第36話

残酷にも、扉は容赦なく開かれる。



運良くと言うのか、私は奥にいたので死角になっているのか、手前で作業している相手からは見えないようで、見つかる事はなかった。



それでも、あまり大きな音を立てれば、絶対に聞こえる距離だ。



「貴也……だめっ……」



「嫌がってるわりに、中めちゃくちゃ締まって……はっ、ぁ……俺のを離したくないって言ってるっ……んっ……はぁ……声、ちょっと、我慢な……」



「ふっ……んっ、ひ……」



首を振り、手で貴也の胸の辺りを押さえ、小さな声で貴也にお願いするけれど、貴也にやめる気はないらしく、耳元で囁き、耳にキスをすると、ゆるゆると動き始めた。



両手で口を押さえ、声が漏れないように、必死に耐える。



「そのっ、声我慢してるのもっ、ンっ、たまらなく、そそるっ……あぁ……すっげぇ……いいっ……」



激しく動いているわけじゃないのに、凄く気持ちよくて、自然と自分から腰を揺らしていた。



「なぁ、今何か聞こえなかったか?」



「ちょ、お前やめろよっ! それでなくても、ここ端にあるし、薄暗くて怖ぇんだからよ」



二人の声に、体が緊張する。



貴也はそんなに気にしていなさそうで、なんなら、逆に楽しそうにすら見える。



「今……俺のをこのまま奥まで一気に入れたら……どうなると思う?」



耳元で貴也の声が、まるで悪魔の囁きのようで、バレる事の恐怖と、奥を突かれた後の快感を期待する気持ちがせめぎ合う。



「そんな物欲しそうな顔して……ほんと、可愛い奴……」



「んっ……はっ、ふ……ンぅ……」



お互いの舌が絡み合い、深く口付けられた唇から吐息が漏れる。



「はぁ、駄目だっ……ごめん、迪香っ……動きたいっ……」



「え、やだっ、待って! 今はっ……ゃ、だめっ……」



動き始めた貴也のモノが、ゆっくり引き抜かれたかと思うと、一気に奥まで押し入ってきた。



貫かれたかのような圧迫感と衝撃に、耐えられるわけはなかった。



「あぁああっ!」



声を抑えられず、私は体を仰け反らせて絶頂を迎える。



体がビクビクと痙攣し、呼吸を求めて必死に息をする。



そんな私を、貴也は容赦なく揺さぶり、腰を打ち付け続ける。



けれど、恐れていたような状況にはならなかった。



「何っ……はぁ、ん? フッ、もう二人はいないよっ……ンっ、はっ、ほら、俺だけに集中して……あっ、んっ、あぁ……」



「あんっ、ああっ、激しっ、ぅあっ……」



物凄く長く感じる時間が、終わりを告げようとしていた。



激しさを増した律動に翻弄され、声がどのくらい漏れているかなんて、今の私には考える余裕なんてなかった。



会社に来て初日に、仕事中にこんな事をするなんて。



ありえない。



「もっ、イクっ……奥に、出すからっ……しっかり、はっ、受け止めてっ……」



「あっ、あっ、中、だめっ……んあっ……」



「はぁ、俺の子、しっかり孕んで……ね?」



消えゆく意識の中で、私は貴也にしがみつきながら「貴也のバカ」と悪態を吐いたのだった。

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