第一章
第6話
決心したように口を開き、貴也さんは話し始めた。
そして気になった。
何故さっきから敬語なのだろうか。
「その……シたので気づいてるとは思うんですけども。俺、その、か、下半身がですね……その……なかなかに大き目でして」
「……自慢ですか?」
「ち、違いますっ……」
男性はそこの部分が大きいのが自慢になるのかと思っていたんだけれど、そういう事じゃないのか。
「そのせいで今まで付き合う女性にことごとく痛いと拒否られたり、挿入前から無理だと怖がられて逃げられ、そのうち女性とそういう事をするのが怖くなってしまって……」
黙って聞いていると、先程よりもっと言いづらそうに言葉を続ける。
「それ以来……その……使い物に、ならなくなりまして……」
それは、つまり。
「勃起しなくなったという事ですか?」
「ぼっ……女の子がそんなハッキリと……」
とにかく、貴也さんは雰囲気や気持ちを盛り上げても、不能なまま今まで過ごしてきたらしい。
そして、姉に出会い、気の強めな姉に「そんな下らない事でグダグダ悩んでんの? 小さい男だなっ!」と言われ、衝撃が走ったらしい。
それで好きになるというのも、なかなかだな。
「でも、それなら何で私とできたんでしょうか?」
「それが不思議なんですよね……。何故か急にドクンと体全体が、まるで心臓になったみたいな感覚がして、気づいたら……襲ってました……本当にすみません……」
またも頭を下げる貴也さんに、苦笑しながら「よかったですね」とだけ言っておいた。
ただ、これで治ったとは言いきれない為、貴也さんと話した結果、お互いの性欲を満たすというのも含めた、貴也さんJr復活作戦を実行する事に決まってしまった。
夫婦になるのだから、特に問題はないのだけれど、私のような特に可愛くも女らしくも、何の魅力もない女が相手で大丈夫なのだろうか。
本人は満足そうにしているから、敢えて何も言わなかった。
「そうだ。あの、ケーキ買ってるんですけど、食べませんか? こんな時間にケーキっていうのもなんですけど……」
嬉しそうに返事をした貴也さんに、微笑ましさを感じながら、二人でケーキを食べた。
そのケーキは、何故か普段よりも甘く感じた。
私より背が高くて、鍛えられているであろう大きな体で、幸せそうにケーキを頬張る貴也さんを見ていると、貴也さんのフォークが私に差し出される。
「はい、あーん」
「え?」
差し出されたフォークには、ショートケーキの上にあった、赤いイチゴが刺されていた。
「お詫びにはならないかもだけど、とりあえず……」
怒られた後の子供みたいに、私のご機嫌を窺う貴也さんに、私は笑いを堪えられず笑ってしまう。
「ぷっ……あははは。まだ気にしてるんですか? そんな事しなくても大丈夫ですよ」
「いや、でも、女の子の初めてって、やっぱり特別だと思うし、好きな人としたかったんじゃないかなぁって……」
「結婚したばかりの私に、浮気しろと?」
からかうように言うと、貴也さんは必死に否定するかのように首を横に何度も振る。
「私の事は気にしなくていいですから、食べちゃって下さい」
私が食べないと分かると、渋々ではあるけれど、イチゴを口に頬張った。
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