第16話

〔藤宮貴也side 2〕



愛おしさが募るあまり、まるで盛りの着いた獣のように、暇があれば彼女を求めた。



彼女の全てが愛おしくて、彼女が毎回無意識に隠そうとする、腰辺りにある大きな傷を撫で、キスをし、舐め上げる。



抱けば抱くほど、彼女が自分の手で開発されていくのが目に見え、欲望が増していく。



自分の性欲の強さにも驚いたけれど、彼女への想いの大きさにも驚いていた。



不思議と戸惑いはなかった。



彼女と生活をしていて、彼女に惹かれない理由がない。



家政婦がいるはずの我が家に、今ほとんど家政婦が姿を見せる事がない。



最初の頃、彼女が申し出た条件を飲んだ。



家政婦にまで向けられる優しさに、正直驚かされた。



毎日、ただの契約だと思っているはずの俺の為に家事をし、金の話をしていたのにも関わらず、生活費以外で散財する事もなく、仕事すら辞めずに続けている。



献身的で、慈悲深く、美人でいちいち反応が可愛くて、外見だけでなく、内面までもが綺麗だとか、どうしたらいいんだ。



契約で始まったこの関係だからこそ、ちゃんとした形で結ばれたい。



そう考えるようになったのも、彼女のお陰なのかもしれない。



お世辞にも、自分は女性相手に誠実だったとは言えない。



自分の性格くらい把握しているつもりだ。



社長になって少しした頃、社長仲間であり、先輩に言われた事がある。



「社長になって、いい会社を作りたいなら、厳しさや威厳も大事だが、お前には圧倒的に気持ちが足りない。そんな話の通じない冷酷な男には、社員どころか、女すら付いてこないぞ。お前は人の気持ちを考えて、察する力を養え」



まるで子供に言うような言葉を受け、俺は殴られたような感覚に陥った。



確かに、俺は自分でも冷たい人間だとは思っていたが、そこまで酷いとは思ってはいなかった。



白黒はっきりさせ、グレーはなし。な極端な性格を、変える事から始めた。



まだまだ未熟だとは思うけれど、彼女と出会って、我ながら人間味が出てきたと自負していたりする。



この間その先輩に会った時にも「丸くなったな」と言われたくらいだ。



だからこそ、俺には彼女が必要だった。



毎日疲れて帰って、彼女に「おかえりなさい、お疲れ様です」と言われる度に、癒され、疲れすら吹っ飛んでしまう。



彼女は知らないだろうな。



俺が、こんなにも彼女に恋焦がれ、夢中になっている事に。



契約なんて、俺には何の意味もない。



俺は、今この目の前にある幸せな生活も、彼女自身も、手放すつもりはない。



どんな事をしたって、逃がさない。



俺は貪欲で、利己的な男だ。



それを彼女は知らないだろうし、知らなくていい俺の汚い部分。



彼女が手に入るなら、俺は彼女の理想の男でいようじゃないか。



汚い感情すら利用するくらい、俺は彼女に惚れていて、夢中なのだ。



優しく抱こうと決めていても、彼女を愛おしく想う感情の大きさに、激しくなる。



抱き終わり、疲れて眠る彼女に、毎回届かない告白をする。



「愛してるよ、迪香」



彼女にいつか届くように願いながら、眠る彼女にキスをした。

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