を割入れてきて、膝で中心をグリグリと押し付ける。



「またっ、こんなっ……んンっ、んんっ!」



「ふっ、ン、はぁ……いつ誰に見つかるか分からない場所とか、興奮しない?」



「しっ、ないっ!」



私の体に覆い被さるような体勢で抱きすくめながら、深くキスを繰り返す貴也が楽しそうに私の唇を舐め上げた。



エレベーターは駐車場に着いた。



そして、今に至る。



「困ったなー……うちの可愛い奥様に拗ねられたら、泣いちゃうなー……」



背後からそんな声がするけれど、気にする事なく車へ歩みを進める。



「迪香……機嫌直して……」



「んっ……」



後ろから優しく抱きしめられ、首筋にキスが落ちて甘く囁かれた。



そんな事されたら、許すしかないじゃないか。



甘えるように頭を擦り付けてくる貴也が可愛くて、ついつい頬が緩む。



「仕方ないなぁ……」



顔だけを貴也の方に向けてそう言うと、貴也が嬉しそうに笑った。



ほんと、敵わないな。



「貴也ーっ!」



そんな私達の耳に響く高い声。



そちらを見る前に、貴也が大きな溜め息を吐いた。



もの凄く嫌そうな顔をしていて、こんな顔見た事なくて、珍しいモノを見た気がして呆気に取られていると、貴也の背中に何かが当たり、その衝撃で体が傾いた。

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