第33話
新しいメッセージが来ていて、相手は澤原君だ。
そういえば、ちゃんと返事をしていないな。
ちゃんと会って話さなければいけないから、会う約束をする。
送信終わり、一息吐くと寝室の扉が勢いよく開く。
「……迪香っ!」
激しい音にビクリと体を跳ねさせ、小さな悲鳴を上げてしまう。
「び、びっくりした……」
焦りを顔に貼り付け、私を見つけて明らかな安堵を見せる。
ソファーに座り、抱きしめられる。
「またっ……いなくなったのかとっ……焦ったっ……」
「大丈夫だよ……もういなくならない。絶対……約束するから、安心して……。ほら、しっかり睡眠取らなきゃ」
体を離し、頬、目元を撫で、口付ける。
突然横抱きにされ、そのまま寝室に連れていかれる。
ベッドへ下ろされ、隣に寝た貴也が、また胸の辺りにキツく抱きついた。
目は、開いている。
「寝ないの?」
「眠れなくなった……」
まだ不安そうな表情が取れない貴也に、私は提案する。
部屋を出ないからと言った私を、不満そうに見つめる貴也に離してもらい、クローゼットを開ける。
中からネクタイを取り出し、ベッドへ戻る。
「私と貴也の手、これで縛って」
不思議そうな顔をしていた貴也も、すぐにネクタイを手に取った。
「……何か……縛り慣れてない?」
「まぁ……俺も一応色々な子と付き合ったから……それなりに、ね」
これ以上聞くのが怖いから、やめておいた。
手首を見て、絶対自分では解けないなと思った。痛みはないけれど、本気で縛ってるんだ。
そのくらい、彼は私を逃がすつもりがないんだと悟る。
少し安心したのか、貴也は私に抱きついて目を閉じた。
しばらくして、寝息が聞こえてきた事にホッとしたら、私も少し眠る事にした。
目を閉じた私の耳に、貴也が私の名前を小さく呟くのが届いた。
時計の音と、貴也の寝息にウトウトしてくる。
気づいたら、いつの間にか眠っていたようで、カーテンの隙間から外が少し見えるけど、まだ少し暗い。
「おはよう」
「……起きてたの?」
目が覚めて、体勢が逆になっていて、私が腕枕をされている形になっていた。
「さっき起きて、寝顔見てた」
「は、恥ずかしいから、やめて……」
「何で? 可愛いよ」
まったくこの人は、こんな恥ずかしい事を平然と言うんだ。そんな愛おしそうな顔して言わないで欲しい。
嬉しくなってしまう。
「貴也って絶対タラシだよね……」
「褒め言葉として受け取っとくよ」
「褒めてない」
そう言って二人で笑う。
「そうだ。ずっと聞こうと思ってたんだけど、迪香は今の会社、楽しい?」
「突然どうしたの? 仕事はそういう感じに考えた事なかったな。ただ働いてる感じ、かな」
「俺の会社で、俺の手伝いしてみない?」
私の髪を指で遊ばせながら、凄く魅力的な条件を並べ始める。
正直今の会社にそこまで大きな不満はないけれど、貴也が出した条件が上回った。
しかも、同じ階じゃないにしろ、仕事場に貴也がいるのも、私にとってまた魅力だ。
そして私は、今の会社を辞め、貴也の会社に入社する事になった。
但し、コネで入るのは嫌だからと断り、ちゃんと正規のルートでというのが、私の条件だった。
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