第三章

第15話

〔藤宮貴也side〕



男のシンボルが、大きいに越した事はないなんて、そんな戯れ言誰がほざいたのか。



自分のモノが大きいせいで、高校時代に付き合っていた彼女には怖くて無理と何人かには逃げられ、大学ではデカいというだけで、引かれて逃げられる始末。



これじゃ、モテた所で意味が無い。



それでも、何とか童貞を捨てた時ですら、やっと見つけた彼女は去って行った。



それ以来、俺は勃たなくなった。



その後どれだけの女性と付き合っても、彼女達を満足させられる事はなかった。



あるバーで一人マスターに愚痴っていた時だ。



俺の悩みを、明るく笑い飛ばした女性がいた。



俺は、その人に心を奪われた。



けれど、今思えば、その感情は恋愛感情とは違うんだと分かる。



簡単に笑い飛ばすような、明るく真っ直ぐな感情が羨ましくて、眩しくて、憧れたんだ。



まともな恋愛をして来なかった俺は、また新たな感情を知る事になる。



本当の恋愛感情を。



契約結婚。



彼女の妹である、神林迪香と交わした馬鹿げた契約。



それを諦めたような、何の感情も抱かないような顔で受け入れた女性。



彼女を知りたいと思った。



彼女の笑顔、困った顔、泣いた顔。そして、快楽に溺れる顔。色んな感情、表情が見たいと思った。



自分の手で、彼女の全てを引き出したいという欲求が膨らんでいく。



そして、それが体にも比例したように、あれだけ役に立たなかった俺のモノは、面白いくらい彼女に反応した。



嬉しさに勢いで彼女を抱いてしまった後、彼女は優しく笑って許してくれた。



俺は、天使がいるのかと錯覚したくらいだった。



自分の体を勝手に利用されたのにも関わらず、責める事すらせずに許す懐の深さもそうだが、何より笑った顔が、想像していた以上に可愛いのだから、困った。



普段なら、自信無さそうに俯き加減でいるけれど、元々美人な顔をしている彼女は、自分の魅力を全く分かっていない。



一緒に生活していくうちに、顔だけでなく、彼女の全てが可愛くて、愛おしくて、柄にもなく浮かれてしまう。



そして、その後もそういう動画なども見てみたが、俺の下半身はやはり彼女にしか反応しないと知った。



「社長、ちゃんと真面目に仕事して下さい」



いつも通り眉間に皺を寄せ、厳しい顔で社長である俺を叱責する秘書、蒲田に言われた俺はニヤニヤする顔を隠す事すらせずに蒲田を見る。



「いやぁー、やっぱり家に可愛くて愛おしい伴侶が待ってると思うと、仕事へのやる気が違うよー」



「やる気ある様には全く見えませんが?」



「ちゃんと出勤してるだろ。本当はずっと彼女と家にいてイチャイチャしたいのに」



恨めしい顔で蒲田を見るが、嫌そうに睨まれる。



「彼女は契約で結婚した相手としか思ってないんでしょ?」



「まぁ……そうだけどさ……こないだもさ、せっかくデート出来たのに「契約で結婚した私なんかに、そんなによくしてくれなくて、大丈夫ですよ」とか言うんだ……。ちゃんと優しくして、大切にして、愛を囁いてるつもりなんだけどなぁ……悲しいよ俺は……」



「社長の事ですから、回りくどいのでは? 奥様は何処か、普通の女性とは違う印象が見られますから、今までの女性達の様な対応ではいけないのではないでしょうか」



確かに、彼女は家族との間や、他にも色々ありそうだとは思っていた。



現に、契約の話をした時も、お金の話だけをしっかり確認していたように思う。



自分から提示した条件だし、お金目当ての女は嫌だと、今更言うつもりはない。



だけど、彼女をあそこまで自信がなく、卑屈な人間にした理由が知りたい。



「あまりにしつこく追いかけて、わがままばかりしていると、また逃げられますよ」



「お前ね、何でそう人の嫌がるような事ばっかり言うんだよ。人の気持ちを考えなさいって習わなかったか?」



「社長はもう少し、女性の気持ちを考える事を学ばれた方がよろしいですね」



口の減らない秘書だ。



一理あるから言い返せないのが悔しい。

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