第31話

目が飛び出るのかと思うくらいに見開かれ、飛び起きる。



そのままベッドから落ちる。



「貴也さんっ!? だ、大丈夫ですかっ!?」



「ってぇー……」



後頭部を押さえて悶える貴也さんに歩み寄り、頭に触れる。



「ここ打ったんですか?」



押さえていた部分を撫でると、貴也さんが私を見つめていた。



「な、何でっ……みち、ここっ、あれ……」



混乱している貴也さんが、あわあわしている。



可愛いな、やっぱり。



ほんとに、こんな可愛くて危なっかしい人、放って置けるわけない。



私が笑うと、貴也さんの表情が崩れる。



初めて見る顔に、驚いてしまう。



貴也さんが、泣いてる。



「ぁ……いや、悪いっ……っ……」



口を押さえ、俯いて耐えている貴也さんが、愛おしくて、私は貴也さんを抱きしめる。



「突然いなくなって、ごめんなさいっ……」



「っ……っざけんなっ……」



「うん、ごめんなさいっ……たくさん、怒っていいっ、からっ……」



苦しそうに呟いた貴也さんにキツく抱きしめ返され、涙がボロボロ零れ落ちる。



「話くらいっ……聞いてけよっ……この、馬鹿女っ……」



「うんっ……」



言葉の乱暴さとは裏腹に、強く抱きしめてくる腕は優しくて、温かい。



子供みたいに、お互い泣きながら抱き合う。



「もうっ……いなくなるなっ……迪香がいないと、俺はっ……死ぬっ……ずっと……ずっと傍にいてくれっ……迪香っ!」



「うんっ……私も傍にいたいっ……貴也さんの、傍にずっといたいっ……」



「好きなんだっ……迪香っ! 俺の前から、消えるなんてっ、許さないっ……好きだっ、愛してるっ……迪香っ! 迪香っ!」



「私も、愛してるよ……貴也……」



痛いくらい抱きしめられ、私も力を込める。



こんなに愛されていたなんて、知らなかった。



もっとちゃんと向き合っていれば、この人をここまで追い詰める事なんてなかった。



本当に、私はつくづく馬鹿だ。



どのくらい抱き合っていただろう。



涙もいつの間にか止まっていた。



―――グゥー……。



お腹の音が、静かな部屋に響く。



「……安心したら、腹減った……」



「ふふっ……ご飯、食べましょうか」



体を離して立とうとすると、服が引っ張られる感覚。



服の裾を持たれて、立てない。



「貴也さん、離してくれないとご飯作れませんよ?」



「……名前……」



「え?」



「貴也さんじゃなくて、貴也だろ……」



ちょっと拗ねているのか、目線が合わない。



「後、敬語も……いらない……」



こんなに可愛い人が、この世に存在してたなんて知らなかった。



スパダリの皮を被った、最高に可愛い私の旦那さん。



「うん、そうだね。貴也は、何が食べたい?」



「迪香が作る物なら……何でもいい……」



嬉しそうに笑った貴也は、相変わらず私の服を離さない。



仕方なく、貴也の手を引いてキッチンへ行く。



ここ最近、食事という食事をしていなかったらしいので、出来るだけ胃に優しい物を作ろうと思って、冷蔵庫を見たけれど、食べ物が一切入っていなかった為、買い物に行く事にした。



貴也の着替えを手伝う。



「ちょっと痩せたね……」



頬に触れながら、細くなった輪郭を指でなぞる。



今までなら想像すらつかなかった、無精髭が指をくすぐる。



「迪香も」



大きな手が私の頬を包むと、それに答えるように手を添えて、頬を擦り付けた。



「んっ……」



「改めて、迪香が俺のだと実感したら……嬉しすぎて……死ぬっ……」



腰に手を回し、抱き寄せられ、肩に額を擦り付ける。



「やっと、手に入れた……」



心底嬉しそうにしている貴也に、私まで嬉しくなる。



買い物の行き帰りの道で、貴也が私を随分前から想ってくれていた事を知った。



お姉ちゃんの代わりなんかじゃなかったのだと思うと、嬉しさでニヤニヤしてしまう。



「言っとくけど、俺、多分迪香が思ってる数倍は性格悪いよ?」



「みたいだね」



「でも、それで幻滅されても、俺はもう迪香を離すつもりないからな」



「ふふっ、大丈夫。覚悟してます」



繋ぐ手に力が入る。

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