第2話

目の前にそびえ立つ、物凄く立派なマンション。



いや、これは……城か?



さすが社長。こんな高そうな建物に住めるとか、恐ろしすぎる。



迪香みちか様、お荷物をお持ち致します」



「え……あ、いやいや、自分で持てまっ……」



「貴女はこれから社長夫人になられるお方ですので、お荷物を持たせたなどと社長に知られたら、私が叱られてしまいますので」



多少強引に荷物を奪われる。



手持ち無沙汰な私は、秘書である蒲田かまたさんに続いて建物に入っていく。



中に入ってまた驚く。眩しいくらいピカピカだ。



目眩がする。想像以上だ。何だか別世界のようで、少し引いてしまう。



無駄に広くてピカピカしたエレベーターに乗り、数字の出る画面だけを見つめていると、数字がどんどん増えて、見たことも無い階数でやっと止まった。



「50超えた数字とか……」



もう次元が違い過ぎて、訳が分からない。



クラクラする。



部屋に入ると、もう開いた口が塞がらず、立ち尽くすしかなかった。



これまた広い。広すぎて宇宙なのかな?とか思ってしまう。



ここまで広くする必要があるのか。掃除するの大変なんじゃないか。迷わないか。



色々思うところはあるけれど、これからはここで生活をするのだと考えると、もう諦めるしかないという結論に達した。



「こちらが迪香様のお部屋でございます」



自分の部屋になる場所や、他にも色々案内され、最後にパートナーである未来の旦那様の部屋の前に立つ。



「社長のお部屋には、会社関係の大切な物もございますので、いくら社長夫人といえど、社長が不在の時や社長の許可のない場合は、くれぐれも立ち入らないようお願い致します」



言われなくても興味はない。



とは口に出せるはずもなく、この場は素直に頷いておいた。



一通りの説明を受けた後、少し荷物の整理をし、休憩がてらやたら広いリビングで温かい紅茶を飲みながら、文庫本を読んで寛いでいた私の耳に、扉が開く音が届いた。



社長様が帰ってきた。



「おかえり、なさい」



素早く立ち上がった私が、たどたどしく彼に体ごと向き直る。



「あ、ああ……ただいま」



複雑そうな顔。



この家に来て早々やらかしたかなと思い、気まずく感じた私に、彼は表情をコロリと変えた。



そう、彼はありえないくらいふにゃりと表情を崩した。



「いやぁ〜、家に帰って来たら人がいて、おかえりって言ってくれるのが、こんなに嬉しいものだったなんて、初めて知ったよ。しかもこんなに可愛らしい奥さんが毎日お迎えしてくれるんだから、俺は幸せ者だな」



本当に幸せそうに顔を綻ばせ、そう言った彼に、私は不覚にも可愛さ等を感じたりなんかしちゃったりなんかした。



「えっと、改めて。神林かみばやし迪香さん、俺の力の及ぶ限り、必ず大切に、幸せにしますので、これからどうぞ末永くよろしくお願いいたします」



深々と頭を下げ、未来の伴侶である社長、藤宮貴也ふじみやたかやは力強く言った。



まるで、本当の相手にするみたいに。



私は、偽物なのに。



短くよろしくお願いしますとだけ言って、私も頭を下げた。

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